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雷の使い方、間違っていると思います!  作者: 焼かれた魚
雷と神隠し
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不穏な気配

目を開けると、そこには知らない天井……はなかった。


天井の代わりに一面の青空が視界一面を覆っている。


自分は野原にでも転がっているというのだろうか。


あれ、ここで何してたんだっけ。


いつもの日向ぼっこのように開放的に寝転んでいるものの、背中に当たる床はいつものコンクリートとは違うと感じた。


そして、起き上がる前に、おぼんやりとこの空を見上げて思い出したことがある。


確か小さな神様に会ったのだ。


そこから過去を遡ると、次第に思考が鮮明になってきて記憶も浮かび上がる。


そうだ、雷が落ちて神様に会った。


そこからこの世界について話を聞いて。


それで、変な穴に落とされて……。


ガバッ


そうだ、自分はオヴァスキオールのどこに落とされたのだろうか。


勢いよく起き上がると、学校の造りとは似ても似つかない豪勢な、しかし厳かな雰囲気のある建物に自分がいるのだと理解した。


部屋の角に四つの支柱が均等な感覚で天井まで伸びている。


その中心に何かが墜落したかのようにぽっかりと天井に穴が空いている。


そこから日差しが差し込んで龍太郎たちを照らしていた。


その場所だけが大理石のように冷ややかな地面を侵食して花や草で埋め尽くされており、絨毯のようになっていた。



あの少女から聞いていたからまだ受け入れられるものの、開いた口が塞がらない。


なんか、古代遺跡みたいなとこだな。


神殿のような。


というより、どこだここ!


「・・・んー」


はっ!


軽く放心していたところで、背後から聞こえた声で我に返る。


振り向くと、先程まで一緒に逃げていた鳴海、皆高、千里、その友達だろうか3人の少年と沈静化した先輩が床に寝ていた。


声を上げたのは寝返りをうっている先輩だろうか。


ごろん、とひっくり返り彼女がこっちを向いた時。


誰?


という霳太郎の思いは、言葉に変化されることは無かった。


長いまつげに少し下がった眉、白い肌に映える艶のある黒髪は床に垂れて色っぽく見える。


え、これ幻覚ですか?


シワになったスカートから覗く脚に目が行く。


いやいや、あの先輩がこんなにエロいはずはない。


起きたときよりも軽くパニックになっていると、目の前の黒髪美人はおもむろに口を開いた。


「会長・・・」


あ、高嶺先輩だ。


判断材料がそれとはどうかとおもうが、仕方がない。


それにしても、寝てるときは可愛いってギャップ萌えって反則でしょう。


目つきが問題なのかと思うと、もう目を閉じていた方がいいのではと思う気がしなくもない。


先輩の寝顔を眺めていると、普段のもしものために写真を撮っておこうと思いついた。


え?外道?


そんなもの、弱味を自らさらけ出している方が悪い!


今回は不可抗力だとしても、チャンスは2度と訪れないという確信のもと、携帯をタップする。


「う...、なに...?」


やばっ!


シャッター音とフラッシュで目を覚ました先輩に見つからないよう、そそくさとポケットに携帯を突っ込んだ。


周りの皆も続いて起き出す。


状況がつかめずキョトンとしている者が多いが、その気持ちはよくわかる。


なんだこれ、という頭の整理が追いついていない状況なのだろう。


霳太郎もそのうちの一人だったのだから。


鳴海と皆高と目が合う。


お互いに発言しようと口を開いた瞬間、全員バンッという音にはね上がって音の発生した方へと反射的に顔を向けた。


彼らの視線の焦点には、光に反射して青く輝く紺色のローブに全身をすっぽり覆われた人物が立っている。


何かヤバイやつきた。


生徒全員の心が一致した瞬間である。


しかし、状況に追いつけない中、さらに混乱する事態が起きる。


そのローブは霳太郎たちを見ると両手を空に掲げて歓喜の声をあげたのだ。


「おお!アスファンドラよ!感謝します!」


大声にびくりと体が跳ねた。


直後に不審者の背後からぞろぞろと同じ姿の者たちが表れ、口々に何かに感謝する言葉を述べ始めた。


その異様な光景に霳太郎たちは唖然としながらも、取り残されていた。


先輩ですらぽかんとしている。


「胡散臭いヤツが来ましたね~」


そんな中。


若干緊張感が漂う中、鳴海のほのぼのとした声がそれをぶったぎった。


「確かに。だけど、お前はもう少し危機感というものを感じた方がいい」


霳太郎が呆れてため息を吐いた。


だが、力が抜けたお陰で思考も戻ってくる。


皆も苦笑しながらも、いつもの調子に戻ってきたようだ。


「けど、まずいよな...」


未だに興奮してはしゃいでいる奴等から視線は外さずに、皆高が小声で呟いた。


そう、まずい。


非常にまずいのだ。


今まで考えていなかったのだが、ここは知らない場所。


知らない人物もいる。


ここに来るまで無い記憶、これらが合わさると『誘拐』という文字が浮かび上がってくるのだ。


そのことに皆高は警戒しているのかもしれない。


が。


霳太郎、は神からここは異世界だと聞いた。


つまり、言語が理解できている時点でおかしいことはわかる。


さらに、魔法があるとも聞いた。


それがどんな実態なのかわからないうちは迂闊な行動は危険だということ。


さらに最悪なのは、逃げられない状況にいるということだ。


まずは、このローブたちを信用しないほうがいいことは確かだ。


あの神の言うことをすべて丸飲みにするわけではないが、どちらにせよ、霳太郎たちがするべきことはただひとつ。


「抵抗は辞めよう」


「......」


皆高、鳴海以外は霳太郎を訝しむように見た。


そんな顔で見るな君たち。


平和第一!


争い事は面倒なのだ。


息を殺して気配を薄めて、印象につかないように気をつけながら逃げられるタイミングを探す方がいい。


地理も構造も知らないこの場で成せることは限りがあるし、ここを出られたとしてもここは異世界。


外の構造すら知らずに出るのは危うい。


魔法が無かったらできたのかもしれないが。


しかし、抗議をあげようとした先輩や後輩がいたのだが、落ち着きを取り戻した怪しげなローブ達によって遮られた。


「我らに応こたえてくださった神に選ばれし異世界の方々よ、歓迎致します。私めはウィラム・ル・カルヴァローサ、大魔導師を勤めさせていただいております」


古くさい言葉遣いだった。


皆ポカンと口を開けて微動だにしない。


何をいっているのかわからず、いつもは飄々(ひょうひょう)としている鳴海でさえも固まっていたのだ。


その状況で唯一理解できた霳太郎は、その言葉に緊張した表情へと固まった。


ただ一人、後輩の千里だけは、目をキラキラさせていたのには目を疑った。


そんな三者三様の戸惑いを物ともせずにその大魔導士は続ける。


「この世界について私からは申し上げられませんが、後程、我が主から事情を述べられるかと存じます。まずは身支度を整えて頂き、謁見の間へとご案内致します」


捲まくし立ててしまい申し訳ございません、と眉尻を下げながら軽く頭を下げられた。


それでも逃がす気は無いらしく、手下と思われるローブ達に隙間無く囲まれる。


おいおい、言葉と行動が合ってないぞ。


という霳太郎の心情が拾われることは無く。


油断ならない連中に腰が低くなりながらも、気を引き締めて立ち上がる。


これじゃあ脅しですよー。


と、今にも鳴海の声が聞こえてきそうだ。



しかし抵抗しても無理なのは明白なため、扉に吸い込まれるように引き連れられていった。








「それでは、ご案内致しますね」


目の前の美少女はふわりと微笑んで優雅なしぐさで振り向き、歩き出す。


そう、美少女です。


みなさん、美少女です。


王女さまです。


白髪隻眼で儚げな雰囲気の可憐な少女。


見た目は華奢なため幼く見えがちだが、実年齢は霳太郎のたった一つ下らしかった。


皆高が年齢を聞いた瞬間の鳴海と先輩、一人の後輩の視線に鳥肌が立ったのを覚えている。


いや、戦慄しただけであって断じて興奮していたわけではない。



さて、冗談はおいといて。


あの後、客室と思われる(霳太郎たちにとってはグラウンド半分並みの広さの)部屋に各々通され、あれよあれよという間にメイド姿の女性に着替えさせられていた。


日本人男子にとっては軽く恥じらいで躊躇われる行動であった。




再集合した時の皆の変わりようは衝撃的なほどだった。


それぞれの雰囲気に合う仕様に着飾らわれており、貴族のような出で立ちだ。


ただ、色は全員白を基調にした黄色混じりの服装であったため似合う似合わないがはっきり別れ、大きなメガネをかけている霳太郎には似合わないと言わざるを得ないいでたちだった。


龍太郎だけが似合わなかったその色の服装を春瀬にさんざん弄られたが、無視。


いや、好きで着てるわけじゃないんですよ。


どうして、国の正装色は白と黄色なのか。


と思わせる程それ以外はほとんどど使われていなかった。




素朴な疑問を抱いているとまたもや扉が大きく開かれる。


だが、今回は緩やかに重々しく。


そして騎士らしき甲冑を身にまとった二人を連れて入ってきた人物がその美少女だったのだ。


「皆様、お初に御目にかかります。この国、オウファンドの第二王女リザベル・ウージュ・モン・オウファンドと申します。貴女方にお会いできたことを感謝しますわ」


リボンやレース、フリルをふんだんににあしらった豪奢なドレスの裾を持ち上げ静かにお辞儀をする姿は、まさに洗礼されたものだった。


というわけで、王女が案内を申し出ようとしたときだ。


久しぶりにあの人の声を聞いた。


「先程からあなた方はなんなのですか」


先輩。


だが、王族の行動を遮るって拙いのではないだろうか。


ほらぁ、後ろの騎士らしきヤツたちが槍を握りしめてるんですけど!


ギリッていいましたけど!


「なに...とは?」


だが王女はそれを手で制し、微笑みを絶やさず聞き返す。


「なんの説明もなしに人を連れ回して、服も取り上げられ、挙げ句に王族ですか。我々日本人に王はいませんし、居たとしてもそもそも一般市民が会えるはずないのです。誘拐ともとれる行動をして感謝?ふざけるのもいい加減にしてください」


おお、先輩がまともなこと言ってる!


「申し訳ありませんが、現状にかんしては私の口から申し上げるわけにはいかないのです。王の意思を尊重することが我々の義務なのですわ。この段取りは貴女たちの混乱を避けるためでもあるのですよ?」


成る程、俺たち<王ということか。


後でちゃんと説明するから大人しくしとけということだろう。


笑顔の裏にはトゲがありました。


それでも反抗する先輩に対しあらゆる方面から言葉の壁をつくり笑顔を崩さない。


質問をする意味をなさないことを理解したのか、先輩は顰しかめっ面のまま口を閉ざした。


そのまま王女に連れられる形で部屋を後にする。


背後で重苦しく閉ざされた扉の音は、霳太郎にとって逃げ道を閉ざされた音に聞こえた。

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