ep.30
今日は怜と渚視点です。
彼らの心境を書きました。そして二人にはある共通点があります。
それをどうぞ探して下さい。
Side:怜
「・・・そういうわけだ。わかったか、レイ?」
「わかりました。引き続き護衛に当たります。」
「それと、何度も言うことになるが・・・。」
「それもわかっています。ただ・・・。」
「ただ?」
「私は、あの方をお守りするのはもちろん全力を尽くします。
しかし、彼だけでなく、「彼ら」を守っていこうと思っています。」
「・・・護衛対象が増えるのは感心しないな。
あの方にもしものことがあったらどうする?」
「・・・私の死で」
「お前だけの命で償いきれるものではない。
それはお前が一番よくわかっているだろう?」
「・・・はい。」
「それなら優先順位をはき違えないことだ。
あの方とその周りの奴ら、比べるまでもない。」
「・・・・」
「連絡は以上だ。何かあればこちらか追って連絡する。」
ふぅ・・・。やはり疲れる。
身体的にではなく、精神的にだ。
「数字を冠する家」として、その名に恥じないように振る舞うよう
厳しくしつけられてきた。
小さいころから訓練、訓練、訓練。
同い年の友達と遊んだことはない。
相手はいつも自分より何倍も年上の大人。
しかもかかわりはいつも戦いのなか。
でも、それがつらいと思ったことはなかった。
それが自分の中で当然になっていたから。
それでも、公園とかで遊んでいる子供を見ると
多少うらやましかった。
それでも自分はあんな風には慣れないとあきらめていた。
「どうして僕は訓練するの?」
訓練のさなか、そう父親に聞いたことがある。
帰ってきた答えはこうだった。
「お前が将来仕える主のためだ。」
正直、どうでもよかった。
だって、その主を私は知らなかったのだから。
顔も性格も知らない人のために厳しい訓練をするなんて。
そのせいで、私はだんだんと訓練に手を抜くようになった。
もちろん父親は私に怒った。
殴られたし、蹴られたし・・・、魔法もぶつけられた。
それでも、やる気は起きなかった。
自分のためにもならない、かといって誰かのためにもならない。
そんな訓練に、当時の私は「意義」を見いだせなかった。
そんな屑みたいな私を、父親は見捨てなかった。
いや、見捨てれなかったというのが正しい。
この家で跡取りは私だけ。しかも、母は私を生んだ後、
床に伏せてとても子供を産める状況ではなくなっていた。
そして月日は流れ、忘れもしない4年前のあの日。
我が家に訪問者が来た。
それはどうもお偉いさんのようで、未熟者の私は顔を出すのを禁じられた。
私は一人、家の近くで魔法の訓練をしていた。
訓練といってもハードなものじゃない。
幼いころからの習慣みたいなものだった。
慣れた手順をこなし、魔法を紡ぐだけだった。
その油断が、あの悲劇を招いた。
私の魔力が暴走したのだ。
理由はわからない。
とにかく自らの魔力が制御できなくなり
辺りに魔力が渦を巻いた。
これでも有名な血族の末裔。一般人よりも何倍も魔力を保有している。
それが凶と出たのか、とてつもない被害が辺りを襲う。
私はそれを制御しようと必死だった。
しかし、必死になったところで意味はない。
いつも無気力に生きてきた自分にとって、「必死」というのが
分からなくなっていたのだ。
制御もできず、魔力は暴走し続ける。
次第に私は気が遠くなる。当たり前だ。
とてつもない勢いで魔力を放出しているのだから。
もういい。こんな意味のない人生なんて・・・・。
そう一度は諦め、目を閉じた。
だけど、
そんな私を
とてつもない魔力が包んだ。
自分が暴走させている魔力とは比べるまでもなく
圧倒的な力。
ふと、目を開けると。
そこには一人の男が立っていた。
おそらくは自分と同い年くらい。身長も同じくらいか。
でも、違った。
彼から迸っている魔力は自分とは文字通り桁が違った。
一目で悟った。
彼が私を救ったのだと。
その後、父から伝えられた。
「彼が、お前の将来の主となられる。」
それからの私は変わった、劇的にだ。
訓練も生半可なものじゃなくなった。
幾度となく血反吐を履き、何度も何度も倒れた。
それでも、私の心にともった火は消えなかった。
「見えない主」ではなく、「自らが仕えるべき主のため」に
力をつけたいと思った。
自らの命を救ってもらった。
一度は人生をあきらめた自分を救ってくれた。
今の自分が生きているのは彼のおかげだ。
だったら、私には何ができる?
彼のために私はどんな力が震えるか?
私の答えは、「盾」になることだった。
彼を降りかかる災いから守る「盾」になろうと決意した。
それが私を救ってくれた彼に対する恩返しだ。
「あなたが望むなら、私はあなたを取り巻く環境ごと守って見せましょう。
それが・・・・」
あなたに仕える、「盾」の使命ですから。
Side:渚
「・・・この本。」
「あら、ナギサちゃん。今日も来たのね。
・・・って、また難しい本読んじゃって。」
私は、近くの図書館にいた。
もちろん本を借りるためだ。
「見る限りこれは、魔法全般の専門書に
兵法の本だけど・・・
けっこう物騒な本ばかり借りるのね。」
顔なじみの司書の女性にそんなことを言われる。
たしかにこれは一般の高校生、しかも女子が借りるようなものではない。
レベル的には、魔法大学の中でもかなり専門的な知識に分類される。
それでも、私にはこれが必要だった。
彼と、彼らとともに歩いていくには。
私はずっと一人だった。
薄暗い図書館で、本を読んで過ごすだけの意味のない日々。
先生からも、クラスメートからも疎まれ、
孤独に過ごしてきた。
でも、そんな環境から救い出してくれたのが、
シュウだった。
彼は私を「孤独」という名の闇から救ってくれた。
「魔力」を扱えず「無能」と呼ばれていた私を必要だと行ってくれた。
嬉しかった。今だかつてそんなことを言われたことはなかったから。
なによりうれしかったのは、
「今はまだ全然頼りないし、まだ未熟だけど。
月島さんがいつでも寄りかかれるような人になる。」
「俺は、「夢」を叶えるために月島さんを頼り、ずっと信じよう。
だから、月島さんも俺を信じてくれないか?」
この言葉が、冷たくなっていた私の心を温かくしてくれた。
私と同じ境遇で、同じ夢を持っている。
信じてほしい、頼ってほしい。
そして、私を信じるし、頼ってくれると
彼はそういった。
彼は私が求めていたものをすべて与えてくれた。
私の行く末を光で照らしてくれた。
そして、彼以外の人たちともめぐり合わせてくれた。
まだ、完全には信頼は出来ないし、得られないけど。
ゆっくり時間をかけて培っていこうと思う。
彼は私に大きなものを与えてくれた。
だったら、私は彼に何を与えよう?
その答えが「知識」だ。
魔法が使えない私が出来るのは、私の唯一の長所の「知識」だけ。
だから、もっともっと知識を身につけて
彼らの勝率を少しでも上げたい。
彼らの負担を少しでも軽くしたい。
魔法が使えなくても「誇れる力」があるだろう?
そうシュウは言ってくれた。
だから、その力を私はあなたの、あなたたちのために使う。
それが私を闇から救ってくれた恩返しになるだろうから。
「秋に救われた」
これがふたりの共通点です。
でも、彼らは「恩返し」のためだけに力をつけるわけではありません。
多少、秋という人間の「人柄」にも魅かれたからだと思います。
これでチームの団結編は終わりです。
次から本格的に魔導闘演武 予選に入っていきます。
新しい魔法も武器もどんどん出していくのでお楽しみに!