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第2話

大地と共に訪れた母校であり翼ちゃんが通う学校の文化祭。

懐かしくもあり目新しくもある校内を大地と共に見て回る。



「相変わらずうちの学校は文化祭に力入れてるな」

各クラス・各部活の出し物を見ながら感心した様に呟く大地。

「大地だって文化祭と体育祭は張り切っていたじゃないか」

「まあな。学校行事の楽しみはその二つだけだったからな」

手ごろな教室に入ると執事・メイド喫茶だった。

「へえ~、本格的だな」

生徒達の接待を受けながら教室内を見回す大地。

バックヤードから何やら騒がしい声が聞こえるが敢えて聞こえないふりをしよう。

先ほどからちらちらと他の客や接客をしている生徒達の視線を感じるが気づいていないふりをする。

俺も大地もこう事には慣れっこだ。

「そういえば、翼ちゃんのクラスの出し物は?」

「あ?お前知らないでここに入ったのか?」

「え?」

「ここ、翼のクラス」

「はぁ!?」

「ちなみに翼は裏方専門……のはずだったが、この場を収拾させるために表に出て来たみたいだな」

大地の視線の先を見るとクラシカルなメイド服を着た翼ちゃんが驚いたように俺達の方を見ていた。

「よっ!翼」

「お兄ちゃん!?それにクロちゃんもなんでいるの!?」

「なんでって……お前が招待状寄越したんじゃないか」

「寄越したというより……分捕っていったというほうが正しいのは私の気のせいかしら?」

首を傾げつつも大地を睨んでいる翼ちゃん。

その仕草は可愛いの一言に尽きる。

その証拠に、周りの生徒達が一斉に動きを止め魅入っている。

その事に気付いているのかいないのか。

平然と言い争っている堂元兄妹。

昔から変わっていないやり取り。

「翼ちゃん、そろそろ仕事に戻った方がいいよ」

小さな声で翼ちゃんだけに聞こえる様に言うと我に返った翼ちゃんは慌ただしくオーダーを取るとバックヤードに逃げていった。

うん、あれは逃げたという表現が正しいだろう。

クラスの代表者らしき者が一言詫びを入れるとその場は元の空気に戻っていった。


「あれ?そういえば翼ちゃんだけ衣装違わないか?」

「ん?ああ、翼も本来ならほかの子と同じミニスカになる予定だったんだけどね……」

にやりと笑う大地。

「家で試着した時に空に『姉ちゃんは今時のメイドよりもクラシカルな方が似合う』という言葉であっさりと路線変更。クラスメートからは反発もあったみたいだけど、実際あのメイド服を着た翼を見て満場一致で採用決定」

「なに、その小説や漫画みたいな出来事」

思わず苦笑いをする俺に大地は分かってないな~と顔の前で指を振った。

「なぜ空がクラシカルな方がいいって言ったかわかるか?」

「翼ちゃんに似合っているからだろ?」

「もちろんそれもある!だが一番の原因は翼の生足をその他大勢の男に見せない為に決まっているじゃないか!」

小さく握りこぶしを作る大地に思わずうなずいて『空君、ナイスアドバイス!』と内心思ったのは当然だろう。

「しかし、翼のミニスカ姿もかわいかったな~」

「そういえば、翼ちゃんは丈の短いスカートはあまり着ないよな」

「まあ、俺と親父がそうなるように言い続けてきたからな。お袋からは『私の楽しみ返せ~』と散々言われたけど……今は、七海のおかげで助かっているよ」

「あー、七海のコスプレ好きが役に立っているのか」

「ああ、コスプレなら翼も抵抗なく着るみたいだからな。この夏だけでアルバム3冊分は撮影してきたぞ。うちのお袋」

若干遠い目をしている大地だが、翼ちゃんが俺達がオーダーした物を持ってくるとすぐに通常モードに戻った。

「翼、あと少しで休憩だろ?」

「なんで、お兄ちゃんが私のスケジュール把握しているのよ」

呆れたように呟く翼ちゃんに大地は胸を張って

「翼の事で知らないことはない!」

とシスコンぶりを堂々と発揮してくれた。

俺と翼ちゃんにとってはいつもの事だからスルーしているが周りは若干引いているようだ。

まあ、これもいつもの事だけど……

「じゃあ、休憩のあと、翼の部活の出し物を見に行くか!」

「!?ちょっと……この後、私が受付なんだけど!?」

「うん、知っている。だからその時間を見計らって来たんだ」

平然と答える大地に翼ちゃんは盛大なため息をついた。

「うちの部活……今年はいつもと違うわよ」

「は?部誌販売だけじゃないのか?」

首を傾げる大地に行けばわかるとどこか疲れた表情を浮かべる翼ちゃん。



その後、翼ちゃんの休憩をはさんで彼女の部活の展示場所を訪れて俺と大地は言葉を失った。

どの展示クラスよりも盛大で、行列が後を絶たないのである。

「翼、お前の部活……」

「今年はコスプレ撮影館」

「は?」

「部長発案で生徒会公認。部員も全員コスプレしております。希望があれば部員との写真撮影も可能です」

淡々と機械のように答える翼ちゃん。

そういえば、クラスの当番は終わったのに着替えてこなかったことを不思議に思っていたが……なるほど。

そのままコスプレ姿で受付をするってことか……(たぶん、クラスの番宣も兼ねているだろうけど)

部員(つばさ)との写真撮影可能だと!?」

キラリと眼を光らせた大地に俺も翼ちゃんも気づかなかった。

翼ちゃんはそのまま部員と交代するために準備室に向かい、俺と大地は大人しく行列に加わった。

部員の客を捌くスキルが高いのか、さほど時間がかからず俺達の番になった。

普通だったら1~2時間待たされるレベルの行列だが30分足らずで入場できたのだ。


並んでいる時にメニューを渡され、どのコースが希望かを聞かれたが……

なるほど、事前に客の要望を把握しているからすぐに答えることができるのか。

ちなみに、大地が選んだのは『ご主人様と使用人』コース。(俺は大地の同伴者だから同じコースになっていた)

これは客が主になるか使用人になるかで接客する部員の格好(コスプレ)が変わるらしい。

たとえば、大地が『ご主人様』のコスプレを選べば、接客する部員は執事かメイドになる。

接客する部員は指名することも可能らしく、大地が指名したのはもちろん翼ちゃんだった。

「俺、『ご主人様』の衣装ね。で、こいつは『執事』の衣装でお願いね」

手続きをしてくれた部員の子に笑みを浮かべる大地に部員の子は顔を赤くしてコクコクと頷いている。

「あ、あと一緒に写真撮影してほしい部員は『堂元翼』を指定ね。確か、メイド服着てたからそのまま来れるでしょ?」

少し首を傾げて尋ねれば部員の子は『了解いたしました!』とすぐさまバックヤードに駆けていった。

ちなみに部員の子は男の子なんだけどね。


「まったく、美形がご指名っていうから喜んで来たら……お兄ちゃんとクロちゃんか」

用意された衣装に着替えて待つこと数分。

嬉しそうな笑みを浮かべながら入室してきた翼ちゃんだが、俺達を見てその笑みを消した。

「おいおい、俺達は客。客には愛想よくしろ」

撮影用のソファに踏ん反り返っている大地は呆れたような顔をする。

「身内に愛想笑いしてどうするのよ」

「俺は身内だが、黒兎は他人だろ?」

「クロちゃんだって身内みたいなものじゃない。私にとってはお兄ちゃんみたいな存在なんだから」

ぐさっ!と思いっきり正面から切りつけられた気分だ。

いや、翼ちゃんから異性として見られていないのは知っていたけど……

直接言われると心が抉れる。

大地はそんな俺をニヤニヤしながら見ているし、翼ちゃんは首を傾げている。

「まあいいや。さっさと撮影しちゃうわよ。お兄ちゃんはそのままね。クロちゃんは……」

てきぱきと指示を出す翼ちゃんに俺も大地も素直に従った。

翼ちゃんがカメラマンを呼ぶと見知った人が現れた。

「え?九紀さん!?」

「お、ヒナ君じゃないか!へ~、執事服も似合うね~」

カメラを片手に現れたのは俺が所属しているフィンクプロダクションの雑誌編集部に所属している九紀さんだった。

「九紀さんはどうしてここに?」

「ボランティア?」

「は?」

「珍しく今日一日オフだったからね、ふらふらっと息子の学校の文化祭に遊びに来たら、堂元さんの部活でカメラマンが不足しているって言うから、手助けとしてカメラマンをやっているの。俺としても原石を探すことが出来るから一石二鳥ってわけよ」

「社長はご存じなんですか?」

「もちろん!しっかり原石見つけて来いって言われちゃったよ。まあ、すでに2~3人見つけて名刺渡してあるよ~後日、うちの交渉人が各家に出向く予定」

九紀さんと会話をしつつも撮影は順調に行われている。

九紀さんのすごい所はこういうところなんだよな。

関係ない話をしつつも、仕事を並行して行う。

気付いたら撮影が終わっているということもよくある事らしい。

「う~ん、堂元さんのお兄さんと堂元さんのツーショットはたくさん撮れたから、次はヒナ君と堂元さんのツーショットを取って最後にスリーショットで完了かな?」

デジカメのデータを見ながら翼ちゃんに確認する九紀さんだが、目がキラリと光ったような気がする。

「メイドと執事のツーショットもいいけど……おーい、鈴伏君!」

「はい、なんですか?九紀さん。撮影終わりました?」

「いや、堂元さんを……」

姿を現した部員の事を手招きして何やら耳打ちした後、心底嫌そうな顔をしている翼ちゃんと一緒に外に追い出した。

「九紀さん?」

「ふふ、堂元さんの準備が整うまでは君たち二人を存分に撮影させてもらうよ。特にヒナ君はメディアに顔を出さないからこれは貴重な写真になる」

「ちょっと、雑誌などに載せないで下さいよ」

「載せるわけねえだろうが。契約書がある限りは」

「契約書?」

大地が首を傾げると九紀さんは苦笑する。

「俺が声優としてデビューする時に事務所と契約したんだよ。メディアには極力顔を出さないって」

「もったいねえな。黒兎ならビジュアルでも売れるだろうが」

「ヤダね。不特定多数に顔を知られると翼ちゃんにアプローチできなくなるじゃないか」

「動機が不純」

「うるさい!」

俺と大地がやりあっている間も九紀さんは笑みを浮かべながらカメラのシャッターを切っていた。


「九紀さん!超特急で仕上げて来ました!」

入口から入ってきたのは満面の笑みの部員の子とムスッとした表情の翼ちゃん。

翼ちゃんの姿に多分、俺と大地はポカーンとした表情を浮かべていただろう。

レースを所々にあしらったオレンジ色を基調とした体のラインが分かりやすいスレンダーなドレスに身を包み、髪を緩く巻いた可愛らしい令嬢がそこにいたのだから。

「うん、想像通りだ。次はお姫様……というより『お嬢様と執事』だな」

にやりと笑う九紀さん。

俺は入口まで翼ちゃんを迎えに行き、手を差し伸べた。

「お手をどうぞ。お嬢様」

俺が差しのべた手に翼ちゃんは戸惑いながら手を乗せてきた。

レースの手袋で覆われた可愛らしい手をしっかりと握ると翼ちゃんも握り返してきた。

歩き辛そうな翼ちゃんに合せてゆっくりを撮影場所まで進む。

大地はソファから立ち上がり、優しい笑みを浮かべている。

「我が家の姫は本当にかわいいね」

親ばかのような発言をする大地に俺も九紀さんも思わず頷いてしまった。

その後は、またしても九紀さんの話術に嵌りあっという間に撮影は終わっていた。

もうちょっと翼ちゃんのドレス姿を堪能していたかったが、持ち時間も残りわずかだったので泣く泣くあきらめた。

写真はすぐに持ち帰るか、後日配送か選べるらしく、俺達は後日配送にした。

写真を落しでもしたら……と大地が騒いだからだ。




か、絡みがない……

黒兎と翼の絡みがない……orz


もうしばらくこの状況が続きます……


ちなみに大地と空はミニスカメイド版の翼ちゃんの写真をこれでもかっというほど撮影して大事に保存しています。



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