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エピローグ 1
小島ナナを見送った帰り道。日が暮れてほのかに暗くなった住宅街の通りを歩く星川リュウセイの姿がそこにはあった。沈んでいった太陽が忘れていったジメジメとした蒸し暑さがほんの少しだけ薄まっていく。やがてその変化も落ち着いてくると、リュウセイは明かりを求めるように街灯へと近づいていった。
しかし途中で思い留まったのか街灯の近くにあった電柱のところで足を止める。電柱に手を触れるとヒンヤリと冷たく、触れた箇所が自分の体温を吸うようにほんのりと温かくなった。
思わず手を離したリュウセイの指には金色に輝く婚約指輪が嵌められている。
そのまま、まるで酔っ払いのように電柱に背中を預けたリュウセイはゆっくりと腰を落とした。
顔を上げると街灯に負けないほどの輝きを放つ満天の星空が広がっている。
空に向かってどこか満足気にため息を吐くとリュウセイは眠るように目を瞑った。
街灯の白い光に包まれたリュウセイの顔には安堵のこもった笑みが溢れていた。
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エピローグ 2
どこかの線路沿いの道をウエディングドレスを着た女性が走っていく。息を切らし、ドレスの裾を踏まないようにまくったまま進んでいく。道ゆく人が何事かとすれ違いざまに振り向くが、そんな通行人には目も止めず、ただただ転ばないように細心の注意を払いながらそれでも急ぎ足にその女性、ナナはかけていった。
やがて遠くに誰かを見つけると、ナナはその人物に向かって呼びかけながら走る速度を上げていった。
ナナが走る先には逆光で顔が見えない男の姿が。
そのまま突進に近い勢いで彼の胸の中に飛び込むとナナは息を荒らげながらもどこか幸せそうに朗らかに微笑んだ。
そんなナナが彼の胸の中に飛び込む挿絵と同時にページがめくれ、パタリと本が閉じられる。
【しんごうき】と書かれたその本の背表紙が大事そうに指でゆっくりとなぞられる。やがて本から指を離すと、その本の持ち主はそのまま本棚の中に本をしまった。
その本を閉じた人物の薬指には溢れんばかりの輝きを放つ婚約指輪が嵌められていた。HR&KNというイニシャルが彫られた金色の婚約指輪が。
紆余曲折ありましたが、最後まで書き上げることが出来ました。後日加筆や修正が入るかもしれませんが、これで完結となります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




