プロローグ え、楽な人生にできるんですか?
なぜこんな生活をしているんだろう。
「んあ……今何時だ?」
自宅の机で目を覚ました俺の名前は南優太。疲れた会社の犬だ。
現時刻午前5時。徹夜で持ち帰った仕事を片付けている内にどうやら眠ってしまっていたらしい。
まだ覚醒しきっていない頭で目の前のほぼ手付かずの課題を見る。ノルマ不達成確実だ。畜生、また良く分からん事しか言わん上司に怒鳴られる。
ため息を吐いてそのまま皺だらけの布団に倒れこむ。
どうせ間に合わないんだ。今からやっても無駄だろう。なら、余った時間横にでもなってた方が建設的だ。
そう自分に言い聞かせて、思考の波に沈む。
なんでこんな人生を送っているんだろう。
なんでこんなにも人生って難しいんだろう。
なんでこんなにも人生って俺に厳しいんだろう。
ああ、もっと優しい世界に生まれたかったな。
――生まれ変わっちゃえば?――
「なんだ今の声!?」
突然頭に軽い調子の女性の声が聞こえてきた。
――アタシは神ってことでいいよ。それよりアンタ優しい世界に行きたいんでしょ?行かせてあげるよ――
頭に響く自称神の女の声が俺に衝撃を与えた。
「異世界ですか!?行く行く、行かせてください!」
俺は声を荒げて懇願する。
超常の存在と会話できていることにも興奮しているが、それ以上に夢にまで見た異世界への道に喜びが隠せなかった。
異世界……ネット上で幾度となくあこがれたあの世界へ行けるんだ。うれしくないはずがない。
――アハハ……すごいね。アタシのことも異世界のことも怪しまないんだ?――
確かに神と信用はできないかもしれないが、頭に直接語りかける存在などお目にかかったこともない。そんな存在は俺なんかよりも上位の存在に決まっている。異世界の話だって嘘だったとしても今と違う生活が出来るなら別にいい。
――そっか、いいよ行かせてあげる。すぐに信じない人面倒だから助かったわ。感謝するね――
「あ、いや優しい世界ってところは守ってほしい…です」
ただ異世界にいくだけではハードモードが待ち受けている可能性もある。俺はイージーモードがいいのだ、ここは譲れない。
――うん。もとからそのつもりだよ。君のその願いを聞いて声をかけたんだから――
自称神から本物の神へとランクアップしそうだ。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
あとはそこに転生させてくれるだけでこの人の、いやこの女神の宗教に入れる。
――じゃ準備できたら声かけて。色々あるでしょ?――
「いえ、今すぐお願いします!」
即決だった。元より俺は天涯孤独、友人なんていない身だ。いなくなっても誰も困らないだろう。
むしろ再就職の不安なしに上司から離れられるのはラッキーだ。
――早いね。じゃ早速行こっか。君の世界に似たところは無理だから行先勝手に決めちゃってもいいよね?――
「はい大丈夫です。楽に生きられるならどこでもいいです」
俺が楽に生きられる世界だ。自然と選択肢なんて狭まっているだろう。だからそこは妥協しよう。これから始まるイージーライフのことを考えるとそんな些事は気にならない。
それに優しい世界なんだ。住みやすいところに決まっている。
――うんうん、楽な世界だよ。せいぜい楽しみたまえ――
女神様の声を最後に俺の意識は途絶える。
さっき目覚ましたばっかだけど。