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プロローグ
深夜0時を回る頃。
無情にも俺の体に無数の雨が叩きつける。
立春を過ぎたが、春はまだ遠く。冷気を含んだ雨がスーツを通し、体の芯を冷やしていた。
俺は、その雨を避けることもせずその場から動けずにいる。
「・・・・・・ふふふふ」
動けないのは、普段ほとんど飲まないお酒を、浴びるほど飲んだからか。
それとも、明日婚約指輪を渡す予定だった彼女が、先週末、見知った顔の男性とホテルに入って行くのを目撃してしまったからか。
もうどちらでもよかった。
余りにも滑稽で惨めて、笑いが漏れてしまう。
でも、今日も目的を果たせそうにない。
海に捨てるつもりでポケットに裸でいれたエンゲージリングを握りしめ、俺は空を仰いだ。