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雷の使い方、間違っていると思います!  作者: 焼かれた魚
雷と神隠し
18/45

夕暮れ時


背後からの叫びに近い呼び声。


反射的に振りかえると。


目に映ったのは、馬の尻尾のように揺れる黒髪。


跳ねるたびに艶によって反射した光がチラチラ見えた。


「ぅっ!?」


直後、鳩尾に衝撃が。


小柄な少女がアタックしてきて、背中に手を回されたのだ。


バッと窿太郎を見上げた顔は、よく知る幼馴染みのものだった。


何か懐かしさを覚えるその表情は情けなさそうに歪んでいる。


ただ、体に当たるペッタンコ加減も懐かし...げふんげふんっ!


「蓮花!」


ごめんなさい!


2度とペッタンコとか言わないから!


踵でグリグリするのやめろ!


その靴痛いから!


表情と行動が一致してないから!


蓮花は眉尻を下げて、悲しそうな表情のまま足だけで攻撃してくる。


なんとも器用な。


そして何故、思ったことがわかるのか。


女の勘って怖い。





だが、小さい頃のように抱きついてくれるのは幼少期に戻ったようで嬉しい。


そう、嬉しいのは嬉しい......のだが。


「あー・・・蓮花さん?公の場で抱きつくのはちょっと・・・」


そろそろ回り(特に蓮を慕う生徒たち)の視線に耐えきれなくなり、ぼそっと呟く。


実際に射殺されそうなものが多く、好奇や同情的な感情をまれに向けられて、恐ろしいやら情けないのやらでかなり悲惨なことになっていたりする。


「な、ななななななっっっ!?」


はっと我に帰った蓮花は、顔を真っ赤にさせて窿太郎をドンッと力任せに押し出し、後ろへ下がった。


というよりも、男である窿太郎の方ががすっ飛んだ。


足が地面から浮いて、次に着いたときには元居た場所から一メートルほど離れたところに尻餅をついていたのだ。


ちょっと、何が起こったかわかりません。


蓮花って、こんな怪力だったっけ!?


それとも異世界は重力の働きが弱いのか?


窿太郎がキョトンとした間抜け面のままひっくり返っていると、すっと手が目の前に差し出される。


見上げると垂れる黒い前髪の隙間から、覗く目と合った。


その表情は、あの電車で見た笑顔と変わらず苦笑気味だ。


だが、両者の瞳にはあの時の不安な感情は揺れておらず、ただただまた生きて会えたことの喜悦が踊っていた。


「悠真!」


「久しぶり、窿!」


にっこりと微笑む悠真の頬は少し疲れているように見えた。


やつれたと言ったほうがしっくりくる。


それでも手をさしのべて引っ張りあげてくれるのは、さすがイケメンである。


「っしょ。サンキュー。にしても大変そうだな、クマできてるぞ」


「あはは、どうにも寝不足で。まあ、大丈夫だよ」


「くーちゃんは元気そうですね~。天野っちを吹っ飛ばすほどの怪力を手に入れたとは」


「怪力ってなによ!窿が軟弱なだけでしょ!私だってあんなに飛ぶとは・・・」


「無意識だったんですね・・・。まぁ、でも珍しいくーちゃんが見れて楽しかったですよ~。乙女ですね~」


鳴海がだんだん萎んでいく蓮華をからかう。


芝居までうって、さっきのハグを再現している。


窿太郎の名前を叫んで皆高の腕のなかに飛び込み、皆高も蓮華の名前を呟いて抱き締める。


なんとも白々しい猿芝居、でも甘い雰囲気のそれを見せつけられた蓮華は茹でタコみたいに顔を真っ赤にして暴れている。


悠真は・・・相変わらずお父さんポジションだな。


本当にふけてないか?


そうは思いながら、窿太郎も悠真と並んで懐かしい馬鹿騒ぎを、頬を緩めて眺めていた。


蓮華が皆高を成敗して、鳴海に説教をしている時。


撃沈している皆高を突ついて弄ろうとしたところ、あることに気がついた。


「あれ、康介は一緒じゃないのか?」


それは、悠真も蓮も勇者に染まっていなくてよかった。


という安堵と共に閃いたものだが、ここにいない康介が勇者というものに洗脳されてしまったのでないかと。


嫌な予感が頭をよぎったのだ。


恐らく、この空気に呑まれていない生徒はそういないとおもうから。


案の定、悠真は顔を曇らせる。


しかし、それは康介が周りに同化したという事ではないらしい。


「康介はたまに訓練で顔を見る。だけど、それだけなんだ。普段の生活でも会わないし、どこにいるのかも誰も知らなかったよ。第一騎士団は知ってるようだったけど教える気はないようだし」


「第二騎士団は知らないのか?」


「それが……。最初は康介のことを第一騎士団の新入団員だと思ってたらしい」


「なんだ、それ。まさか、康介は第一騎士団に入っているとか言わないよな?」


「そのまさかだよ。第一の鎧を着ていたから」


「何考えてるんだ、康介」


「それに、僕達とすれ違った時反応がなかったんだ」


「・・・どういう意味だ。それはおかしくないか?」


あいつはいつも目が合うとニカッと笑って名前を呼んでいた。


何にしろ、騒がしいあいつが大人しいのは珍しいことなのだ。


「そう。おかしいんだよ。でも、それ以降、康介には会えなくて……」


神妙な顔をして俯く悠真は、日頃から彼のことを心配しているのだろう。


寝不足も、もしかしたら心労が原因かもしれない。


「なんだか、やばい事に巻き込まれている気がするよ」


「そうだな。俺も出来るだけ情報を集めるよ」


悠真は心苦しそうにこちらを見る。


だが、1度目を閉じると、パッと顔をあげて爽やかな笑顔にもどった。


相変わらず切り替えが早い。


「そうだな。出来ることからやろう!」


「そうだな」


「それより、窿たちはどこにいくつもりだったんだ?さっきまで座ってただろう?」


「そ、そうよ。あっちには庭への出入り口しかないわよ?」


不思議そうに悠真がこちらを向くと同時。


説教をしていた蓮華が、鳴海からのからかいに劣勢になった所で、ここぞと言わんばかりに会話にくい込んできた。


「その庭に行こうとしたんだよ」


「天野っちが人酔いしたってぐずってましたからね~」


「そうそう、こんな空間に居れるかーって。あでも鳴海ちゃんもおんなじこと言ってうぐぶっ」


「私は言ってませんよ?ね、天野っち?」


鳴海が悠真たちからは見えない角度に移動し、笑顔で皆高の鳩尾に肘鉄を叩き込んでいた。


今の動き、アルヴィスさん並みの速さじゃなかったか。


とんでもない鳴海の潜在能力に、話を合わせなければ殺られるという警報が脳内に鳴り響く。


「その通りであります、隊長!」


「よろしい〜!」


「そ、そうか。なら僕達も行こうかな。次の訓練までのんびりしたいしね」


「ええ、私も行くわ。お昼ご飯はサンドイッチでも作ってもらえれば庭で食べれるわよ」


悠真は不在の間の窿太郎たちを知らないため、ノリについて行けないながらも賛同した。


蓮華はそのようなノリなど気にしていないようだが。






そして、窿太郎たちは再び扉に向けて歩きだす。


こうして皆で集まるのは久しぶりだったからちょっと嬉しかったりで、足が軽い。


鳴海にからかわれるため、顔には出ないように引き締めた。


あとは康介がどこにいるかわかればいいのだが。


悠真の話だと騎士からの情報には期待できそうにない。


となると、メイドか盗み聞きになる。


でも彼女らが喋ってくれそうにはないし、監視をどう掻い潜ろうか。


この城の通路という通路には隠れる場所などないので、扉に耳を当てるという方法も使えないし……。


ぐぐぐぐ……!


窿太郎は、悩みに悩んで頭を押さえつけていた両手をパッと離すと、


「ま、いっか。そのときはそのときで」


あっけらかんと言ってのけた。


「ははっ、窿らしいな」


「さすが面倒臭がりですね~」


「窿は楽天的すぎるのよ」


駄目出しはいつもの事なので気にしない。


しかし、余計な事を言い始めたのが一人居た。


「今日の訓練参加してたのビックリだったぜ。お前ならサボると思ってたのにな」


「え、参加してたの?!」


「真面目に参加してましたよ~。明日は嵐がきそうですね」


「おい、喧嘩うってんのか!」


「あら、かってくれるの?望むところよ」


「あ、いや、撤回します!」


窿太郎が一言いうとダメ出しのオンパレード。


喧嘩を買おうとすると蓮華が出てくる。


勝ち目のないゲームにはなから参加しているようで、理不尽さにむっつりとむくれる窿太郎だった。


竹刀を取り出した蓮華が残念そうに懐へと戻す。


みんなはケタケタ笑っている。


それを見ていると、言い返す気も起こらなくなってしまった。


「反論するのも面倒臭いからいいか」


「こらこら、そんなとこまで面倒臭がるんじゃない、窿」


「もう末期ですね~」


「はいはい、なんとでも。開けるぞー」


「外は段差になってるから気をつ・・・」


静かだが落ち着く笑いの連鎖を背に、窿太郎は両の取手を握ってグッと力を込めた。


ギィー、という重厚な扉の音を聞きながら踏み出すと、悠真が注意を促す。


しかし、そこ語尾はまたもや背後から聞こえてきた、蓮華とは比べ物にならないほど甲高く大きな声に掻き消された。


「ユーマ様!」


それはどこかで聞いたことのある声で、幼い少女のような。


振り返ると、真逆の扉から入ってきたばかりの白髪隻眼の第二王女が顔をほころばせて佇たたずんでいる。


たしか、リザベル王女だったか。


目が輝いており、以前会ったときの厳かな威厳のある王女は、ただの少女になっているようだ。


ところで、何故か名指しで呼ばれた本人、悠真をちらりと見やると顔から血の気が引き、頬がひきつって目が死んでいる。


いつかの、窿太郎が扉を開けた瞬間に仁王立ちしていた蓮華と鉢合わせたかのような、そんな絶望的な表情をしている。


「あらあら。また来たわね、愛しの第二王女様が。昨日は部屋にまで押しかけてきたって本当かしら、悠真?」


蓮華が、悠真の古傷を容赦なく抉るように畳み掛ける。


そのせいで、周りはどよめき、悠真は今にも意識を手放しそうなほど蒼白だ。


おおっと。


もしかして寝不足の原因って第二王女のせい・・・?



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