表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷の使い方、間違っていると思います!  作者: 焼かれた魚
雷と神隠し
4/45

窮鼠猫を噛むは、藪から蛇

バンッ!


「しっつれいしまーっす!」


生徒会用のどんな教師つより荘厳な観音開きである扉を勢いよく開く。


中にいた全員が豆鉄砲を喰らったように目をひんむいている瞬間をしっかりを目に焼き付ける。


しかし、さすがは生徒会。

立て直す速さも伊達ではなかった。


静まった空間の中、痛いくらいの視線が突き刺さる。


その中に蓮華もいた。もちろん、悠真もいるが彼は思案げにこちらを伺っている。


それが物理的な攻撃と化しそうな雰囲気の中でも、霳太郎はそのおちゃらけた態度を崩すことはない。


おうおう、陰険な空気が漂ってましたよー。


そんな態度の霳太郎を見て、教師はより一層いきり立っている。



扉から差し込む光を背にした霳太郎の目の前には、コの字の空いている部分を扉側に向けた形に長机が配置されている。


扉側から順に、クラス委員長、各学年委員長、担任教師。そして扉の真正面、丁度霳太郎と向き合っているのが生徒副会長、会計、そして生徒会長。


自分の後ろには団子三兄弟。三人とも肩や足、頭などをさすっているだけでビクビクしている。


霳太郎は今まで生徒会に参加したことは一度たりともなかったが、この席の配置に苦笑いを隠すことができなかった。


何しろ、教師よりも生徒である生徒会の方が上だと暗に示しているのだから。


そのためか、階級制度の貴族のお茶会に紛れ込んだ貧困民のような妙な感覚に陥った。





それほど生徒会の彼らは堂々たるもので、生徒会長なんかは霳太郎が入って来た瞬間にも表情を変えなかった。


化け物だという話は本当のように思えた頃、ある教師が両手を机に叩きつけて喚いた。


「おい、サボリ魔が何をしている!会議中だ!出ていきなさい!」


いやいや、その会議に重要な話を持って来たのですが。


それにしても、名前も知らない先生にまでサボリ魔扱いされるとは。


しかし、他の担任達も同意のようで、口を開く前にきつく睨まれてしまった。



それより...。


屋久守さん、その木刀を持った手を下ろそうか。

怖いから。


たぶんその一撃喰らったら死んじゃうよ?


悠真は、蓮華の殺気を感じてこちらに苦笑いを送ってきた。


タイミングよく、その悠真に目線を合わせながら答える。


「いえね、我がクラスの委員長が困ってると聞いて、ちょっと加勢に来たんですよ」


すると、悠真の苦笑いが不敵な笑みに変わった。


お前、また何かやらかす気だな、と。


失礼な!そんなにトラブルメーカーではない!



しかし、頭の中で突っ込みを入れた霳太郎に返ってきた言葉は、驚くほどに無機質なものだった。


「部外者に発言権はありません。退出してください」


「部外者ですかー。むしろ当事者だと思うのですが。生徒会会計の高嶺たかね先輩。俺は、クラス会長の疑いを晴らしに来た、と言ったんですよ?ハハッ。証拠もなしに来るわけないじゃ無いですか。あの根も葉もないニュース報道についてお知らせしたいことがありましてね」


霳太郎が会議の実態を皮肉って肩をすくめると、彼女の眼鏡の奥に潜む黒目が猫のように鋭くなった。獲物を睨むように。どうやって仕留めるか考える捕食者のように。


そう、イラついているがゆえに獲物を仕留める方法を考え黙るのだ。


相手を怒らせた方がこういう時はやりやすい。


先入観を砕かれた時に、それが嘘だとわかった無防備な態勢に真実をねじ込むほうが受け入れてくれやすいから。


だが、今回の標的は生徒会の先輩方ではなく、教師や生徒の方だった。


それにいち早く応答したのが彼女というだけのことだ。


「いい加減にしなさい、霳!」


俺たちが睨みあっていると、いきなり怒声が飛んできた。声の主の近くにいたものはビクッと肩を跳ね上がらせている。それほどまでにその声は棘を含んでいたから。


蓮華だ。


扉から見て右奥から三番目に座っていた蓮華が、髪を揺らしながらつかつかと霳太郎めがけて歩いてくる。


木刀を握りしめながら。


それは予想していなかった霳太郎が若干引きつった笑顔で後ずさる。


「ええっと・・・。ちょっと落ち着こうか、屋久守さん」


んん?なぜだろう。


蓮の後ろに般若の顔が見える。

いつもは見えない試合用の覇気に首筋から冷や汗が伝う。


両手でストップ!というジェスチャーをしてみたが、効果はないようだ。


「なにを、どうやって、どうして、落ち着かなければ、いけないの、かしらっ!」


「うおっっ!」


蓮華が最後の一歩と同時に木刀を斜め斬りの要領で瞬時に振り下ろす。


あっぶな!!!


かろうじて右足に全体重をのせて体を傾かせ、その勢いで後ろに後退できた。


「っと。おいっ!当たったらどうするんだ!」


「当てるつもりで斬ったのよ!なんで避けるの!あんたが乱入してきたら悠真がさらに責任を問われるのがわからないの?!」


蓮華の表情は沈痛なものだった。

あの事件以来の会議はよほど酷かったのだろう。


凛とした態度を崩さない蓮華でさえ、こんな顔をするほど追求があったはずだ。


それに、彼女は「さらに責任を問われる」と言った。


これまでにも注意されたことはあったが蓮華がここまで言ったのは初めてだ。




真面目で何でもそつなくこなすエリートの悠真


サボリ魔でいつもやる気のない問題児




この2人が一緒にいるのは教師や委員会からも良く思われていないらしく、霳太郎が何か教師たちの気にくわないことをすると、叱っても聞かない霳太郎の代わりにそのしわ寄せが悠真にいくのだ。


関わるのはやめなさいと。


期待を裏切らないでと。


そのうえ会議の妨害、侮辱的な発言をしたとなると、事が終わったあとに睨まれるのは霳太郎はもちろんのこと、悠真にまで責任がでる。


あんな、ただの噂に振り回されて傷心しきった状況になりながらも会議に参加している悠真に、これ以上責任を問うのか。


そんなことがわからないのかと、彼女は言っているのだ。




もちろん、わかってる。


生徒会が実権を握ってるこの会議では、生徒会長やそれに連なる者が決定すればそれは真実になる、というかなりの歪みっぷりなのだ。


そんな、生徒会役員の機嫌を損ねたら即デッドエンドのような状況でも、そんなことはなから理解している。


そして、霳太郎はその上で今ここにいる。


「俺、そこまで馬鹿じゃないよ?」


少し真顔になって言ってみた。


蓮華は、その顔を見てふざけてここに来たのではないと悟り戸惑うが、納得いかなかったようで、眉を顰めたままその場で佇んでいた。


それもそのはず。


まだここに来た理由、皆に言ってないのだから。


「なら、何でここに来っっ?!」


というわけで、説明しようと思ったが、面倒くさくなったので手っ取り早くいこうと思う。


録音アプリを開いたままの状態の携帯を蓮華の前にずいっと持ち出し発言を遮って、再生ボタンを押した。






――――――――――――


ザザッ


『ほんっと、粘り強いな。さっさと引退しろよあの堅物』


『マジそれな』


『で、でもさ、あれだけ噂ながしとけば、な、なんとかなるんじゃないかな』


『なんとかなるって、悠真を蹴落とすことについて?』


『う、うん。』


『なるほど。あの変な噂はお前らが元凶だったんだ』


『ああ、あいつがいなくなれば副会長である俺が昇格できる。皆なんであいつを贔屓ひいきするのかわからん。どうせ親の影響力かなんかで上に掛け合ったんだろう。卑怯な手を使いやがって。俺の方が...』


――――――――


もう十分だと思える、会話が途切れたその瞬間に停止させる。


そのあとでこいつらをねじふせて引っ張ってきた事実は、バレないことを祈るだけだ。


途中、不快感を表すざわめきが起きたものの、霳太郎が再度ボタンを押すと気まずい沈黙が部屋に行き渡った。


それもそうだろう、あのニュースで流れていた話の出どころが警察ではなく一介の男子高校生3人組の作り上げた噂だったのだから。




コチッコチッコチッ


時計の秒針が誰か何か喋れと、急かしているような焦燥感を感じるのは霳太郎だけだろうか。


誰が最初に発言するのか身構えたその時。


「あれは本音か、鈴堂寺りんどうじ?」


以外にも重々しい空気のを切り裂いたのは、水戸進吾みとしんご、風紀委員長だった。


その怒っているともとれる低音の声と、自分の名前が呼ばれたことに、今まで下を向いて手を握りしめていた団子三兄弟のリーダーは飛び上がった。


「で、でっち上げです。あんなもの!僕はこいつに脅されてっ!」


こちらを指差しながら懸命に逃げ道を探しだす鈴堂寺。

だが、霳太郎は冷めた目でそれを見ているだけで言い返す気も起こらなかった。


そのことに不安を感じたのか、それでもまくし立てようとしたのだが。


「もし、」


鈴堂寺の話を遮り、水戸先輩がゆっくりと口を開く。


「お前たちが天野に脅されたとしよう。それで、何をもって脅されたんだ?刃物でか?暴力か?」


「そ、そうです!暴力ですっ!あとで暴力を振るうって…、僕の、僕の弟にも目をつけるって!そう!言われたんです!」


水戸先輩の視線がこちらを射抜く。


霳太郎は口を開かない。


「そうか。なら、噂を流したのはお前たちではないんだな?」


「違います!!」


「では、誰だと考える?」


「こいつです!天野霳太郎です、絶対に!僕に罪をかぶせようとしたんだ!」


「ほう、天野自身で自身の犯罪を助長する噂を流したと考えるのか」


「え?え、えぇと。あえてですよ!それか他の人を犯罪者に仕立て上げようとしたのかも!本当は何か恨み言があったりしてさ!」


「鈴堂寺はこう言っているが、天野はどう思う」


団子三兄弟が話先が何やら変わったことで勝ち誇った笑みを浮かべているのだが。


霳太郎は、ここまで来るとなんだか自分が無駄な苦労をしたとしか思えない脱力感に苛まれ始めた。


若干、頭痛を覚えて目頭を押さえため息を漏らす。


それは、なぜ、録音をあそこで止めたのかを考えないのか。


わざわざこの場に来てまで大々的にお披露目したのは挽回するチャンスがあるからだとどうして気がつかないのか、理解してくれなかったことに対する落胆と突っ走って自滅する哀れさから来る感情だった。


自分の首を絞めるとはまさにこの事だな、と心の中で苦笑する。


そして、もうどうでもいいやとばかりに先ほどとめた録音をもう一度流した。


途中までは同じ会話だ。

そのことに皆怪訝そうな顔つきになるが、その続きがあったと知って愕然とした表情になるのを霳太郎はみた。



––––––––––––––––––––


『ああ、あいつがいなくなれば副会長である俺が昇格できる。皆なんであいつを贔屓ひいきするのかわからん。どうせ親の影響力かなんかで上に掛け合ったんだろう。卑怯な手を使いやがって。俺の方が...』


『お前、どっから出てきた!』


『あそこだけど』


『そこは立ち入り禁止だろ!』


『あ、そうなのか?知らなかった』


『てめぇ、白々しい』


『そういえば、さっき悠真の話ししてたよな?なんでそこまでしてあいつをやめさせたいんだ?』


『はっ!何を今更!お前らが俺にしたこと忘れてんじゃねぇだろぉな!この俺をコケにしやがって!』


『え。いつの話だ』


『去年の春だ!舐めんな!てめぇらが俺の演説を台無しにしたせいで俺が生徒会には入れなかったんじゃねぇか!そのせいでクラス副委員長止まりだ、クソ野郎!』


『去年の春……って、あ!あれか!入学直後の生徒会選挙!』


『ふんっ。やっと、思い出したか』


『いや、でも俺たち何にもしてないぞ?』


『なっ!?こいつ、俺を笑いものにしたのを忘れたのか!』


『だから、何の話だ』


『漢字の読み間違いを噂に流して俺を笑いものにしただろうがっ!』


『……いや、俺達は誰にもそんな話してないぞ。2人で読み間違いがあることは話してたけど』


『嘘をつくな!噂のでどこはお前らだと当時の聞いてたヤツらが言ってるんだぞ!』


『……それ、なんて言ってたんだ?』


『観念したか。天野と平野が2人で読み間違いを言ってたってな!』


『そいつは、俺らがバカにしてたって言ってたのか?』


『いや……。で、でもそうだろ!読み間違いを指摘するなんてバカにしていたに決まってる』


『じゃぁ、俺らから噂を回してくれって言われたとか言ってんのか、そいつは?』


『だ、だけどそんなの関係ねぇだろ!』


『言ったのか!言ってないのか!?』


『言ってねぇよ!でもそいつから噂になったんだよ!お前らのせいだろうが!』



__________________



「もういい、天野。停めてくれ」


この後もかなりすったもんだを繰り返したのだが、水戸先輩が目を閉じて首を振った。


それを見て、窿太郎は周りを見渡しもう十分だと悟った上で録音を停めた。


ここまで取られていると思っていなかったのか、鈴堂寺は顔から血の気が抜け落ちている。


「あの時、自白していればそれで終わっていたのにな」


厳かに水戸先輩が口を開いた。


分かっていたのだろうか、彼にはこうなることが。



「ぼぼ、ぼ、僕は鈴堂寺くんに無理やり噂を流すように指示されただけです!」


「そ、そうだ!俺達は関係ないっすよ!」


何を思ったのか、後ろに控えていた鈴堂寺の腰巾着が急に無関係を主張し出した。


録音はすでにとれているというのに。


というか、今自白しちゃったじゃん君たち。


仲間の裏切り行為に目を見開いた鈴堂寺は、桜餅のように顔を紅潮させ、激怒した。


そして、口を開きかけたその時。


「うるさいよ」


大きな声で言ったつもりはないだろう。


だが、その声はマイクを通したようによく響き渡り、あらゆるものを抑制した。


全員の視線の先には表情をなくした悠真がいる。


ただ、その目には静かな怒りが燃えたぎっていた。


普段怒ったことのない悠真の豹変ぶりに、鈴堂寺は何に怒っているのかも忘れ、ポカーンと惚けている。


「君たちの言い訳なんてどうでもいい。仲間内で争うのなら後で存分にやれ。それよりも、人を犯罪者扱いした噂を流して楽しかったか?」


誰も答えるものはいない。


殺気とも呼べる鋭い視線を直に受けている鈴堂寺は、いつもと違う雰囲気の悠真に冷や汗を流している。


他の出席者、教師も含めみんなが悠真の豹変に驚く。


実は、ニュースでは4人が容疑者候補だと言っていたが、学校内の噂では、犯罪者と呼ばれていたのは実際には窿太郎だけだった。


なんせ4人のうち3人は人望のある優等生。


無理もない話だとは思うが、鈴堂寺の目論見は中途半端に残ってしまい、どうやら悠真にはそれが許せなかったらしい。


「窿がそんなに邪魔だったかい?ムカつくのは俺だけじゃなかった?アホらしい復讐はこれで終わり?生徒全員を騙して面白かったか?何黙ってる、言葉にしなければ伝わらないぞ・・・?おい!聞いて」


「悠真」


声量を上げだした悠真に、呼び掛ける。


ハッとした悠真は窿太郎の視線で落ち着きを取り戻した。


あぶない、あぶない。


クラスの委員長が一方的に怒鳴り散らすのはマズイのだ。


悠真は自分の失態に顔をしかめるが、イケメンは何をやっても様になるのは少し悔しいところだ。


しっかしまぁ、怒ってますなー、悠真くん。


昔からコイツは変わらない。


自分は何を言われても涼しい顔をしているくせに、友達が悪口を言われただけで激怒する。


あら、自分で友達と言ってしまった!恥ずかしい!


・・・冗談はさておき、それほどいいヤツなのだ。こいつは。



それから10分ほどの教師や役員の質問に、鈴堂寺は言い訳をやめなかったが、とうとうボロを出した。


いや、最初から穴だらけだったが、噂の元凶が自分であることをを認めた。


噂では、彼らの役職は剥奪、以後役員に入ることは許されず、役員を欺こうとしたことで他の生徒から白い目で見られるようになったそうだ。


噂だけどね・・・。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ