速い人
俺は普通の人よりせっかちだ。
しかし、人よりせっかちなくせに気持ちばかり焦って行動は人並みくらいのスピードだ。
いや、もしかしたら人より遅いくらいだ。
今日だって高校の家庭科の時間に班で料理をするのだが野菜を切っていて早く切ろうと思い切るスピードを早めるのだが実際そんなに早くはない。その上、急ごうとして自分の指を切ってしまうというドジを踏んでしまい、切り終わるのは誰よりも遅い。
もしも俺が人より早く行動できるのなら、一体周りからはどんな反応をされるのだろう。クラスで孤立することも体育のチームや班行動での活動で邪魔者扱いされることはなくなるだろうか?いつもこんなことを思ってしまう。
そんなある日、いつものように道を歩いていると後ろから歩いてきたヤンキーに突き飛ばされた。どう考えてもそいつが悪いのだが
「ちんたら歩いてんじゃねぇ!邪魔くさいんだよ!」
意味がわからない。どう考えてもそっちからぶつかってきたくせに。そう思いながらそのまま謝るのも腹が立つのでそいつを睨んだ。
「何メンチきってんだ?テメェ!!」
なるほど、根っからの小悪党らしい。
向こうが殴りかかってきたので相手のパンチをよくみてカウンターを仕掛ける。
当たった!と思ったのだが、カウンターを合わせるタイミングが少し遅かった。
そのまま俺は脳震盪を起こし立てなくなる。
ヤンキーは満足したのかどこかへ行ってしまった。
まただ…
またしても自分のトロさが仇となった…
どうして自分はこんなに遅いのだろうか?
怪我の治療のために家へ帰ろうとした時、不思議な老婆に声をかけられた。
「お前、今、人より早く行動できるようになりたいと思ったね?」
俺は度肝を抜かれる。何故俺の思ったことが分かったんだ?
「その通りだが、何故それを?」
「フフフ、そんなことはどうでもいい、お前にいいものをやろうと言ってるんだ。」
「いいもの?一体なんだ?」
どうせろくなものではないだろうと思いながらもそのいいものとやらの正体を探る。
「人の10倍早く動くことができるクスリだよ。これをやるから飲むかどうかは勝手にしな。」
そう言って老婆はさっさと立ち去ってしまった。
俺はそのクスリを持ち帰って眺めていた。
人の10倍早く動くクスリ?そんなものがあるわけがない。そんな都合のいいクスリ、なんであの老婆が飲まないんだ?明らかにおかしい。思ってはいるが、俺はそのクスリを飲まずにはいられなかった。気になって仕方が無いのだ。一口だけ飲んで安全かどうか確かめて一気に飲みほした。…特に変わりはないようだ。
くそっ!騙された!
俺はイライラとその日の疲労でそのまま眠りに落ちた。
次の日、学校で体育があった。バスケットボールだ。相変わらず俺はチームの人に迷惑がられていた。そして俺のチームの試合が始まった。するとどうだろう、相手チームのパスがとても遅く見えるのだ。こんなパスならすぐに奪うことができる。そして相手チームのパスを一つも落とすことなく全て奪った。
試合が終わったらクラスメイトからの歓声がすごかった。すごいとかやるじゃないかとかを生まれて初めて言われたと思う。
どうやら、昨日飲んだクスリは本物だったらしい。あの老婆に感謝しなくては。
そろにしても、クスリの効果が出てからやたら人と話すのが億劫になってしまった。
何しろ、いつもの十分の一のスピードで話さなくてはいけないのだ。これは疲れる。
だが、このクスリのおかげで俺は人気者になることができた。彼女もできたしTVにも出演が決まった。こんなに人生を楽しいと思ったことはない。
それから6年ほどがたった、俺の楽しかった人生は俺の楽しかった人生は、他の人の10倍速で去っていき、終わった。