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雷の使い方、間違っていると思います!  作者: 焼かれた魚
雷と神隠し
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先輩


鈴堂寺の事件が解決して、数日。


問題児の窿太郎を見下していた教師たちは悔がる者見直す者いろいろいたが、そんなもの知ったことではない。


特に前者の態度は鈴堂寺のそれと同様、もしくはそれ以上に気に入らないものを社会不適合者と見なす。


だが、捨て猫を見るような侮蔑の目で見られるのは慣れている窿太郎にとっては見るに値しない些事であった。




対して、悠真からは会議後にお礼の言葉を受けた。


実はあの時、悠真に責任がいかないかヒヤヒヤしたのが本心だった。


しかし、生徒会室を出て熱が冷めた今となってはどこか小っ恥ずかしくなり、黙っておくことにした。




そして、蓮華からは珍しいことに謝罪があった。


そう、あったにはあったのだが・・・。


「今までバカって言って……悪かったわね」


ここで終わっていたら感動的な瞬間だったに違いない。


きっと、気持ちよく一日を過ごせただろう。


しかし。


「でも、マシな介入の仕方があったでしょう!あんな喧嘩売るような態度でドアを蹴破ってくるなんて!本当、バカじゃないの!」


お詫びという名の貶けなし?であった。


いつも通りの蓮華に安堵しつつも、何故か心に棘が刺さったまま一日を過ごす羽目になってしまった。





暖色の夕日が教室を包み込み、哀愁を漂わせ始めた頃。


ホームルームも終わって、やっとかという思いで帰宅準備をするものの。


「おい、天野。お前今日、日直だから書類と日誌の提出、忘れるなよ」


腰を浮かせたところで、先生に去り際指をさされて忠告されてしまった。


そうだった!


忘れてた!


「あ!日誌書いてない。プリントもまとめてない!」


しまった!


団子三人組を摘発できてこの数日間ホクホクしすぎた。


「その様子じゃ、日直の仕事一つもしてなかったね?㝫」


「ばっかじゃないの!さっさとしなさいよ!」


悠真に苦笑され、蓮に怒鳴られた。


帰りたい。


哀愁漂う時間はこれからのようだ。






鳴海に癖のある字を揶揄され、自由コメント欄に書いた「眠い」が面白くないと書き直させられること数十回。


帰りたい思い一心に仕事を終えた。


これ程相手を笑わせようとするのはとても大変な事かと、お笑い芸人に尊敬の念すら抱く程鳴海の審査は厳しかった。


もともと大阪から引っ越してきたのだから、お笑いに関しては評論家並みの視座であるのも当然と言えた。


笑いのセンスをダメ出しされまくった窿太郎は、絶対にお笑い芸人にはならないことを心に固く誓い、パタンと日誌を閉じる。



疲れた肩をバキボキほぐしながら、教室を出て鍵をかける。


窿太郎の両手には鍵と日誌。


宿題プリントは悠真が。


彼の荷物は竹刀と共に蓮華の手の中。


元気よく先頭を突き進むのは鳴海の仕事。


結局、三人とも窿太郎がすべてを終えるまで待ってくれていたのだ。


いつもの事のように思える顔ぶれだが、あの事件から極力みんなで行動するようになっていた。


そのおかげで特に連絡を取り合うことを意識するようになったわけである。



「まったく、鳴海のせいで集中できなかった」


「わぁ、人のせいですか〜。最低です!天野っちがポヤーっとしているのはいつもの事じゃないですか〜」


「それが俺なの」


「そういうわりには生徒会室で堂々と暴露するなんて、キャラを脱ぎ捨てすぎですよ〜」


「キャラって……。鳴海は俺のことなんだと思ってるんだ」


「えーと、面倒くさがり、サボリ魔、授業中寝てる、鈍感、ニート、ろくでなし、あとは・・・」


「わかった。お前もう喋るな。ていうか、最後のは何だ!ろくでなしはなんか違うだろ!」


一階に横切る廊下の窓からは、赤い夕日が月の淡い光に差し変わるグラデーションが透けている。


もう夜になるのか。


鳴海との口論に負け、蓮華から2人共に苦言を頂戴した廊下を歩きながらぼんやりと外を眺めていると、丁度差し掛かった職員室の扉が勢いよく開いた。


「おう。平野たちか、この前はお疲れ様だったな」


中から出てきて手を挙げたのは水戸先輩だった。


その後方からは、ぞろぞろと大勢の生徒が出てきて最後の一人がピシャリと扉を閉めた。


その顔ぶれに窿太郎達は目を丸くする。


通常なら教師の方から専用部屋へと足を運ぶほどである彼らが、何故職員室にいるのか。


この学校の要である生徒会メンバーが。


学内総会長とも言われる生徒会長、宮寺秀清みやでらしゅうせい先輩。


副会長の水谷彰みずたにあきら先輩。


風紀委員長の水戸先輩。


会計の高嶺華たかねはな先輩。


その補佐、同期の大友直昭おおともなおあき


書記の近藤深鈴こんどうみすず先輩。


庶務は居ないようだが……。



2年である窿太郎たちと同期の大友、庶務担当の内原以外は、全員3年だ。



こちらに気づき水戸先輩のように微笑む者、睨む者、無関心な者、苦笑する者。


それぞれの視線で射抜かれ居心地が悪くなる中、慣れているのか役員である悠真と蓮華は即座に腰を折って挨拶を述べた。


「先輩方、お疲れ様です」


役員になるとこうも堅苦しいのかと眉を顰めた窿太郎を目ざとく見つけた人物が、冷めきった声を浴びせる。


「普段の行動は周りの信頼に関係します。あなたも平野さんや屋久守さんを見習って行動するよう心掛けなさい」


高嶺先輩だった。


絶対零度の視線をこちらに向けてくる。


もしかしなくとも、数日前の会議のことを言っているのだろう。


随分と根に持っているようで、粛然しゅくぜんとした態度を崩さないまでも、威圧感を感じられた。


どうしてこうも、役員を務める女性は恐ろしいのか。


それが、彼女、その周りを見て感じた窿太郎の心からの第一印象であった。


だが、言っていることは正論なのだ。


それを窿太郎自身も理解をしているのだが、直す気はもはやどこかへ行ってしまった。


彼女のように、信仰心を広めようとする世界からサラリと目をそらしてしまうほどには、窿太郎もひねくれているのだ。


目を逸らしたのは後ろめたさからくるものだと思ったのか、勝ち誇ったような笑みを浮かべた先輩には蓮華も怪訝な表情を浮かべたが何も言えなかった。


「挨拶は終わったか、高嶺」


やり取りを見て苦笑を浮かべた水谷先輩は、強面ながらも悠真のような穏やかな性格をしている。


こうして事を荒立てないよう配慮してるれるのだ。


その後ろで近藤先輩は、あたふたしながら仲裁しようとして失敗していた。


ちょっと忙せわしない人である。


大友はまたか、という感じでため息。


苦労人の風貌だ。


だが、その疲れ切った目は窿太郎に向けられておらず高嶺先輩に向いている。


もしかすると、このようないざこざをあらゆる場所で繰り広げていたのだろうか。


敵を作りやすそうなものいいだもんな。


チラリと視線を横にずらすと、宮寺先輩は無言で佇んでいた。


普段から滅多に口を開かないが、表情も薄いため近寄り難い雰囲気がある。


結局、宮寺先輩は、こちらに一瞥をくれただけで出口へと過ぎて行った。


一瞬、鳴海を見たのは気のせいだろうか。


その鳴海は、珍しく険しい顔をしている。


高嶺先輩が駆け足で生徒会長の後を追う。


それを皮切りに残りのメンバーも動き出した。


去り際に水谷先輩から「頑張れよ」と励まされ、大友にポンポンと肩を叩かれた。


何を頑張れと?


そして、大友は何のフォローだ!


ついでに同情のような視線を悠真たちから受けながら、苛立ちを抑えるために天を仰いだ。


「鈴堂寺に関してはお手柄だったぞ。もう少しお前がおとなしかったら、なお良かったが」


笑いながら水戸先輩が言った。


そうですか、あなたたちも問題児扱いですか。


まあ、自覚はしていましたけどね。


爽やかに去っていった水戸先輩が、正門から姿を消すまで背中を見送るほどやるせない時間を持て余していた。




結局、生徒会の用事は分からずじまいのまま、窿太郎たちは鍵と書類を定位置へと置いてそそくさと職員室を後にした。


蓮華が苛立ちを隠せずに興奮してきたからだ。


「なんなの、あの嫌味な女」


案の定、扉を閉めた途端、ストレス発散と言わんばかりに蓮華が吐き捨てた。


この場所は拙いからと、急いで靴を履き替えて正門へ辿り着く。


その間にも、木刀を握りしめるので、余計に迫力があるからやめてくれと心の中で懇願した。


いまにも振り回しそうで危ない。


「おいおい。先輩なんだから……一応」


「そういう㝫も失礼だよね」


「天野っちが失礼なのは、いまに始まったことじゃないですよ〜」


「お前は俺に失礼だな」


正門を抜けると、バス停に向かって道を下る。


あの駄菓子屋があった場所に差し掛かると、自然とみんなの口数が減ってくる。


先程まで憤慨していた蓮華でさえ、静かに歩いた。


まるで、足音すら消そうとするように。




その道は一部、封鎖されていて立ち入り禁止となっているが、そこからでも見える黒く焦げた跡は当時を思い出させる。


ふと、吸い込まれるようにそこへ目を向けると。


人影がうごめいた。


すぐ側の電柱に隠れているのだろう。


フードをかぶっていて顔は見えないが、怪しい。


ふとこちらに気づいて、森続く獣道へと入っていった。


「なあ、あれって・・・。あ、おい!」


誰に問いかけるでもなく口にしたが、反射的に蓮華が影を追って飛び出して行く。



「まったく!」


「あららー、クーちゃん、ちょっとは考えてから行動してくださいよ〜」


窿太郎たちも駆け出して、蓮華を追った。


坂を登って。


角を曲がって。


「うお!あぶねっ」


蓮華が不審者に向かって木刀を振り下ろしたが、躱された挙句に肩を弾かれてこちらに倒れてきたのだ。


慌てて蓮華の肩を支える。


蓮華の剣筋を躱すって、そんなことができる人間居たんだな。


「あれ?」


追いつかれた不審者の動きが止まる。


逃げるか迷っているようだったが突然、鳴海が首を傾かしげた。


「敦子先輩?」


「は?」


「え?」


窿太郎と悠真から素っ頓狂な声が出た。


それも仕方がない。


何を見てそう思ったのか、不思議だったのだ。


蓮華も、目を見開いて鳴海を見つめていた。


「む。どうしてわかったんだ?」


不審者がフードを後ろへと落とすと、焦げ茶色のポニーテールがパサリと肩口まで落ちる。


キリッとした眉の上で切りそろえられた前髪がはらりと揺れて切れ長の目が見えた。


シャープな輪郭が凛々しさを際立たせていて、大人の女性感が溢れ出ている。


女性だったこか。


てっきり不審者の男かと思って。


しかも先輩である。


「やっぱり!その無駄のない身のこなしと、構え方、そして何より美しくバランスのとれた筋肉!ゆるい服を着ていてもわかりますよ!」


鳴海ほおを紅潮させながら鼻息荒くまくし立てる。


ああ忘れていた。


鳴海は筋肉フェチだった。


その勢いに敦子先輩も若干タジタジである。


「それに、そのパーカー。うちの学校のボクシング部が着ているものですよね〜」


「あ、言われてみれば」


「確かにな」


今気がついた。


一見普通のパーカーに見えるが、拳のマークが右肩にプリントされている。



「ところで、こんなところで何をしていたんですか?」


「うむ。何か手がかりがないかと思ってな」


「手がかり?何の?」


悠真の質問に律儀に答えてくれた。

だが、敦子先輩はボクシング部員だ。


しかもあいつの指導をしていたらしい。


気づかない廉価は聞き返していたが。


「康介の、か・・・」


「・・・ああ」


先輩は、悲しそうに少し目を伏せた。


康介を気に入っていたのか。

あいつの自主練も付き合っていたっていうし。


「でも、あんな格好、不審者かと思ったじゃない」


「はは、悪かったな。だが、生徒があそこらへんをウロウロしていると生徒会にバレたら厄介でな」


「ああ、なるほど」


「特に会計さんに知られたら、面倒ですよね〜」


鳴海の言葉に、みんな無言で肯定した。


即座に、絶対零度の対応でネチネチと責められる未来図が思い浮かんだからだ。


「敦子先輩も、不審者と間違われるからそういう格好は控えたほうがいいのでは?」


「ああ、そうだな。次からは気をつけるよ」


「康介、早く見つかるといいですよね」


「・・・ああ」


「あの〜、敦子先輩も私たちと一緒に、康介っち探します?」


「え?」


空気がどんよりしてきたところに、鳴海が発言したことで、先輩の顔がガバッと上がった。


「あー、俺たち、放課後に周囲とかで聞き込みしてるんですよ」


「そうなのか?」


「ええ。じっとしてもいられないし。性に合わないわ」


「それはお前だけだけどな・・・って、どうどう。落ち着け」


「いいのか?」


「はい。先輩がいてくれると心強いですし」


窿太郎が蓮華に斬られそうになっているのには目もくれないで、会話はどんどん進んでいく。


「それに、先輩の筋肉を毎日拝められるなんて!最高の目の保養です!」


「お前は筋肉が見たいだけだろ。あんなもののどこが保養だ、ただの細胞の塊・・・ぐっ!」


鳴海からの的確な鳩尾への鉄拳が繰り出される。


その衝撃で前のめりになったところに、隙をついた蓮華による一撃が入った。


完璧な連携プレーに窿太郎は、どさりと倒れ込む。


蓮華はともかく、鳴海は滅多にキレないのだが、筋肉を侮辱するといけないようだ。


「・・・いつもこうなのか?」


ピクピクしている足元の窿太郎に若干の憐れみ、そして引いた目をしながらも、先輩が躊躇いがちに聞いてきた。


「・・・ええ、まあ」


それに苦笑して答える悠真。


いつも以上の仕打ちを目の当たりにして、女は怒らせてはいけないのだと悟ったようだ。


何よりである。


こっちとしても、もう少し早く教えて欲しかったな。




康介の探索に加わった敦子先輩は今日は帰宅し、後日、再集合することにした。


ちなみに、家の風呂場で鳴海と蓮華に攻撃を喰らった箇所を見ると、痛々しい痣が腹部を侵蝕していた。


内臓、大丈夫かな。

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