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雷の使い方、間違っていると思います!  作者: 焼かれた魚
雷と神隠し
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虚無より現実

『先週おこった成学高校生の失踪事件はいまだに難航していますが、目撃者である彼の友人である同級生4名はけがを負わされ入院。そこから警察は犯人を凶悪な通り魔ととらえ周囲に厳重注意を促しています。地面に残っていた後から犯人は爆薬を使ったと考えられ––––––––––』



「おー。警察もマスコミも表面上しか報道しないんだな」


「それよりも介っち……」


「ああ……」


教室の窓際の列。


後ろから二番目と三番目が霳太郎と鳴海の席だった。


窓に体ごと向けて景色を見ているふりをしながら、こっそり取り出したアイフォンでニュースを再生する。


ニュースの的外れな報道に冷めた気持ちで見ている自分がいた。それもそうか、とどこかで納得して画面をスライドさせる。


これ以上、不快な思いをするのはやめよう。


イヤホンを外した霳太郎の横で、鳴海が今頃なら登校しているはずの康介の机を見て眉を下げる。


そんな彼女を励ます言葉も見つからず平凡な返事を返す事しかできない。


自分の語彙力と機微のなさを恨めしく思うとは。


「ええ、心配です。全く、通り魔さんは何をしているんでしょうか、メガネを落としていくなんて!!これじゃあ康介っちが何にも見えないじゃないですか!今頃何も視界がぼやけて周りがよく見えない恐怖と戦っているはずです!攫うならちゃんとメガネも一緒に攫えってんですっ!」


「お前の心配はそこか!!!」


リスのごとく頰を膨らませてぷりぷり怒っている鳴海に脱力してしまう。


ずれている。


どこかズレている怒りに、語彙力とか言っていた自分が馬鹿らしくなってしまうでは無いか。


だが、メガネが残っているあの光景を思い出してしまい、なんとも言えない感情が胸の辺りでグルグルし始める。


「ほんっと……。なんで消えるんだか……」


「え、何か言いましたか?」


チャイムの音がかぶさって、声は鳴海に届かなかったらしい。


「いや、なんでもない。あ、そう言えば一限目移動教室だったか。早めに行っとこう」


「そうですね〜。周りも煩いことですし」


煩い。


とは、本当にその通りだと心の中で同意した。


学校への道のり、廊下、教室の前を歩くたびにひそひそ聞こえる他生徒の会話や視線は、今回の事件に関わった霳太郎たちへの興味本位、もしくは憐れみを含んでいた。


そんな鬱陶しい程の同情にうんざりしつつも、早く終わらないかなー、などとポケーッと思っていたりする。


ちなみに悠真と蓮華は先に登校しており、朝から姿を見ていない。


クラス兼学年の委員長である悠真、全学年の風紀副委員長の蓮華は全校役員会議に呼ばれていたからだ。


外に面する廊下の窓から外のさわさわしている木を見つめて思う。


大変そうだ。


もはや他人事である霳太郎は、とにかく当事者になることを嫌っていた。


第三者でありたい、そういう欲望から客観的位置を常に保つことに努力を注ぐ自分がまさかこのような事件という大規模な中心に遭遇するのは、もう懲り懲りだった。


だが、朝から苦労している幼馴染の2人のために甘いものでも買って待っておこう、と考えるくらいには冷血ではなかったのである。






日本全国で話題になったこの事件。


名前こそ発表はされていないが学校の生徒にはすぐにわかったはずだ。


事件が起きたのは学校のすぐ近くだから。


噂に飢えている女子や、話題のネタを探していた男子にも、どこから発生したのかもわからない根も葉もない噂があっという間に広まった。


彼を殺害したのは霳太郎たちじゃないか。


暴力団と関わっているのでは。


などなど。


噂には尾ひれ背びれつくものだと理解していたが、これはあまりにも馬鹿馬鹿しいものだった。


高校生が殺人、しかも暴力関係に関わってたのだとしても普段の素行面を見なさいという話だ。


悠真と蓮華は優等生で鳴海も成績トップで教師から評判がある–––––猫かぶりがうまいというのも理由だが––––––。


その生徒が殺人を犯すなら、もっと確実にバレない方法でやるだろう。


もちろんそんなこと考えるまでもないのだが。


問題といえば……。


うーむ、と考えた後で霳太郎は自分の素行を振り返って見た。


不真面目、サボリ魔、テストはイマイチ、教師からの評判は限りなく悪い……。


最悪じゃないか!


んー。


自分に関しては矯正のしようもないけど・・・気にしない!


これを踏まえて噂の矛先が霳太郎に向くことを懸念した悠真たちにこの考えを披露したところ。


呆れられ、竹刀を持った蓮華に追いかけ回されたのを思い出して渋面になってしまった。


だが、噂なんてものはピークが過ぎたら自然と消えていく。


そして古い噂は新しいうわさにかき消される。


それはいつでも、どんなひどい事件でもそうだ。


そうだった。


要は、時間が過ぎればみんなの興奮は冷めるということだ。


それがどれだけの期間必要とするかわからないけれど、世間の興味というものは案外短いものだから。


どうせ、すぐにその件について正義だの責任だのと言った偽善ぶった論争はどこかへ追いやられるのだ。












あれから一週間が過ぎた。


依然として、康介はどこを探しても見つからない。


彼が姿を消す前のことをなにか思い出そうにも、記憶に一部欠損があるため一番重要なところで何があったかわからなかった。


それは4人の不可思議な共通点でもある。





昼休み。

いつものごとくひっそりと屋上の扉を開く。


まだ冷えるが人のいないところなんて、この場所くらいだろう。


入ってきた扉が設置されている梯子も何もない壁を、水道管のような管に足をかけて上へと登る。


学校の中で一番空に近い屋上に出た霳太郎は、コンクリート製の床に背を預けて腕を折り曲げて枕がわりにし目をつぶる。


少し暑いくらいの日差しの強さに、刺すような冷たい風が暑さを拭うように肌を撫でていくのが心地いい。


少し頰が緩むのを感じ、顔を引き締めてあの暗い記憶を整理しようと深く沈んでいく。



–––––––––––一週間前


白い光––––これが何なのかが一番の疑問だ–––––が視界を埋め尽くした後。


強い衝撃が背中から全身へ駆け巡りその反動で麻痺したように動かなくなった。


これは背中から壁か地面へ叩きつけられたからだろう。


次に闇が降りてきたのは目を閉じたから、もしくは視界がまだ異常をきたしていたからか。



とにかく、目を覚ますと目の前にいた幼馴染は何針か縫ったが幸いにもそれ以上の傷を負っていなかった。


病院を退院したのはその翌日だった。

だが霳太郎は少なくとも一週間の入院を強いられた。


その際、学校に行かなくていい!パラダイス!


などと調子に乗ったものだが……結局警察や記者やらがしつこく面会を取り付けてきて、休日を満喫しているどころじゃなかったのだ。


蓮華と鳴海は精神病院に数日間入院することになったらしい。


鳴海は以外にもピンピンしていたが、蓮華と悠真がその責任感から精神の安定を促す薬を飲み続けなければいけない状態が今でも続いている。


話は変わるが。


今朝のニュースの通り、あの事件を警察は爆薬を使った危険度の高い過激な通り魔の仕業だと思っているようだが、俺たちは否定している。


あんな爆薬を使ったのならなぜ死体として発見されない?


大学教授の意見では、あの威力であれば人が介在する間も無く肉片と化してしまうほどのものらしい。


まぁ。手榴弾のようなものだ。

だが血肉などは見ていない。


そして。


『雷が落ちるっていってんだよ。もうちょいで落ちるぞ』


あの老婆の言ってた言葉があの時から頭から離れない。


爆薬もない、不審者でもない、となると残るは雷。


視界が一面白くなったのは雷の光だったからか。

あのあと周りの電子機器類が使い物にならなくなったのも関係があるだろう。


……だが、雷が落ちて人が消えるのか?

そして、なぜあの老婆まで消えた?


あの後駄菓子屋を探してもいなかったのだ。


そもそも、警察の調べでは、あの駄菓子屋はもともと人など住んでいなかった廃墟らしい。


やだ、怖い。軽くホラーなんですけど!


とふざけて叫んだが誰も相手にはしてくれなかった。


それから––––––––





謎が謎を呼ぶ状況の中、金属のガチャリという音で飛び起きる。


「...でさー、あいつらどうする?」


「も、もう少しなんだよなぁ」


「くそっ、何だよあの態度は!?」


聞き慣れた声に眉を寄せ、扉を乱暴に閉める音と同時に下を覗き込んだ。


そこには声と同様に見慣れた顔が並んでいる。


あらあら、団子三兄弟じゃないの。


霳太郎が冗談めかして口の中でつぶやいた。


団子三兄弟とはその名の通り、非常にきれいな丸をえがいている輪郭を持っていることから影でそう呼バレている。


しかし、目の前でそれを言って団子がみるみる桜餅になっていくのだから、改名する余地もあるというのが最近言われているようだ。


桜餅兄弟っていうあだ名も今じゃあるようだが。


どうでもいい情報を頭から追いやり、この3人がまた僻みをいいにここまで来たのか観察しようか。


「ほんっと、うさんくせぇな。さっさと引退しろよあの堅物」


「マジそれな」


「で、でもさ、あれだけ噂ながしとけば、な、なんとかなるんじゃないかな」


なるほど。あの変な噂はコイツらが元凶だったのだ。


「ああ、あいつがいなくなれば副会長である俺が昇格できる。皆なんであいつを依怙贔屓えこひいきするのかわからねぇ。どうせ親の影響力かなんかで上に掛け合ったんだろ。卑怯な手を使いやがって。俺の方が・・・って、なんだよ」


「あ、あのさ。い、今の僕じゃない、ん、だけど」


「あ?じゃぁお前か?」


「俺もしゃべってない……」


「は?じゃあ誰が...」


「わざわざ自白してくれてありがとう」


3人が一斉に空を見上げる。


まさか、上から声が聞こえるとは思ってなかったのだろう。


呆然と口を開けているその姿は餌を求めて群がる鯉の表情そっくりだった。


霳太郎は鳴海を見習って、ニンマリと笑みを描きながら握っていた録音機を相手に見えるようにかざした。





あ、今じゃ録音機って古いのかな?

・・・録音ってアイフォン機能でありますもんね・・・。時代の変化が著しいよーーーーー!

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