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雷の使い方、間違っていると思います!  作者: 焼かれた魚
雷と神隠し
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噂はやまない

あれから三週間。


つまり、最初の康介失踪から2ヶ月程が経っていた。


その間にも、あの雷が何度か学校付近で落雷し被害は拡大していてもうパニック寸前の状況に陥っている。


集団失踪時程ではないが、細い雷が一週間おきに生徒たちに直撃したのだ。


一時に消える人数は少なかったが、回数が重なると被害者数はあっという間に30人を越えた。


全ての被害者はこの高校の生徒ということから、登校生はみんな怯えている。


度重なる落雷後にはきれいに人が消えているため、科学者の証言により爆薬犯の線は消えた。


しかし、雷にうたれたとしても普通、人は消滅したりなんかしない。


未解決のまま時が過ぎていくだけだった。 





もう何かの呪いではないかと考えるのは、納得できる話だと思う。


ちなみに現在、巷ではこの学校は呪われていると、噂になっているようだ。


あまりの怖さに学校を休んでいる子もいるほどに、それは確実に生徒達の心に巣食い始めている。


来年に入学してくる子供が激減しそうな勢いで、成学高等学校の人気が急降下しているのだそう。


まぁ、そんな事はどうでもいいとして。


日に日に殺伐としていく校内では、口を開く生徒も少なくなって、生徒会の対策も功を成す事は無くなっていった。


しかも、生徒会長の不在はかなりショックが大きいみたいだ。


「もう雰囲気がやばいですね〜。幽霊館って言われてもしっくりきますよ〜」


「お前のその能天気さはどこから来るんだ……」


下校は警備員が取り締まる道のみの使用となっている現在。


仏頂面のおっさん達に見送られるのも落ち着かないけど。


成学高等学校の生徒は外出も控えるように指示され、自由も限られるようになってしまった。


次は自分の番じゃないかと、みんな疑心暗記に陥っているため、明るいうちに下校も許されている異常な事態だ。


かなり滅入ってくるな……これは。


実際、鳴海も口調は元気だが、蓮華たちを心配しすぎてげっそりしている。


かくいう窿太郎も別れ際の悠真たちの、あの笑顔が忘れられず眠りも浅くなっていた。


「あのさ、天野っちって、ドッペルゲンガーって信じます?」


「は?」


下校途中の電車内。


鳴海が降りる駅の一つ手前。


今までだんまりだった鳴海が唐突に尋ねてきたのだ。


「目の前に自分自身の姿を見る『自己像幻視』、幻影だとも言われるそれは本人にしか見えなくて、それを見た人は必ず死ぬ。周りの人も見えるケースがあるが、声をかけても反応することはなく・・・」


「いや、意味は知ってるって。なんで急に?」


いきなり抑揚のない語りに入ったのを訝しみ覗き込むと、ケータイで説明文を読んでいるだけだった。


なんだか、鳴海のマイペースさに脱力してしまうがその変わらなさに安堵も覚える自分もいた。


「それを見たっていう生徒がいるんですよ〜」


「誰を?」


「会長を」


「・・・」


どうしよう。


どう反応していいのかさっぱりわからない。


だから、電車に揺られたまま突っ立っていた。


「ふっふ〜。驚きました?ビビりましたよね?」


ニタニタ笑ってこっちを見てくる。


うん。

むかつくな。


「ふん!」


「いたっ!何するんですか〜。見た生徒、結構いるのに」


デコピンを食らってのけぞる鳴海は、額を押さえて口をとんがらせる。


窿太郎が吊革を持つほど揺れているのに、鳴海のどうでもいいと思えるバランス力素晴らしさを垣間見た。


「茶化すなよ。それに、それってドッペルゲンガーって言うのか?ただの会長似の人か、会長本人かもしれないだろ」


むすっとして半目で睨んでいた鳴海だが、次の瞬間にはけろっとしていた。


相変わらず図太い。


「でも、それが本当だったら、クーちゃん達のそれも存在するかもしれませんよ〜」


「居たって、本人じゃないから意味ないだろ」


「でも、手掛かりにはなりますよね〜」


「手掛かりって、どういう……」


揺れが止まった。


どうやら駅に着いたらしい。


空気の圧縮音とともに扉が開くと、鳴海はひらりとホームへ降りたつ。


すると、ふと振り返ってこちらを指差した。


その口元には、意味深な笑みが浮かんでいる。


なーんか嫌な予感が。


「明日、それを捜索、及び追跡します!」


口から出たのはトンチンカンな発想だった。


突っ込もうとしたが、扉が閉まる音で遮られてしまう。


隊長命令ですから拒否権はないですよ〜、とにやけた顔でぬかす鳴海にイラっとしたが、反応を聞くまでもなく階段を駆け下りていってしまった。


「あんなのが隊長とか、部下がかわいそうだな」


そう口にしてはたと気づく。


あいつの部下って自分のことではないか。


予想外のことが続きため息が自然と出てくる。


が、口端がつり上がっているのを自覚する。


あれから何の痕跡もなくて悠真たちの捜索もできなくなっていた。


我ながら情けないが、言い訳はしない。


それでももう、失くすのは最大級に嫌なことだった。


だから、隊長に付き合ってあげようかね。





翌日。

重苦しい雰囲気のホームルーム後、教室を抜け出して屋上へ直行する。


太陽が雲から顔を出していた。


なんだかんだで、蓮華がいないと静かすぎて不安になるな。


お父さん役の悠真も、どこにいるんだか。


そんなことを柄にもなく考える自分に苦笑いが浮かぶ。


あー、やめだやめだ。


ジメジメ考えるとかいつから俺は真面目ちゃんになったのだ!


楽観的に、客観的に行くと決めたのは自分だ。


割り切るためにいつもみたいに目を閉じると、呼吸が深くなっていくのがわかった。


「んー。やっぱ、天気がいいと気持ちいい」


と1人のびのびしていると、突然扉が盛大に音を立てて開かれる。


向かってくる足音に、無視を決め込むと決めた窿太郎。


だが、窿太郎以上に楽観的に生きている者に適うことは無かった。


「お、やっぱここにいたか!問題児!」


「ふぐっ!」


腹にチョップを食らってくの字に体が曲がる。


底から声が漏れた。


仕掛けたやつを睨むと、そこには口を開けて笑っている皆高が目に入った。


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