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雷の使い方、間違っていると思います!  作者: 焼かれた魚
雷と神隠し
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呼称の使い道

ぐぐぐっ。

タイトルがひらめかない...。



「会長のせいだと言うの!?」


悲鳴にも近い甲高い怒声が、窿太郎のうつらうつらした脳に響く。


おお、キーンってなるからやめて。


閉じていた目を開くと、高嶺先輩が椅子から立ち上がる音が聞こえた。


怒り心頭の彼女に、目を合わせるものは誰もいないだろう。


それよりも、口調が女になっていることに気がついているのだろうか、本人は。


インテリキャラは何処へいった。


教師は教員会議で欠席中。


ここにいるのは、各クラス委員長、生徒会メンバーだ。


と言っても、幾つか空席があるはずだ。


そう、は《・》()なのだ。


窿太郎たち部外者は役員では無いため入れない。


そのため、()()いない。


外にいるのだ。


聞き耳たてて。

つまり、盗み聞きである。


膝立ちで屈んだ窿太郎の上には皆高が、さらにその上には鳴海が乗っている。


重たいんですけど、君たち。


下から覗いた二人の顔は思ったよりも真剣で、会議の会話を一言も聞き漏らすまいと耳を寄せていた。


窿太郎自身、その気持ちは痛いほどわかっていたのでそっと目を逸らすだけで何も言わなかった。


あいつらがどうなったのか、いや、何処へ行ったのか。


気にせずにはいられなかったから。



________________




あの後。


電車内で、窿太郎はひたすら悠真たちに電話をかけていた。


少しして落ち着きを取り戻し、事情を鳴海と皆高にも説明すると、二人も協力してくれたのはありがたい。


だが、みんな圏外か電源を切っているらしく、誰もでない。


折り返しもない。


クラス半分と言っても、20人弱の全員が携帯の電源切ってるなんて、ありえなかった。


生徒が次々に降りていき、電車内も閑散とし始めたところで、未だに残っている高嶺先輩に相談した。


「あらかた、先程の落雷で電波がおかしくなっているのでしょう。そのうち直ると思いますから」


会長がいるから大丈夫。


そう言って取り合ってもらえなかった。


引き返そうにも、暴風のせいで反対車線の電車は運行停止になっている。


結局、何も成す術すべ無く帰宅した。


悠真の両親は近所にいて、昔からの知り合いだったため、家に帰るとすぐに電話で伝えた。


それから何時間経っても、悠真は帰らなかったらしい。


さらに最悪なことに、帰宅完了の連絡が会長のグループだけ回ってこなかったことが、奥様方の連絡網で判明した。


落雷したのが、悠真たちがいた駅のホームに停まっていた電車だったことも。


ホーム内は、炭をぶちまけたような有り様だったことも。


すべてが事後に判明したことだ。


もう遅いと解っていても、あのとき無理にでも電車から降りていたら何かが変わっていたかもという、『もし』を考え後悔する。




そして、警報が解除された翌日から。


学校への苦情、警察の事情聴取、現場の差し押さえ、記事の取材、世間からの批判、テレビニュースの撮影などなど。


騒がしいという言葉など比喩にもならない程の荒れっぷりだ。


現在進行形で。


実際に校舎の窓からは、門前に殺到しているテレビや記者たちが蟻のようにらうじゃうじゃと群がっているのが見える。


『学校側はどういった責任をとるつもりですか!』


『失踪した生徒たちについて聞かせてください!』


『雷が落ちた場所に彼らを放置したと言うのは事実ですか!』


『ねえ、友達がいなくなったとき、君たちは責任を感じなかったのかい?』


『今のお気持ちは?』


そんなくだらないことばかり。


口を開けば、責任、責任、責任。


根拠のない作り話を、嬉々として取り上げる。


そして標的がいれば攻撃し、反論があれば大袈裟に揶揄する。


警察も警察で、同じ質問を繰り返してくる。


まるで、俺たちが嘘を述べているというかのように。


だが警察は依然として、爆薬を使った通り魔が犯人だと断定しているのも一要因だろう。


だが、遺体も肉片も見つかっていないから、行方不明扱いだ。




学校内は世間以上に悲惨なことになっており教師は生徒たちをなだめているが、冷静な者にとってはご機嫌とりにしか見えなかった。


窿太郎たちのクラス担任は例外だが……。




そういうわけで、役員による会議が緊急に開かれた。


取り仕切るのは、欠席している会長の代わりに副生徒会長が行っている。


題は、事件の詳細確認、臨時の役員補充、校内の鎮静化対策、である。


失踪については、窿太郎たちが知っている以上の情報は挙がらなかった。


だが。


「会長が何故かグループを二手に分けていた」


という、一人の発言に高嶺先輩が突っかかった。


それが、高嶺先輩が叫んでいた理由。


思ったことを言っただけだっんだろうが、可哀想に。


高嶺先輩を敵にまわしてしまったのだ。


晴れて、「背信者」の仲間入りというわけだ。


もちろん、窿太郎もそこに入ってるのだが。




_______________



「華、落ち着いて」


「っ。すみません、感情的になりすぎました。ただ、会長に責任を押し付ける発言は、以後慎むように」


副生徒会長の穏やかな口調に冷静になった高嶺先輩は、それでも会長を少しでも批難する輩やからに牽制をかける。


さすがは会長の信者。


だから、会長に文句を言うものは、ことごとく「背信者」認定となる。


盲目的なほど、彼を崇拝してるのだ。


一種の宗教か、洗脳のように。


その陶酔ぶりに生徒会メンバーは苦笑するだけで済んだが、委員長たちは高嶺先輩に恐れて、口を開けなくなっていた。


これでは事実確認すらできなくなる。


無駄足になったな。


そう呟いて、その場を後にした。


後の二つの題は窿太郎たちにとってはどうでもよかったのだ。











「ッチ。あの会計、余計なことを言いやがってぇ!」


「信仰心も行きすぎたらうざいですね~」


「いやいや、もっとオブラートに包もうか」


「あ?何だそれ、うめぇのか?」


「じゃあ、言い換えます。会計さんのお《・》()()で、皆さん静かになりましたね。いや~、さすが成績優秀な方は発言力があります。何もかも会長を慕したう心、感服しましたよ~。これならば、後の題も恙無つつがなく執り行われるでしょうね~」


余計に酷くなってしまった。


要約すると下記の通りだろう。


自分の立場も発言力があるのも忘れて脅しまくったから、委員長たちがビビって事実を一部ねじ曲げたじゃねぇか。後の題も、ビビった委員長たちは会計に促されるまま、どんな発案にも口をつぐんで会計に賛同するだろうな。もう生徒会なんか不安しかねぇよ!


こんなところではないだろうか。


立て板に水とは、まさにこの事である。


この場合は、水は水でも毒入りの濁った水になるが。


小さく拍手をして満面の笑みの割には、口から出てくる言葉がえげつない。


毒しか出てないのだから。


どうやら窿太郎を含め、3人による副生徒会長たちはの信頼は湯葉のように薄い模様。


皆高は鳴海の言葉に皮肉が混ざっているのは解ったようだが、裏の言葉を掴みかねているようで、頭を捻ひねっている。


知らなくていい裏世界もあるという事だ。


皆高にはこれからも純粋素直な心でいてもらおう。




2-4と書かれたプレートが設置されている教室の扉を少しひいて、中を覗く。


廊下では、他の教室から興奮した騒ぎが漏れていたが、ここは沈痛な静けさに包まれている。


恐らく、1-4も3-1も、同じような雰囲気になっているだろう。


半数が空席という、異様な光景。


皆黙っていることも相乗してお通夜のようだ。


それもそうだろう。


頼りになる委員長も、友達も一気に居なくなったのだから。


先生も、どう声をかければいいのか迷っているようで、口を開いてはまた閉じてを繰り返している。


そんな中、普通に帰るのもなんだか違う気がして、窿太郎は思い切って勢いよく扉を開いた。


「たっだいま帰りましたー!」


バーンッ!という突撃に、不意打ちを喰らったかのような驚いた皆の顔が上がり、一斉に視線を向けられる。


なんだか、前にもこんなことがあったような……。


後ろから、戸惑った皆高の声と、バカにした春瀬の笑い声が聞こえるが、まるっと無視だ。


教卓の前に座っている先生の方へと向き、ピシィッと敬礼する。


「教官、屋上や廊下に異常は見られませんでした!」


「誰が教官だ!お前、またサボりに屋上へ行ってただけだろうが!」


「失礼な!巡回ですよ、巡回。鳴海と皆高も居たんだから、そんなことできるわけないでしょう?..……昼寝したかったけど」


「最後、不満げにボソッと呟くな!」


先生が確認するように、鳴海たちを見やると。


それは扉の外ではなく、いつの間にかちゃっかり席についてる2人みて、こちらを怪訝そうに睨んだ。


「お前ら!裏切ったな!」


そもそも、窿太郎が1人で突っ走っただけなのだが自分の事は棚に上げておくようだ。


「えぇー。高ちゃん俺らを疑ってんのかよ。俺と鳴海ちゃんはずーっと教室にいたぜ?なぁ?」


「そうですよ~。天野くん、怒られたくないからって、私たちを巻き込まないでくださいよ~」


こいつら!

芝居がかった仕草までしやがって、ニヤニヤするな!


「らしいぞ?天野」


笑みをうかべる先生。


だが、口の端がピクピク痙攣しており額に青筋が浮かんでいる。


「もっと表情筋鍛えた方がいいと思います、教官」


「ほう、なら俺の教え子なら覚悟は出来ているよなあ?」


「あははー!さぁて、もう一回、巡回でもしてきますかねっ」


わざとらしく準備体操をして腕を伸ばす。


下ろした瞬間、扉めがけてダッシュ。


逃げるが勝ちである。


のだが。


「ぐぇっ」


元剣道部エースの先生から逃げおおせられるわけもなく。


襟首を捕まれ、喉がつまった。


カエルの鳴き声のようなうめきがもれる。


おっ、カエルが捕まりましたね~、などとほざいているやつは楽しそうに腹を抱えて机をバンバン叩いている。


「教師の前で堂々とサボろうとするな!」


「でっ!!」


脳天に鉄拳が降り下ろされた。


鈍い音を響かせ鈍痛が襲いかかる。


彼の鉄拳は結構痛いのだ。


そのままいつもの流れで、生活指導室へとずるずる引きずられて連行される。


教室から鳴海と皆高の笑い声が聞こえる。


「皆さんも、私たちが問題児と一緒にサボっていたことは、内緒にしてくださいね~。」


「おいおい、聞こえてんぞ、コノヤロウ!」


さっきまで呆然とした表情で窿太郎たちの芝居を見ていたクラスメイトは、今となっては鳴海につられて笑っている。


窓の奥から聞こえてきた、カエルが帰った~とかいう台詞に、バカにされている気がするが。


まぁ、いいか。


「引きずられて笑うやつがあるか。..……ま、ありがとうな」


おっと、口許が弛んでいたようだ。


咄嗟に繕って口角をさげる。


……しかし、そんなことより、だ。


先生の背中を見つめる。


照れ臭いのか、こちらを振り返ろうとはしない。


「先生……」


「特別に今日はペナルティ無……」


「おっさんのツンデレは受容ないですよ?」


言った瞬間先生が振り返ったが、その表情は照れなんてものは微塵もなく、ただ真顔だった。


窿太郎の襟をつかんでいない空いている手で、またも脳天を貫かれる。


「痛っったぁぁああ!」


手刀が拳骨よりも痛いって、どういうことだ!


先程の鈍い痛みより、今の鋭い痛みの方が断然耐え難かった。


彼は痛みに暴れる窿太郎を力ずくでズンズン引きずって行く。


誰かの喚きに教室から顔を出した生徒たちが、ああまたか、という呆れ顔で戻っていく。


え、自分の問題児扱いって、他クラスにも認定されてるのか。


成績や美貌では噂にならないが、問題児としての知名度なら誰にも負けないほどの周知であるのが窿太郎であるとは、彼自身まだ知らない。




ドナ〇ナされた窿太郎には、能面とかした先生の手刀を喰らいながら反省文を書かされるという説教が待っていた。

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