ご対面
グロ注意です。目玉とか、ネ。
息が苦しい。
動悸が止まらない。
緊張で手が震えた。
生きてるか…?
以前はあれだけ生死なんかどうでもいいと思っていたのに。今は生きていることに安堵する。
「ハハッ。厳禁なやつだよな、俺…」
背後でしまった金の扉を一瞥してため息をつく。それに呼応するように次の扉が開いた。
あー。
はいはい、進めと。
行きますよ、少々お待ちを!!
「よい、っしょ!!」
あ、これがおっさんみたいって言われる理由なのか!?
㝫太郎の足は、未だにあの吸い込まれそうな恐怖ですくんでいるが、何とか押し殺して立ち上がる。
足を引きずりながら向かっていると、何と、その扉がひとりでに閉まり始めた。
これは、やばいのでは?
…え、閉じたら閉じ込められるよね!?
止まる気配のない扉。
慌てて駆け込む。
体を滑り込ませると同時に後ろの扉が閉まる音がした。
短い通路でよかった。
㝫太郎がホッと一息ついていると、その息音が周りに反響していることに気がついた。
周りは薄暗く、壁はゴツゴツしていて音一つ一つにこだまする。
もしここがダンジョンだったとしても、エリアごとのジャンルがコロコロ変わりすぎな気もするのだが。
んー。
ダンジョンってこういうものなのかな?
まあ……いっか。
創造者の好みってことで!
早々に思考を放棄した窿太郎は、距離感を掴むために周りをうろつき始める。
さて、ここが洞窟ってなると、次の魔物もそれにちなんだコウモリとかかな?
あんな面倒臭い技を使ってくるコウモリはもう勘弁だけどね。
少し蒸し暑い中、袖をまくりグローブをはめ直す。
洞窟ってこんなに暑いものか?
寒いものだとばっかり思ってたが、こういうところもあるんだろうか。
「マグマとか近くにないよね…?」
槍で床先をカンカン確かめて進もう。
しかし、途中でその音がガウッとういう唸り声に変わった。
瞬時に体を止める。
しんっと静寂に包まれた。
再びうなり声が四方から響く。
心臓がドクリと打った。
痛いくらいに血が巡る。
…どこから?
いつ襲い掛かられてもおかしくない状況で唐突に背後から音源が聞こえる。
はっきりと。
㝫太郎が音を立てずに振り返ると、暗闇の中で二つ目がキラリと浮かび上がった。
そして次々とその後ろに小さい提灯のように目が灯っていく。
3、4、5、6、……15………。
………。
もう面倒臭い!
とりあえず逃げる!!!
足を引き、体を反転して即座に走る。
これは多すぎでしょ!?
ゴゴゴゴという迫り来る音を背後に感じながら先へ全速力で疾走する。
何で走るだけで地鳴りがするんですかっ!???
「ぬあぁぁっぁ!」
死に物狂いとはこれまさに。
どれだけ走ったのか、足が重くなってきた。
と、思っていた途端、目の前に扉が暗闇の中で浮かんでいるのを見た。
「扉!?」
何で洞窟に扉があるんだっ。
しかも金粉みたいな頑丈そうな金属製って……。
ダンジョンだからとかそんなんどうでもいい!
常識が通用しないのが今はありがたかった。
体当たりをするようにノブを回せば、すぐ開いた思い扉に体をねじ込ませて後ろで扉を閉める。
その際に雷を流すと、金扉に触れた狼が感電して離れていく声を聞く。
次第に足音が静かに離れていく気配がした。
㝫太郎は安堵の息を吐く。
しかし、今度は前方からガルルルッという鳴き声を感じた。
そう、感じたのだ。
息のような、生暖かい風とともに。
でもこれは背後の物なんかとは比べ物にならない。
空気が揺れる。
肌がビリビリと反応した。
同時にゾッとする悪寒が㝫太郎の背筋を駆け巡る。
「次から次へと……今度はなん、………………だ…」
あんぐりと開けた口が閉まらない。
鱗。
でんっと見えたのは巨大な鱗が何枚も連なった巨大な体。
ずずずっと上を見上げると、つるつるとした鱗を顔いっぱいに覆ったモノがあった。
むしろそこが一番頑丈じゃないかというくらい分厚い鎧を纏った巨大な龍が首をもたげていたのだ。
「あれ、俺いつのまに夢見てたんだろう」
現実逃避に、思わず目をこすってみるけど分厚いグローブでまぶたを傷つけただけで何も景色は変わらなかった。
フシューって言ってますけど……。
ちょっ……でかくないか!?
頭を低くしてこちらを睨んでいるがそれだけでも5メートル以上はありますよねっ!?
のっそりした気分でこちらを見ていたのが的と判断されたのか、竜がカパッと口を開ける。
え、食われる?
…と思ってたら、何故か喉に火玉が現れ、それがどんどん大きくなっていく。
まさか、火を吹くとか言わないですよね………って、吐いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
とっさに横っ飛びで回避する。
が、熱が勝ったのか肌が出ていた足首と片腕を火傷する。
皮膚下の肉が痛みを訴えて顔をしかめた。
火傷は冷や水をかけろと昔から教えられていたので即座に水を頭からかぶるように出現させたいが、生憎と、電気を流して感覚を麻痺させることしか出来なかった。
あ、もしかして洞窟が蒸し暑かったのって、マグマじゃなくてこいつのせいか……。
とにかくあっつい。
のそり、と竜が体を動かす。
一歩、そいつが踏み出すだけで地震並みの揺れで足元がおぼつかなくなる。
しゃがんでそれが過ぎるのを耐えているだけで目の前の敵は次の攻撃手段を行使している、というなんとも理不尽な体格差がここに出てきている。
槍で体を支えながらなんとか立ってはいるものの、動作が遅れるぶん火傷や傷がどんどん増えていく。
「グオォォォォォ!!」
「げっ、普通に魔法も使うのか、それあり!?」
そう、奴は魔法を自由に操る。
ダンジョンの魔物だし、当然と言えば当然か!
でも、ブレスだけじゃなくって、普通にファイヤーボール的なものとかだけでなく、火の雨とか炎の竜巻とか斬新なアイデアが出てくる出てくる。
火と風しか使えないようだがそれでも想像力豊かですね!?
未だに俺は4大魔法も行使できないのに!!
これぞチートじゃないか!
ぜひくださいっ!
……ってそんな場合じゃない!!
いや、欲しいけどさ!
そう言っている間に、熱風が迫ってきてその半端ではない温度で自分が焼ける。
目がやられかけた。
火と雷の相性などわからないが、威力や経験値的に火の方が強いため対抗できる気がしない。
雷で壁伝いに感電させようとしても金属ががありません。
というわけで小細工は使えない。
竜が首を上から下へ振ると火の雨が頭上から降り注ぐ。
ちょっと、熱っつ!!
さらに後ろへ飛びのいて距離を取り続けているが、反撃に近づこうとすると火の竜巻に阻まれる。
俯瞰視点で鋭い金色の目が冷静に俺を観察しているのが見て取れた。
どうやら動きが全部見えているようだ。
目があうとバカにしたようにフンッと鼻で笑われた。
に、人間臭い……。
んんー、雷が効かない…。
雷効かないって相当じゃないか?
鱗には雷は効かんのか……。
ようわからん。
「っく」
熱い、あぶなっ!
転がるたびに皮膚がただれて痛む。
いい加減、鬱陶しくなってきた火の雨やら竜巻に八つ当たり混じりで雷を打つ。
窿太郎が撃てるのは雷属性のみだ。
これ以外は、槍を使うしかない。
肉弾戦は絶望的なんだけどなぁ。
あぁ、今更か。
雷はあまり人は干渉しないからどうなるかわからなかったが、デカい雷を一本に圧縮するイメージで魔力純度を上げた白い雷が火の竜巻を貫通して竜の鱗へと直撃した。
その途端、竜の態度が変化した。
驚いたのか魔法を当てられたことに怒ったのか、咆哮を上げながら背の翼を最大まで引き延ばしてグワァッと空気を煽る。
それだけで風の壁に突き飛ばされた感覚になり、気がついたら窿太郎は扉へと叩きつけられていた。
「がっ!?げほっ、ちょっ、まっ!!」
何度も竜が翼をはためかせるうちに、その風がかまいたちとなって壁へ傷跡を残す。
空気が目に見えているのか、なんとなくそこが歪んで見えるくらい鋭くなった風はランダムに迫り来る。
隙なんてない。
避けても。
かわしても。
壁をつたうように。
跳びのき続けても。
「ぐっ!痛っぁぁぁあ!!」
㝫太郎の肩や腕、足を抉るまで止むことはなかった。
膝をついた瞬間。
再度翼を翻す音を聞く。
走った。
走る。
背後の壁が崩れる。
マシンガンを連射しているみたいに傷跡が後ろから迫ってくる。
止まるな。
止まるな。
本気で死ぬ。
振り返るな。
足が竦む。
距離が近い。
当たるっ!!
咄嗟に槍を竜の方角へ突き出し、その先から雷を散弾させる。
さらにその直後、その間を縫うような感覚で流すと雷の蜘蛛の巣が出来上がった。
それぞれが引き合って光の壁が見える。
そこに風が当たった瞬間にバチィィッと音がして弾けた。
おっ、なんだ、弾けるのか。
早くやっておけばよかっ、た……?
「グォアアアアア!!!!」
「いっ!?」
怒り狂った竜が首をぶんぶん振って地団駄を踏んでいた。
ほんと人間みたいなリアクションですけど、大丈夫?
って、火の玉飛んできたぁぁぁ!
雷で弾くことができることができると知った今では、火の玉なんのその。
それが純度の高い青白い火に変わっていたとしても、なんとか弾くことができた。
が、かけらが無数に飛び散ったため、むやみに動くことができなくなる。
雷の純度も上げれば霧散できるのかな。
さて、竜の砲撃の対策もできたことだし、反撃と行きますか!
怒りに任せて火と竜巻を連発してくる竜の攻撃を直前に雷で弾きながら前方へ駆け出す。
空中で火花を散らし、衝撃音が頭上で弾ける。
その拍子に光で視界が埋め尽くされるが、それももう慣れた。
自分の魔法にいちいちビビってたら進めない。
近づくたびに竜の鱗が鮮明に見えてくる。
一つ一つの鱗が自分の半分の身長ほどにある馬鹿でかさに内心驚いた。
まさかここまで大きいとは思ってなかったのだ。
槍を投げれば届くような距離まできた瞬間、竜自体から熱気が吹き荒れてくる。
一瞬勢いよく熱風の厚壁が肌を叩いたと思ったら、目の前には鱗の壁が迫った。
「よっ!!」
地面を蹴りながら足元に魔法を踏み台として出現させる。
常々疑問に思っていた重力の小ささがここで役だったのかもしれない。
なんとか足先すれすれ下に竜の尻尾が過ぎていった。
棘が地面を抉りながらギギギギと止まる。
凸凹の足場に降り立つ時には巨大な爪が肩をかすっていた。
小さいとは言えない傷に顔を歪める。
「ぐぁっ!?……いてて、竜のくせに速いな…」
右肩が熱い。
腕へつつたう血の粘りが気持ち悪いが、魔法で麻痺させれば動きに支障はないようだ。
暑さによる汗と血の巡りがよくなり、血が止まらず、さらにその危機で脂汗が止まらないという悪循環。
その最中も動き回っているから、汗が傷に入ると鋭い痛みが走る。
「うっ」
㝫太郎は顔をしかめる。
もうしかめ過ぎて眉毛の端がピクピクするんだが……。
竜は近づくと尻尾と体を使った攻撃が多くなるのか。
骨は守りつつ、肉を断ちながら進んでいく。
身体中がヒリヒリする。
尻尾が自身の身長以上に大きさがあるのは結構しんどい。
「っ!!あっぶない!!」
尻尾で突きとか用途間違ってないですか!?
「え?」
交わす時に反射で腕を顔の位置まで持ってきた。
その時尻尾に腕が触れたんだが、その部分が焼けたのだ。
摩擦かなとも思ったけど、擦れたのなら血も出てるはずだし、弾いただけだから触れただけになる。
「ちょっ!だから!尻尾がなんでそんなに俊敏なの!?」
きたと思った反対から即座に反撃がくる。
蛇みたいにうなってたり。
尻尾の遠心力を掛け合わせて回し蹴りみたいな技も繰り出してくるし、こいつ本当竜か!?
そんなアクティブなアクションは竜にそぐわんだろうが!
周りをウロウロしても槍は届かない。
そこで、尻尾をくぐって槍を鱗へと繰り出す。
ガキンッ
「ですよねっ!!!」
見事に弾かれて、しまいには金属同士がぶつかった音に絶望的な硬さを発見してしまった。
どうやって傷をつけろと?
「なら…目とか?」
奴の目を見上げる。
どうやってあそこまでたどり着こうか……。
遥か高みにある展望のようにそびえ立つ長い首から、その先端に位置する目はどう考えても飛んで行ける距離にはなかった。
「いや、重力が軽いこの世界ならあるいは……」
フッシューーーー
馬鹿め、と言わんばかりに鼻息を荒くした竜はこちらを見下ろしてニヤリと笑った。
え、言葉わかる?
「お前、言葉わかるのか?」
「……ガウァ」
「え、まさか!」
「ガァァァァアア!!」
んな都合のいい話はありませんでした!
可愛らしく首をかしげたかと思ったらそこからの首振り攻撃はなしだろ!
会話しようとしてた俺がちょっと恥ずかしいじゃないか!
ジリジリと皮膚が焼け続ける感覚に神経が麻痺しているのか痛みすら薄れてきた。
ちょっと、やばいかな。
かわし続けているとそれだけで体力が奪われる。
「ああもう!登るぞ!」
鱗がダメなら柔らかい目をやってしまえ!
ほぼやけくそで叫んだ後、竜の体へ突進する。
鱗が暑いなんてわかり切ったことだ。
ならその熱さをグローブとブーツでできるだけ遮断しつつ皮膚を電気で麻痺させて、竜の尻尾が振り回されたときを見計らって尻尾へしがみつく。
だが、どうしてもビリビリと痛みが浸透してくる。
焼ける。
「ぐっ」
繊維の焼け焦げる匂いが立ち上る。
尻尾が振り回される遠心力で飛ばされそうになるがなんとかしがみついていた。
体の真上に来たとき、飛び降りて背中の上に着地する。
変な感覚なのか、不快そうに竜が暴れ始めた。
「うぉ!揺れる」
なんだか自分がバーベキューの肉になった気分で焼かれ続けながら、落とされないようににじりにじり上り詰める。
首はやばいな、一番揺れる。
「ちょっ、そんな回されたら酔うから!!」
グリングリンと音が出そうなほど回っている首から足が離れる。
ほぼ腕の力で登れと?
まぁ登るけどさっ!!!
槍を鱗の間に挟んでそれをテコにしながら登っていく。
やっとこさ頭にたどり着いたとき、足が滑ってとっさに髭をつかんだ。
つかんでしまった。
引っこ抜く勢いでぶら下がると竜が口を大きく開いて大きく暴れる。
ドシンバタンと馬が暴れるみたいに跳ねるけど、やっぱ痛いですよね!?
それでも引っこ抜けない髭は丈夫だと思います。
そして暴れた拍子に㝫太郎の体が奴の頭上へと飛ばされた。
「あ」
このまま落ちれば竜の目。
そう、呆然と思ったらいつのまにか手を離していた。
そして竜と目が合いながら落ちていく。
竜が口を開けて窿太郎を飲み込むつもりのようだが、その瞬間。
鼻っつらを槍の柄で弾き、それを支えに体を竜の目の前へと持っていく。
なんだかスローモーションに感じる空間の中、体が自然と動いていた。
感覚のない腕を振り上げ両手で槍を構える。
着地と同時に振り下ろした先にはやはり目が合った。
グジュリっ
湿った音と潰れる音が同時に響いた。
一瞬竜が口を半開きにしたまま、ピタッと動きを止める。
ズブッと音がして槍の半分まで沈んだ頃、竜が我に返った様に叫んだ。
「グオぁぁぁアアアアアアア!!!」
「ばっ!ちょっ、急に暴れるな!」
余計にえぐれちゃうから!!
そう、耳をつんざく叫び声をあげながら暴れまわったら目に刺さった槍が余計にえぐってしまうのだ。
頭を振られる。
俺は槍にしがみつく。
遠心力で槍が目をグリグリする。
余計に暴れる。
振り回される。
さらにえぐれる。
悪循環がひどい!!
さすがに腕が千切られそうになり爪での攻撃が激しくなって来た。
もう槍も抜けない。
深く刺さりすぎた。
……ならもう取るか…。
え、なにを?
もちろん、竜の目を。
ギチギチギチという軋む音がした後、槍をテコの原理で目の縁を支えにしながら柄を思いっきり下へ押しす。
するとブチッという何かがちぎれる音がした。
「ギャアォォォオオオオ!!!」
「わぁあ!」
目玉が繰り抜けて支えを無くした㝫太郎は落っこちる。
さすがの高さに足がビキっと音を立てたが痛みは感じない。
あれ、本格的にやばいかもしれない。
「おおお!?」
だがゆっくりしている暇なんて全くなく。
暴れている竜が見境なく火を吹いているからどこに飛び火するかわからない。
気温が徐々に上昇しているこの密閉空間で俺の皮膚はもう真っ赤になっていた。
頭から湯気とか出ているんじゃないだろうか。
汗が目に入るのを服で拭う。
槍についたままだった目玉を足で抑えて引き抜く。
どろっとした粘膜が刀身に張り付いたままだが、拭うものなんてないですね。
金色だった目は霞んで輝きを失っている。
灰色みたいに一瞬で劣化した目玉は地面に伸びていた。
頭をブンブン振り回して痛みを軽減させようとしているのか、竜の動きが定まらない。
後もう一個なんだが、また警戒心が上がっているだろう。
次は難しいかもしれない。
また目が合う。
すると、竜はこちらを見据えたまま動きを停止した。
ん?これってなんかやばい様な……。
仇を見つけた様な恨みのこもった目線で射抜かれる。
咆哮で少し後退させられた。
距離が離れたことで攻撃しやすくなったのか噛みつきが来る。
とっさに横飛びした後ろでガチんと歯が鳴った。
音がやばいです!
ギロチンか!!
手負いの獣ほど恐ろしいものはない。
それを痛感したのが今。
素早い動きで羽をばたつかせ、転がされた片足を踏み抜かれた。
「あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁ!!!!」
骨の砕ける音と肉の潰れる音が体に響く。
膝から下が竜の体重で潰されたのだ。
抜けるはずもない。
脳まで直撃する鈍痛に目を見開いて自然と発狂が口から漏れる。
地面に磔にされた状態ではなすすべもなく次に歯列が目の前に迫った。
肩を砕かれた拍子に反対側の腕で口内を縦に突き刺す。
柄を垂直にして閉じようとした口を抑えた。
あの鎧が持っていた槍だ。
そう簡単には砕くことなんてできないだろう。
顎の力で砕こうとする竜の目がギラギラ光っている。
㝫太郎も睨み返してどちらが持ちこたえるかの忍耐勝負だ。
「イギギギギっ。痛いって、言ってんだろぉぉぉおお!!」
槍から口の傷、その内部へと感電させる様に雷を極限まで打ち込んだ。
「ググググ、ガァッァア!」
筋肉が緊張したことで動きが固まったのかしばらく眉を顰めて動かなかったが、断続的に打ち込むと仰け反りフラフラと沈んでいった。
「はぁ、はぁ、はぁっ。ぐあっ」
寝そべったまま天を見上げる。
全身が痛い。
焼ける。
火にあぶられているみたいな感覚に食いしばっていないと発狂しそうだった。
竜はまだ生きているみたいだけど立てないほどに力が弱まっている様だ。
ところどころ鱗の間から血が噴き出している。
心臓に負荷がかかったのか地まで吐き出している様だ。
それでも敵を排除しようとする姿勢がまさに獣らしい。
㝫太郎も槍を支えにしながらなんとか立ち上がる。
片足はもう使い物にならない。
だが後一撃なら大丈夫。
ガチガチと歯を鳴らして、自分を食おうとしている意識が伝わって来るが、もう何も感じない。
あとは作業みたいなものだった。
脚を引きずって。
もう片方の目玉を突き刺し魔法を流し込む。
「ギャオオオァァァッァアア!!アァァ…ア”ぁ」
さすがの竜でも脳みそが焼き切れれば心臓も止まると思った。
次第に悲鳴もしぼんでいって、あとは目の光が失われるのを待つ。
シンと水を打ったように静まり返った室内は㝫太郎の息遣いだけがこもっていた。