迷宮
ビシッガランッ
「なっ!?」
亀裂は鎧を侵食し、ついに頭から胸部の鎧が崩れ落ちる。
そこからのぞいた真の姿に霳太郎は息を飲んだ。
何も、なかった。
そう、鎧の中には何も入っていなかったのだ。
「じゃぁ、本体が鎧、か?」
空洞があっても鎧は動きを止めない。
だが、霳太郎だって止める気は無い!
さらにスピードを上げて突っ込む。
矢で鎧に取り込ませ雷魔法で強化した矢でそこを貫く。
剣はもう片方に作った雷を纏わせた矢で弾いた。
すると、次第に剣にも亀裂が入る。
「いい加減、く、た、ばぁ、れぇぇぇぇ!」
剣での反撃にも我見せず切り傷を身体中に刻む代わりにやを連続で突き刺した。
ビシッパリンッ
残りの鎧がガラスのように砕け散った。
地面に落ちた剣もその衝撃で粉々になる。
あれだけ重かった鎧なのに軽い素材のように割れるのは不思議だが。
やったのだ。
「はぁっ!はぁっ!痛っつ!!はっ」
気がつけば全身血まみれ状態だった。
特に腕が肉が見えるほどえぐれている傷が多く存在している。
腹なんかは打撲痕で埋め尽くされていた。
「ハハッ、服が血で重いな…ゲホッ」
その場で座り込んだ俺は肺から血を絞り出す。
ああ、魔法が使えてよかった。
これ、下手したら死んでたぞ。
いや、今も死にそうなんだけどさ。
「はぁ、…。結局どこだかわからんまま終わった。まぁいいか。ああ、救急キッド無いかなぁ。このままじゃ出血多量で死…………」
ヒュンッ
突然風をきる音が聞こえた。
それはものすごく近くで。
それでいて鋭い刃物の音。
「……え?」
額から何か流れてくる。
汗?
いや、血、だ。
どろっとしたものが手に付着すると次は鋭い痛みが襲ってきた。
額を抑えた瞬間、向こうに見えたありえない情景。
「嘘だろ…。ほんと、勘弁してくれ」
そこに立っていたのは、最初の槍を手にした骸骨だった。
その色が白と紫色で先ほどの鎧を思わせるが、あの中身はなかったはずだ。
なんで立ってる?
しかもその風はなんだ?
骸骨の周りを中心に竜巻が起こっているのだ。
その威力は地面を抉るほど。
「ゲホッ。なんか知らないが、地面抉るの好きだな、お前は!」
立ち上がって瞬時に雷を纏わせた矢をぶん投げる。
しかしそれは風の鎧にはじかれた。
今度は風の鎧かよ。
何度も試したが、結局は弾かれる。
さらに厳重になっている。
そして、一番の厄介な点は。
ガツンっ!!
「ぐっ、速っ!?」
スピードが上がっていたのだ。
踏み込む速さ、槍を振り回す軽さ、どう考えてもさっきとは比べ物にならない。
ってことは、こっちが最終形態ってわけか。
槍の突きは、あれは絶対当たったら即死だ。
薙ですら骨折レベルなのに攻撃も効かないとか。
「勇者以上のチートかよ……あれ、魔法効いた!?」
先ほどはなんどもはじかれていたのに、今更ながら魔法だけが通ったのだ。
まさか、雷だけ効くのだろうか?
【雷は神の魔法っすからね】
…………ちょっと待とうか。
まずさ、今神様の声が聞こえるってなんだ。
「幻聴か?」
確かに神様の魔法である雷で霳太郎たちがこの世界で救われた間違いない。
だが、雷の魔法が神のみが使えるものだって聞いたことがないのですが。
ってそんなこと言ってる場合じゃなかったぁああ!!!!
「ちょっと、考える、暇、くらい、くだ、さい、なっ!!」
知らん、と言わんばかりに軽量化された体を存分にひねりながら小刻みに槍を突き刺してくる。
それをスレスレで回避しながら霳太郎はステップを踏んでいた。
急所を確実に狙ってくる。
だから読みやすい。
と、思ってたのに。
は、速すぎる!
重心が骨中心になったことで体幹がアップしたのが原因なのだろうか。
もう矢も折れていないものなんて少なくなってきた。
あと30本くらいだろうか、今の間にも槍の一閃によりポキポキ折れている。
その度に腕の骨に響くから脂汗が止まらない。
アドレナリンが回っているから大丈夫だろうが一瞬でも気をぬくと手に力が入らなくなりそうだった。
「クッソ、さっきより硬くなってないか!?はぁ、はぁ」
「キキッ」
「笑ってんじゃ、ねぇ!!!」
カタカタと体を揺らして歯を鳴らす様は、まさしく霳太郎をあざ笑っているかのようなしぐさだった。
槍と矢の金属がかち合って甲高い金属音を響かせる。
その度に火花が弾けるのは威力の強さを表していた。
魔法の威力を上げて対峙するも風の防壁に途絶えてしまう。
え、何でだ?
さっき、神様が雷は神の魔法とか言ってたのですが!?
神の魔法って何にでも対抗出来るんじゃないのか!!
「っ!?ぐふっごぼっこほっ」
ヴンという鈍い音が耳音でした。
体を後退する。
片足を引いて反対の肩を仰け反らせるが間に合わず槍の先端が肩に突き刺さった。
そのまま串刺しで手前に引きずられる。
勢いに足がもつれて倒れこむが連結部分がえぐれただけで膝をつくことは許されなかった。
「い”っ!!?がぁぁああ!!」
槍を捻られそのまま体を宙づりにされる。
あまりの痛みに目を見開く。
歯がガチガチと鳴った。
ドロドロした汗と血が混ざって肌を落ちていくのがひどく不快に感じる。
寒い。
末端が冷えているのかあまりうまく動かせない。
息が苦しい。
目の前が霞んできた。
風をまとった骸骨の顔が輪郭線を失いつつある。
ケタケタと愉快そうに骨を鳴らす骸骨に、ぼーっとする頭でもイラつきを感じた。
全身がだるくて力が抜ける。
槍をつかんでいた手がだらりと垂れ下がるが余所事のようだ。
そのまま壁へと叩きつけられる。
「ヵハッ!?」
それでも槍は外れない。
どうやってトドメをさすか逡巡したように首をひねった後、奴はあの剣のようにへ何もない空間から新たな剣を取り出した。
それは先ほどのものと違い少し細いレイピア型のものだ。
ああ、武器無限湧きなのか、こいつは。
あまりの理不尽さに苦笑が漏れる。
奴が剣を振りかぶった。
あ、死ぬな、と客観的な淡々とした感情だった。
恐怖心はない。
でも。
「最後に眠るなら………」
最高級の毛布とベッドの上でって………
「決めてるんだよぉぉぉおおお!!!!!」
「ギ!?」
咆哮とともに雷魔法を全開にする。
相手がひるんだような気がしたけどどうでもいい。
自分の体が発光し周りが明るくなっていく。
バチィィィッという電気音が鳴り響いた。
その直後パァァンッという破裂音も。
明暗の激しさに視界が利かないが、白い骸骨は見える。
霳太郎はその破裂音の後に反射的に槍を引き抜いて雷を纏わせ突っ込んだ。
風の鎧にガキンッとぶつかる。
鉄と鉄の擦れる音が頭を埋め尽くすが歯を食いしばり踏ん張る。
衝撃に弾き飛ばされないように。
さらに踏み込む。
一歩。
全体重を矢へ。
ギャギギギキキキキィィィィッ!!!
骸骨は余裕なのか一拍置いた後槍を振り上げた。
なめてるだろっ、完全に!!
だけど、気がついてないのか。
今少し霳太郎の魔法が通過したのは。
ほんの糸一本ぶんだが、自分の魔法なのだ。
こっちはわかったぞ。
耐久性が高すぎるのも難だな。
余裕をこいていられるのも
「今のうちだぁぁぁぁあああ!!!」
ギギギキキキキィ……パキッ
雷が風を覆う。
視界では一瞬何も見えなくなったが何かの手応えを感じた。
凹んだ感触にさらに力を込める。
あらん限りの力で矢を押し込んでいると槍が振り下ろされた瞬間に気づいた。
反射的に目を瞑りたくなる。
恐怖心を押し込んで目を見開いた。
「はぁぁあああああ!!!」
ビシッ……ガキッ!
槍が目の前に迫る。
視界いっぱいに風のきる絶望が広がる。
今まで使ったことない魔法をはらわたがひっくり返るくらいに引きしぼる。
間に合えぇぇ!!!!
ブオンッ!
パリィィィィィィィンッ!
絶望が視界に染まったまま俺は崩れ落ちた。
結局ここがどこか、わからな、かった、な……。
ブラックアウトした視界の片隅で何かがキラリと光る。
全身の倦怠感に身動ぐが痛みを伴っただけで楽にはならなかった。
重だるい瞼をこじ開けて、体がどうなっているのか確認しようとしたらキラリとしたものが眩しくて目を細める。
あれ…また砂浜にいるのか…?
地べたに転がっている。
顔を横に向けるとサラサラとしたものが見えた。
その中に少し大きい白い魂を見つけた時点で、それはすぐに砂なんかじゃないと察する。
骨だ……。
正確にはあの鎧が骸骨状になった後のかけら。
あの砕けた音はあいつの体の方だったのか。
てっきり結界の風の方だけかと思っていた。
しかし、あれだけの絶望的な状況で無傷のあいつを粉々にできたことに奇跡しか感じない。
リアルなのにゲームをしていた夢でも見ているようだった。
…リアル?
なんか引っかかった感覚がするのだが、それがなんなのかわからない。
モヤモヤする!
結局いくら考えても解消されない違和感に面倒臭くなって思考を打ち切ることにする。
面倒臭いのは嫌なんですよ…。
こんな状況で何言ってんだと思われるだろうけど…。
それより……
「なんで俺は生きてるんだ?」
肩に空いた穴はそのままになっているが血は止まっている。
他の傷もそうだ。
うわぁ……。
痛々しいを通り越して気持ち悪いな、体。
隙間がないほど埋め尽くされた擦り傷や抉られた肉という散々な見た目に眉を下げる。
手をついて起き上がると気を失う前と同じ空間だった。
今なら客観的に見れるけど……これはひどいな…。
壁は穴が開き放題、床板は蜘蛛の巣のようにひび割れて安全な踏み場などなくなっている。
ただひたすらに呆然としていると、周りの蝋燭が大きく揺れた。
反射的にびくりと身構える。
だが、それはただの風だった。
……感覚がおかしくなってるな、自分。
あ、でもどっから吹いてきたんだろうか。
背後の扉は閉まっているし。
と思っていると。
そういえば骸骨が立っていた奥は見えなかったな。
暗闇の奥。
そこを見てみると、そこには馬鹿でかい両門びらきの門が待っていた。
あぁ、なるほど。
先に進め、と言うことか。
霳太郎は手をついて起き上がろうとした。
そこで、手が何かにあたりガランと音を立てたのにハッとした。
あの槍だ。
なんともいえないんだが…。
持って行っていいのか、これ。
……いいか!
持ち手がいないのも槍がかわいそうだしな!
というわけで、槍を杖代わりにして体を支える。
足腰はそんなに悪い方ではなかったんだけど、いかんせん体に力が入らないのだ。
なんとか立ち上がった俺は奥の扉へと向かって杖を向ける。
扉なんていい思い出が全然ないんだが……。
げっそりしてても進まなきゃどうしようもない、か。
部屋の荒れ狂い様に現実逃避しつつフラフラと足を踏み出す。
結局、あの鎧はなんだったのか、もしかしてあの扉を守ってたガーディアン的な?何かなのかな。
にしても強すぎないか?
人間じゃなかったし予想外な魔法の使い方をするし、というか人が来る気配ないし!
ほんと、ここどこだよ……。
パリンッ
「ん?」
杖をカツカツ突いていると、何かの割れる音がした。
今日は破壊音が多いな!
今度はなんだよ!!
また骸骨が復活するとか言わないですよねっ!?
瞬時に振り向くが何にもなってない。
このままにじりにじりと扉へ交代しようと足を引いた時、何かを踏んづけた。
硬くてそ小さなもの。
不思議に思って足元を見ると、そこには一部が損壊した指輪が転がっていた。
もしかしなくても先ほどの割れた音はこの指輪だったのだ。
これ、もしかしてあの骸骨が持ってたのか?
何かの宝か装備品なのか。
拾って見たけどなんの変哲も無い銀製の指輪だ。
内側に文字が彫られているがなんて書いているの読めない。
この国の言葉だろうか。
でも、骸骨が装飾品として指輪つける意味ないよなぁ。
そうだとしたらゾッとするぞ。
まぁいっか。
試しに魔力を流して見る。
「…………」
シン…
何も起きない。
また、魔力を流してみると。
「いっ!?」
ビキンッと体が硬直した。
それは、肺も同時に止まったようで。
「ゲホッ!かハッ」
ゼィゼィと床に崩れ落ちて肩で息をする。
魔力切れ寸前の兆候そのものだった。
ほ、本で調べておいてよかった!
知らなかったら今以上に魔力を使おうとして、最悪死んでたかもしれない。
とにかく、あの骸骨が付けていたこの指輪はどうやら魔道具のようだが、窿太郎の魔力量が足りずに持て余す羽目になる。
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窿太郎は今までの攻防で悪化した部屋に背を向けて実現化現実逃避をし始める。
うん、行こうか。
とりあえず、この服にはポケットがないのでベルト部分に巻きつけていた細いロープをほどき割れた指輪を両端で縛って輪っかを作る。
これを首にかければ完成。
それを、何事も無かったかのように服の内側にしまってまた歩き出す。
あぁ、今すぐベッドにダイブしたい……。
もふもふの羽毛布団と枕を思い浮かべながら扉の先への願望を手に乗せてギギッと押す。
今まで蝋燭のみの光だったため、扉から漏れる蛍光に目を閉じ、手を顔の前へかざした。
明順応だったけか…。
明るさに目が慣れるまで細めでいたのだが、目の前の光景に思わず見開いて閉まった。
「うっ」
目がチカチカする。
真っ白な空間。
今までの不安を払拭するかのような明るさにポカンと口を開ける。
真ん中には、白いレンガに縁取られた学校のグラウンド並みの大きさの堀がデンッと鎮座していた。
その中にはタプタプと水が浮かんでいる。
「え…?
プールですか?」




