第3話
「ずるい!ずるい!ずーるーい!!」
先ほどから喚いているのは堂元家の末っ子の空君。
大地と翼ちゃんの弟で、大地ほどではないが翼ちゃん大好きっ子。
俺を敵対視しているらしい。(大地&華さん談)
「可愛いドレス姿の姉ちゃんと写真なんてずーるーい!僕も一緒に撮りたかった~!」
先日届いた、文化祭の時の写真が原因らしい。
もちろん、俺の所にも届いた。
郵送じゃなくて九紀さんからの直接便だったけどね。
しかも、丁寧にアルバムにしてあったよ。
新しい台本を貰いに事務所に寄ったら九紀さんに空いている会議室に押し込まれて渡されたのだ。
久龍さんもその場にいたが特に何も聞いてこなかった。
いや、あれは絶対中身を知っていたと思われる。
写真を受け取る時、俺の後ろでニヤニヤしているのがドアに嵌め込まれたガラスに写っていたからな。
九紀さん曰く『嫁さんが堂元兄妹を偉く気に入って、社長自ら現在交渉中だが連敗中』とのことだ。
まあ、あの家族相手では無理だろうけどね。
あの美形家族、華さん以外目立つこと嫌うから。
「空君のお願いなら翼ちゃん、聞いてくれるんじゃないの?」
ぶー垂れている空君に声を掛けるとキッと睨まれた。
え?俺、何かした!?
「速攻断られた!姉ちゃんに!絶対に嫌だって言われた!」
へー、珍しい。
翼ちゃんは弟の空君を可愛がっていて可能な限り我儘聞いていたと思ったんだけどな。
「……なあ、俺の気のせいか?俺と翼のツーショットよりも黒兎と翼のツーショットが多いのは気のせいか~!?」
パソコンで何かを見ていたらしい大地。
ノートパソコンを俺と空君の方に向けて喚く大地。
空君は大地からパソコンを受け取って画面をスクロールしている。
「うわ~、やっぱり姉ちゃんはかわいいな~!メイド姿もいいけどお姫様姿もいいね~惜しいのは姉ちゃんだけが映っている写真がない事かな~」
目元を下げて翼ちゃんのドレス姿を凝視している空君。
「……兄ちゃん、この写真データ頂戴!」
「あ?なんでだ?」
「携帯の待ち受けに加工する」
「ダメ」
「なんでだよ」
「おまえの携帯の待ち受けを見て、翼に群がる男を増やすつもりか?」
「ロ、ロック掛けるから!!!」
ギロリと睨む大地に負けじと反論する空君。
だが、大地は首を縦に振らない。
しかし、俺は知っているぞ。
大地の携帯の待ち受けがメイド姿の翼ちゃんとのツーショットであることを。
「……俺が持っている写真でよければ空君に転送するけど?」
俺のスマフォの画像フォルダを見せると空君にスマフォを分捕られた。
画像フォルダ内のとある写真を凝視する空君。
「……なに、この激レアショット。姉ちゃんのこんな表情初めて見た」
俺のスマフォを大地に見せながら睨むのはやめてくれないかな、空君。
まあ、確かにその写真は激レアものだ。
この瞬間を逃さなかった自分を褒めたいくらいだ。
空君と大地が凝視していた写真は、俺達の着替えを待ってお見送りをしてくれた時のものだ。
お客様をお見送りするまでが接客という翼ちゃんの部活の部長さんの指示らしく、その時に少しだけ会話をした時に撮った写真だ。
「今日はありがとう」
俺の袖をちょこんと引っ張って大地には聞こえない様に呟いた翼ちゃん。
大地は何やら九紀さんと交渉しているらしい。
「翼ちゃん?」
「クロちゃん、お仕事忙しいのに遊びに来てくれてありがとう」
「こちらこそ、楽しい時間をありがとう、翼ちゃん」
いつもの癖でポンポンと頭を撫でるとふにゃりを表情を崩す翼ちゃんに思わず俺も笑みがこぼれる。
「写真は後日郵送って聞いたけど……」
「ああ、大地が『今貰いたいのはやまやまだけど、途中で落しでもしたら~~~でも~~』とうざかったから郵送にした」
「……お兄ちゃん」
呆れたようにため息をつく翼ちゃん。
「まあ、俺もかわいい翼ちゃんの写真を落しでもしたらと思うと死にたくなるから郵送でいいんだよ」
「……私はお兄ちゃんやクロちゃんが言うようなカワイイ子じゃない」
ぷいっとそっぽを向く翼ちゃんだが、その姿もまた可愛らしい。
本人は身長が平均よりも高い事を気にしているみたいで、可愛いモノが大好きなのにそのことを隠したり、可愛らしい服を着たがらない。俺からすれば身長はちょうどいい高さだから気にならない。
可愛らしい服も似合うのにな……と思うけど直接は言わない。
いつも七海経由で伝えている。
「俺は翼ちゃんには嘘は言わないよ。初めて会った時からずっと言っているだろ?『俺にとって翼ちゃんはすっごく可愛い大切な女の子だよ』って」
俺の言葉に、上目づかいに見上げてくる翼ちゃんがこれまたカワイイ!!
ああ、抱きしめたい!
抱きしめたいけど、翼ちゃんに嫌われたくないのでぐっと我慢しよう。
「俺にとって翼ちゃんは世界一……いや、宇宙一かわいい女の子だよ」
再び頭を撫でると小さな笑みを浮かべる翼ちゃん。
うん、本当にかわいい!
俺はそっとスマフォを取り出し、とっさに翼ちゃんにカメラを向けてシャッターを切っていた。
「クロちゃん!?」
シャッター音に気付いた翼ちゃんが俺からスマフォを取り上げようとしたけど、俺は素早くデータを保存してスマフォを高く掲げ写真を確認する。
画面には手振れもなく可愛くはにかんだ翼ちゃんがしっかりと写っていた。
「これは俺の宝物」
人差し指を唇の前で立てて言うと、顔を赤くした翼ちゃんに上目づかいに睨まれた。
「クロちゃんのバカ……」
帰り際につぶやかれた言葉に俺は気づかなかった。
ただ、大地がやたらニヤニヤしていたのだけは気色悪かったな。
「とっさに撮ったにしてはよく撮れているだろ?」
「……おまえ、本当に翼の事だと無意識に行動しているんだな」
呆れたように俺にスマフォを返してくる大地。
「大地にだけは言われたくない」
「それは僕も同感。兄ちゃんはもう少し自重した方がいい。そのうち、姉ちゃんに『近寄らないで!』って言われても知らないからな」
「…え?もしかして、俺……ウザイと思われてる?」
「「うん」」
俺と空君の声がダブった。
「で、空君どうする?」
「うーん、確かにその激レア写真は欲しいけど……こっちのデータから選ぶよ」
「え?どうして?」
「だって、姉ちゃんのそんな嬉しそうな、幸せそうな表情引き出せるの黒兄だけだって思い知っちゃったもん」
苦笑いをしながら大地のパソコンからいくつかのデータをスマフォに転送していく空君。
「でも、だからって僕は黒兄を認めたわけじゃないからね。僕に認めてほしかったら姉ちゃんにさっさと告白することだね」
「うっ!」
「あー、空。こいつ、さりげなく何度も翼に告白しているぞ」
パソコンから視線を上げて俺を睨む空君に大地が爆弾を落した。
「え?マジ!?」
「ああ、だけど翼の方が本気にしてないんだよ。翼の方が『兄が妹を可愛がっている』と思い込んでいる節がある」
「うわ~」
空君、憐みの視線を向けるのを辞めてくれる?
地味に落ち込むから……
「しかし、黒兎。マジで頑張らないと横から掻っ攫われるぞ」
「は?」
「イメチェンしてから翼の周りに男が湧いてきたからな」
「ああ、生徒会の書記の先輩に、クラスメート、部活仲間……確かに最近、姉ちゃんの周りに男増えたね。女友達もその倍の勢いで増えているけど……」
「ただでさえお前と翼は年が離れているし、会う時間も少ない。他の奴らよりかは親しいけど、そんなのいつ追い越されるか分からないからな」
大地が言いたい事は分かる。
分かるが……年齢差を縮めることは不可能。
会う時間は……仕事を減らせば可能だが、翼ちゃんも応援してくれている今の仕事を蔑にしたくない。
どうすればいいんだよ~!
頭を抱える俺に大地と空君が意地の悪い笑みを浮かべていたことを俺は知らない。
俺を追い詰めることで後押ししてくれていたのだと知ったのはずっとずっと先の未来の事だ。
人物紹介
堂元空 (どうもとそら)
堂元家の末っ子
お姉ちゃん大好きっ子(本人曰く大地よりかはマシ)
勉強・運動共に平均的な中学3年生
兄姉よりいろんな部分で劣っていることは自覚している
兄は兄、姉は姉と小学校1年の時に開き直った子




