écrin(エクラン) 2
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カフェで一時間ほど過ごし、俺たちは店をでた。
大丸の横を通り、メリケン波止場の方へと歩いていく。
ビルの間から見える空は、青空で気持ちがいい。
「真也、ちゃんと場所分かってる?」
カフェで、嫌と言うほど地図を見せられ、大体の場所は把握していた。
「そこの道を、曲がって・・・」
大通りから、脇道に入る。暫く歩くと店が見えるはず。
しかし、あたりを見回してもécrinという看板は見当たらない。
「ねぇ。大丈夫」
「さっきの雑誌、少し見せて」
せかす真理に手を差し出し、雑誌を受けとった。
「ザックリとした地図だな」
ため息とともに雑誌に視線と落とす。
大まかな大通り線と、目印になる大きな店の名前がその中に赤い点で場所を記され、お目当ての店は☆マークがついていた。
「多分、この当たりだと思うんだけど・・・」
辺りをキョロキョロと見回していると、背後から呼び止められた。
「何か、お困りですか?」
雑誌を持ち、辺りを見回している姿が観光客と間違えられたみたいだった。
「すみません」
どうせなら、このまま道を聞いてしまおうと振り返った時、真理が息を飲むのが分かった。
そこには、スラリとした長身で、黒とグレーの服で統一された男性が立っていた。
一重の切れ長で、闇の様に黒い瞳。
年の頃は近く感じるのに、落ち着いた雰囲気が俺より年上に感じさせていた。
「あの、このお店探してるんですけど」
「ああ、このお店。この地図だと分かりにくいですよね」
俺より早く、真理はその男性に声をかけていた。
確かに男の俺でも、目を惹く男前なんだから、真理がテンションが上がるのも頷ける。
「この店、大きな看板もないから分かりにくいんですよ。よかったら案内しますよ」
「すみません。助かります」
真理に続き、俺も軽く頭を下げ、歩き始めた男性の後に続いた。
男性の胸に抱えた紙袋には、焼きたてのパンが入っているのかいい香りがする。
「優しい人がいてよかったね。真也」
「そうだな」
「結婚されるんですか?」
見た目より少し低めの声に、ギャップを感じる。
でも、落ち着いたその声と話し方は、とても人と接することに慣れていて、接客か営業の仕事をしてるのかと考えてしまった。
「あっ、はい」
「そうなんです。エンゲージリングを探しに」
真理の答えに、男性は薄い唇が弧を描き目を細めると、一つ目の十字を右に曲がり足を止め、目の前のお店の段差を上った。
「それは、おめでとうございます。ようこそécrinへ」
男性が我が物顔で開けたガラスの扉には、申し訳程度の小さな看板が付けられていて、
その看板には、écrinと書かれてあった。
不定期と言ったものの、今の所毎日更新できています。
練習がてら 毎日更新を目標にしていますが
小説以外にも、手を出しているので
突然不定期になる事もあると思いますが、完結まで
お付き合いしてくれたら嬉しいです。
そして、 素敵なValentineを☆