ep,20
視点:勇真
「珍しいじゃない。アンタがアレを使うなんて。」
「アレ?…あぁ、『銃武術』か。」
「いつぶり?」
「約一年間使ってなかったな。」
「それにしては、結構動きがよかったわよ?」
「そうそう。もしかしたら、去年の模擬戦より鋭かったわよ?
銃の狙いも、あなたの気迫もね。」
「手を抜いたらやられる気がしてな。
あいつ、無意識か知らねぇけど、
相当気を当てて来やがった。」
「そんなに??」
「俺が殆ど反射的に銃を使うほどな。」
「……」
俺には、『魔力』に関しては才能と言うのが乏しい。
いや、無いと言っても過言ではないだろう。
それでも、「戦い」に関しては、俺は多少恵まれていた。
『格闘術』と『銃術』だ。
小さい頃から、人一倍『眼』がよかった俺は、いろんなものがはっきり見えていた。
相手の隙も、銃の狙い目も。
それを活かすように何度も指導され、
いくら魔力は扱えなくても、
この二つに関しては、そこらの大人をまとめても余裕であしらえるまでになった。
しかし、この魔法学校に入るに当たって、
俺に『戦い方』を教えてくれていた人が聞いてきた。
「貴方は、どちらの道を選ぶの?」
それは、俺に
『格闘術』を極め、接近戦主体の
『前衛』になるか。
『銃術』を極め、遠距離戦主体の
『後衛』になるか。
どちらの道を選ぶのか、と言外に聞いていた。
そして、俺が選んだのは。
両方。
俺なりに必死で編み出して、
無い頭で振り絞って考えた
俺だけの戦い方。
『格闘術』で、相手に接近戦に持ち込む。
距離を開けられたら、『銃術』で援護射撃。
そして、距離を詰めフィニッシュは
二通り。
『格闘術』か『銃術』か。
俺の『銃術』の才能ってのは、
『射撃』とも言い換えられる。
つまり、狙いは外さないが、威力はあまり伴わないということだ。
『魔法銃』の威力は、魔力の質で決まる。
もちろん、俺には高い破壊力を放てる魔力の質はない。
そこで、俺が着けた力は、
「魔力を圧縮する」ことだ。
その分、弾は小さくなるが
威力も十分出せるようになり。
俺の決め手も増えたってわけ。
…これが俺の、俺だけの戦い方の
『銃武術』である。
ほんとは使うつもりはなかったけど。
シュウと殴りあってるときに感じた
不可視のプレッシャーに耐えきれなくなったから。
思わず声をあげ、使ってしまった。
まだまだ精神面が追い付いてないなー。
未熟ってことだな、うん。
それにしても、あいつの捌きは
ほんとにきれいだった。
中途半端にやれば、力が残り
多少受け流した箇所にダメージがいくはず。
なのに、あいつは
俺の力を寸分たりとも受け止めず。
すべて綺麗に流しやがった。
あんなに綺麗に捌けるレベルとなると、
相当の手練れじゃねぇか?
まぁ、実際にやりあった俺しか気づいてないだろうが…
ほかにも色々隠してるみたいだけど。
いつか、俺らに話してくれるんだろうか?
視点:秋
「お久しゅうございます。四代目。」
俺の数メートル先で、隣のクラスの優等生
四谷 怜が俺に跪いている。
「四代目?いったい何のことだ?」
俺はそう四谷に向けて疑問を呈する。
「とぼけられても無駄です。
私めの家は、「四谷」・・・
つまり、「魔力探知」には絶対の自信がございます。」
と、少し笑うように、自慢げに俺に返す。
「魔力探知」とあるが、「魔力」は人それぞれで違う。
質も、純度も、波長さえも。
それを、五感(といってもほとんどが視覚)で見分けるというものだ。
「私たち「子家」の人間が、どうして「師家」の方々の
「魔力」を間違えるでしょうか?」
なんか、言い回しがくどいな。
「なにかの間違いだ。
俺は、そんなものは知らない。」
と、俺は跪くそいつのよこを通り抜けようとする。
「・・・・「子家」の棟梁、『一橋』からの命でございます。
「復活」に際し、「子家」から一人、四代目のお側に控えるよう
仰せつかって参りました。」
「・・・・・」
俺は、歩みを止める。
「おそらく、「復活」まで時間がないのでしょう。
それにあたって、私があなた様の身を守らせていただく次第。」
「知らん、勝手に言ってろ。」
俺は、その場を立ち去ろうとまた歩き出す。
「よろしいのですか?
あなた様の周りの方々にも危害が加わっても・・・
もし、あなた様が私たちの庇護下に入っていただけなければ、
妃様、吉柳様、そして月島様にも何かしらの危機が及ぶでしょう。」
「・・・・」
「私の命は、四代目。あなた様をお守りすることだけでは
ありません。
私は若輩ながら、様々な訓練、修行を積んできました。」
「・・・・」
「私は、できるならあなた様を取り巻く環境まで守りたい。
少しでも力になりたい。」
「・・・・なぜそこまで俺にかかわる?」
「私は、あなた様の努力を誰よりも近くで見ていた時期がありました。
そして、私はあなた様に救われました。
その恩は我が身ひとつでは到底返しきれるものでは
ございません・・・。
あなた様があの方たちを守りたいと仰るのなら、
私も微力ながらお力添えしたいと思っております。」
「・・・・」
「それにあの方たちといるとき、あなた様はとても楽しそうだった。
あれが、あなた様の居場所だと感じました。」
「それが理由か?」
「そうでございます。」
ふぅ、もうしらをきるのも限界だな。
しかし、こいつあの時のことまだ気にしていたのか?
あれはほとんどお前の実力だろうに・・・・
だが、これが「師家」と「子家」の話となれば別か・・・・。
俺は、目を閉じる。
そして
頭の奥底に仕舞い込んでいたスイッチを
ONにする。
「なるほど、『一』からの命か。
『四』の貴様の家では逆らえはしまい・・・。」
「!!?」
「なんだ?私が四代目といったのはお主であろう?
それとも・・・その「絶対の自信」は虚偽であったか?」
「・・・!め、滅相もございません!」
「ならばよい。
それにしても、お主腕を上げたな。
あそこまで念入りに隠していた「魔力」を
ああも簡単に気づくとは・・・」
「い、いえ!よ、四代目のご指導があったからこそです!!」
「そう言うな、あれはおぬしの実力で勝ち取ったものだ。
胸を張れ。」
「は、はい!」
「それにしても・・・・
「復活」に関して、「子家」は何としている?」
「は。先日、『一橋』様より召集を受け、各「子家」の当主たちで
話し合ったそうですが・・・・
私は詳しい事情を知らされておりませんので、
後程、「師家」のほうに連絡が参るかと・・・」
「そうか。
それでお主、これから私にどう付きまとうつもりだ?」
「私の案は、あなた様の所属されるチームに入り
行動を共にさせていただきたいと存じます。」
「わかった。ならばそうしてくれ。
それと、普段ではそのような口調はやめてくれ。
余計な誤解を生む。」
「わ、わかりました・・・。
しょ、精進いたします!」
「よし。それでは私は戻る。
何かあったらまた知らせるよう「四谷」の当主にも伝えておけ。」
「かしこまりました。」
俺はまた眼を閉じる。
そしてスイッチをOFFにし、
それを頭の片隅に追いやった。
「てことで、よろしくな、レイ。」
「よろしくお願いします、シュウ様。」
おいおい、あんまり変わってないじゃないか・・・