ep,18
お久しぶりです。
今回は少し長めにしてみました。
では、どーぞ。
「ふぅ。もうこんな時間か・・・。」
時間は深夜2時。
今日の放課後借りた本を読んでいたらこんな時間に
なってしまった。
普段はあまり夜更かしはしないのだが・・・
あまりに夢中になりすぎたようだ。
「とはいえ、この本。
ほんとにおもしろい。」
歴史は不得意の俺がスラスラ読めた。
固くはなく柔らかすぎることない文体。
ただ歴史を紹介するだけの一辺倒のものではなく
その場面の裏側のエピソードも数多く盛り込まれていた。
「しかし、この作者・・・・
耳にした覚えがないんだがな・・・・」
背表紙には、この本のタイトルと
作者の名前が記載されいる。
テレビや雑誌に取り上げられたのも見たことないし、
この作者のほかの作品は全く知らない。
それだけ、この本はマイナーということだろう。
あの魔法学園の図書館の蔵書数は、約1000万冊。
その膨大な本たちの中からこの本を見つける。
彼女は、どれだけの時間を費やしたのか?
彼女は、どれほどの努力をしたのか?
新しい本に出会うたびに、その中に記されている
新しい知識を頭に刻み。
幾千もの『未知』を、自らの『既知』に
変えたのだろう?
本を机の上に置き、布団の中に入る。
そして、先ほどの本の内容を頭で反芻しつつ
目を閉じる。
まぶたの裏に浮かんできたのは。
「・・・・じゃあね。」
そういって儚げに笑う、彼女だった。
「おい、シュウ!昨日は何してたんだ??
俺たち、玄関で待ってたのによー!」
「そうだよーっ。
おかげでウチら、生徒指導の先生に
『お前ら、早く帰らんかー!』って怒られちゃったんだからね!」
朝、登校し教室に入ると、
ユーマとムイに怒られてしまった。
「すまん。ちょっと野暮用がな。」
「野暮用??」
マイが不思議そうに首をかしげる。
「詳しいことはあとで話す。
そろそろ授業だろ?」
そういうと、チャイムが朝のHRの始まりを告げる。
ユーマたち三人がしぶしぶといった感じで
自分の席に戻っていった。
「それで、お前たちと合流できなかったわけだ。」
「なるほどなぁ・・・。」
俺は、昨日こと、月島さんとのことを三人に話した。
「シュウくん。月島さんって、
2組の月島 渚さん??」
「そうだが・・・
マイ知ってるのか?」
「知ってるも何も、彼女私たちの学年では
有名だったりするのよ?」
「そうなのか?」
「彼女、「魔力」がうまく扱えないのは知ってる?」
「あぁ、本人から昨日聞かされた。」
「そう。
それでね、彼女はとある事情で「魔力」をうまく扱えなくなって、
担任とか、周りの友達からも距離を置かれているらしいわよ。」
その「とある事情」ってのは、小さいころの事故だけど。
俺がわざわざ言う必要もないだろう。
しかし、おかしい。
なんで、
「なんで、「魔力」が扱えないだけで
周りから嫌がられるんだ?」
と、俺が思った疑問をユーマがそのまま
マイにぶつける。
「彼女はね、少し・・・いや
かなり「異常」なのよ?」
「「異常」?」
「そう。彼女は魔力の扱いではほかの生徒からは
何歩も劣るけれど。
ある一点だけでは、ほかとは線を逸しているわ。」
「ある一点?」
ムイが首をかしげる。
ある一点、それはおそらく・・・・
「「知識」・・・だな?」
「そう。彼女は弱冠17歳にしてはありえない「知識量」を
保有しているらしいの。
一例をあげるなら、私たちも受けた『MAT』。
その中に筆記試験があったでしょ?」
と、マイが俺たちに確認をとる。
同時にユーマが渋い顔をする。
「ユーマは、筆記悪かったもんね。」
「うっせ、ほっとけ!」
「で?その筆記試験がどうかしたのか?」
「彼女は、去年の夏の『MAT』から今回のテストまで
筆記で100点中100点の満点をたたき出しているわ。」
「!!」
ユーマとムイは驚きのあまり口がふさがらないようだ。
実際おれも驚愕している。
前に筆記試験で例題をあげたが、あれは本当の基礎問題。
中には、難しい応用や魔法大学で習うような
専門的な内容も含まれている。
なぜ、そんなに筆記を難しくするかというと。
『MAT』というのは全国共通で行われている。
テストの内容を低い偏差値の生徒に合わせるわけにはいかない為、
なるべくレベルは高めに設定するように・・
と、魔法協会は公言しているからである。
・・・・まぁ、そのレベルがちょっと高すぎる気もするが・・・
そのテストで満点とは・・・
本当に驚きである。
「だから彼女はこの学校で唯一の、
ひいては全国でも3人といない筆記試験評価Sをもらっているの。」
「・・・・・」
「・・・・・」
みんな、驚きのあまり声が出ないようだ。
彼女、そんなにすごかったのか・・・・
「でも、この学校は圧倒的な実力主義。
「魔力」をあつかえない彼女は、やっぱり
邪魔者扱いされているみたいね。」
「・・・・」
「しかも、教師側は彼女が「異常」なのをいいことに
授業に出ないのを黙認しているの。
だから、彼女は毎日図書館にいるんでしょうね。」
そこでふと思い出したのは。
図書館でひとり佇む彼女の姿。
「よっぽど本が好きなんだな?」
「・・・うん、好き。」
そういって無表情だけど嬉しそうにしていた彼女。
「「魔法」で誰かを助けたい。」
そういって憧れと喜びをみちた表情をしていた彼女。
「いくら頑張っても、努力しても私は『無能』。
私は「魔法」が使えないの。」
そういってあきらめたような顔をした彼女。
いろんな彼女の表情が頭の中で渦を巻く。
そして、俺の頭に強く残っていたのは。
「だから私はここにいる。
頼れる人も、認めてくれる人もいない私の相手は・・・
この本たちだけ。」
そういって、とても悲しそうな、辛そうな顔をしている
彼女だった。
「彼女はいつも一人きり」
改めて俺はそう感じた。
あれだけ頑張っているのに。
あれだけ努力しているのに。
何も報われていない彼女のことを考えると
俺は思わず教室を飛び出していた。
「お、おい!シュウ!
もう授業が・・・・!」
後ろからユーマの制止の声が飛んでくるが俺は止まれない。
廊下にいるたくさんの生徒をかき分け。
俺はあの場所へと走る。
「俺は、彼女に同情しているのか?」
自分で自分に問いかける。
違う、俺は彼女を同情しているわけじゃない。
「俺は、彼女を不憫に思っているのか?」
それも違う、彼女を不憫と思ったことは一度もない。
では、なんで俺はこんなに必死になるのか?
それは。
「俺も、「魔法」に救われたんだ。」
「・・・・?」
いつものように図書館で一人でいた彼女にそう
声をかける。
「・・・・いきなり何?」
「俺は、君と一緒で「魔法」に命を救われたんだ。」
「・・・・・」
「このまま死ぬのかと思ったときに
まぶしくてあたたかな光が俺を包んだ。
その光こそが、「魔法」だったんだ。」
「・・・・・」
「君もその光を感じたんだろ?
だから、魔法に強い思いを抱いた。」
「・・・そんな思い、とっくに捨てたわ。」
「それは嘘だ。」
「・・・・どういうこと?」
「君はまだ「魔法」への思いを捨てきれていない。」
「・・・そんなことはない。
私は、魔法なんてもうどうでもいいの。」
「それこそ真っ赤な嘘だ。
「魔法」への憧れと強い思い、それがあるから君はここにいるんだ。」
「・・・・そんなことをわざわざ言いにきたの?」
「いや、違う。」
「月島 渚さん。俺の「チーム」に参加してくれないか?」
「!?」
「俺は本気だ。あなたに加わってほしいと考えている。」
ここに来るまでに考えていたこと。
それは、今後彼女とどうやって接していくか。
ただ図書館ではなすだけ?
ただおすすめの本を聞くだけ?
全く違う。
俺は、彼女と一緒に「魔法」の高みを目指したい。
そう、彼女に伝えた。
「・・・・なんで私を誘うの?
私みたいな「無能」を勧誘してもあなたにはメリットがないでしょ?」
「・・・・」
「・・・私の「頭」をあてにしてるの?
私をただの情報屋として誘ったの?」
「違う。」
「・・・・だったら、なぜ?」
「月島さん。俺はあなたが抱えている苦しみ、辛さを
多少だけど、わかる。」
「!?」
「だから・・・・」
「・・・今、私の気持ちがわかるって言った?」
彼女が俺の言葉にかぶせて言ってくる。
「・・・あぁ。」
俺は肯定した。
「ふざけないでっ!!!」
と、彼女は急に声を荒げる。
「私の気持ちがわかる!?それこそ嘘だわ!!
昨日会ったばかりのあなたに私の気持ちなんかわからない!!」
「・・・・」
「私に同情でもしてるの!?私を可哀そうだと思ってるの!?
それこそ大きなお世話だわっ!」
「それは違う。」
「だったら何!?なんで、私の気持ちがわかるとかいうの!?
慰めなんかいらない!!」
「何度も言うけど、君は「魔法」への強い思いを持っているだろう?」
「しつこいっ!!
私はそんなものは捨てたっていったでしょ!?」
「本当に?」
俺は、問いを重ねる。
「いい加減にして!
私はさっきからそういってるわ!!
もう「魔法」なんてどうでもいいのよっ!!」
「だったら、どうして泣いているんだ?」
「!?」
彼女が自分のほほを触ると濡れていた。
涙が伝っていたのだ。
「自分でも気づかなかったんだろう?
君は、ただ自分の本音を隠し通しているだけだ。」
「それは、ちが・・・」
「違わない。
「魔法」をどうでもいいと本当に思ってるなら
俺のさっきの発言も無視すればいいだけだ。」
「・・・・」
「なのに君はそれをしなかった。
それはなぜか・・・・」
「君の胸にはまだ「魔法」への憧れと強い思いがあるってことだ。」
「!?」
「そうだろう?」
「・・・・」
彼女は答えない。
いや、答えられないのだろう。
きっと今まで自分でも気づけなかったことだから。
それが自分の本心なのか?
それが自分の考えなのか?
「・・・・・」
「・・・・・」
俺と彼女の間に無言が続く。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・さっきも言ったけど。
俺は、この命を魔法に救われているんだ。」
そう俺は言葉を紡いだ。
彼女は顔を伏せている。
その表情は、わからない。
「俺が君にここまでかかわろうとする理由は、
君と俺が同じ夢を持っていたからなんだ。」
「!」
と、彼女は俺の言葉に顔を上げる。
彼女のほほにはまだ涙が輝いていた。
「「魔法」で誰かを救いたい。
君は昨日ここでそういった。
昨日は言えなかったけど、俺の夢も君と同じなんだ。
同じっていっても少し違うところもあるけど。」
「違うところ?」
「俺の夢はね。
「魔法」で、大切なひとを救いたいって夢なんだ。」
「・・っ」
「だから、同じようなって言ったほうがいいかな?
そんな夢をもつ君が俺の前に現れてくれて
とても、とてもうれしかった。」
「・・・・」
「君の気持ちがわかるって言ったのはね。
俺も、「魔力」がうまくあつかえないんだ。」
「!?」
「だから、それに挫折して「夢」をあきらめかけた。
今の月島さんといっしょだね。」
「・・・だったら。」
ここまで黙っていた彼女が口を開く。
「・・・・だったらなぜまた頑張ろうって思ったの?
私は、この「異常」のせいで周りのみんなから見捨てられた。
友達も、本来は生徒の見方であるはずの先生も。
あなたもそうでしょ?」
「あぁ、実際あの時は本当につらかった。
周りに誰もいない。頼れる人もいなくてずっと一人だった。」
「それなのに・・・どうして?」
「俺は、もう一度大切なものを見つけれたから。」
「!?」
「挫折してうなだれている俺にやさしく手を差し伸べてくれる人がいた。
そして、この学校に入ってまた信頼できる友達もできた。」
「・・・・」
「そういう人たちのために、俺はまた頑張ろうって思えた。
その人たちを「魔法」で救いたいって思えたから。
俺は、今も努力していける。」
「・・・・・」
「月島さんは、頼れる人も、信じれる人もいないっていったよね?」
「・・・・そうね。
私にはそんな人はいない。
ずっと一人で、この本たちに囲まれているだけ。
私は、ずっと・・・・」
と、彼女はまたうつむく。
顔から光るものがポタポタ落ちていく。
やっぱり一人はさびしいのだろう。
孤独はつらいのだろう。
まだ17歳の女の子なのに、あんな地獄に耐えきれるわけがない。
あんな「孤独」は・・・・。
「だったら、俺が月島さんが頼れる人になるよ。」
「・・・え?」
彼女は涙でくしゃくしゃになった顔をで俺を見る。
「今はまだ全然頼りないし、まだ未熟だけど。
月島さんがいつでも寄りかかれるような人になる。」
「・・・・」
「俺は、「夢」を叶えるために月島さんを頼り、ずっと信じよう。
だから、月島さんも俺を信じてくれないか?」
「・・・・・」
静かな図書館にまた静寂が広がる。
「・・・・・」
「・・・・・」
何分こうしていただろう?
「・・・・ふふ。」
図書館にきれいな笑い声が響く。
それは、泣いているはずの月島さんの口から流れている。
「??」
「・・・あなたってそんなにお節介だったのね。」
「・・・気を悪くしたか?」
「・・・ううん。大丈夫。」
と、彼女は顔をあげ涙を制服の袖で拭う。
「こんなお節介を受けたのは久しぶり。」
「・・・・・」
「・・・ほんとに信じていいの?」
「ああ。」
「・・・ほんとに頼ってもいいの?」
「ああ。」
「・・・・私、「無能」・・・って言われてるよ?」
「「無能」とか関係ない。
俺には、俺たちには月島さんが必要だ。」
自分の不安を打ち消すように、矢継ぎ早に
俺に質問を重ねてくる。
そのすべてに俺は答えた。
自らの思いが、彼女に届くように。
「・・・・」
「・・・・」
「私を・・・「チーム」に入れてくれるの?」
俺は即答する。
「もちろん!歓迎しよう!」
俺は、笑顔で彼女に向き直る。
「うん、私もう一度頑張ってみようかな。
あなたといっしょに。」
「俺の友達もいるんだが・・・・。」
「そう?それでも、今はあなただけよ。
・・・・私が信じれる人は。」
そういって彼女も俺に向き直る。
「2-2、月島 渚。
2-1、柊 秋のチームに参加させてもらいます。
よろしくね、シュウ?」
「さっそく、呼び捨てかよ。」
「・・・だめ?」
そんな上目使いで見るな。
さっきまで泣いていたから、目がウルウルいてるから
とてつもなくかわいいんだって。
もとからかわいいのに。
「・・・いいよ。好きにしてくれ。」
「・・・ありがと。」
「さて、改めて。
よろしく、月島さん。」
「渚・・・・」
「??」
「・・・渚って呼んで。」
「え、でも・・・。」
「・・・呼んで。」
「・・・わかったよ。
よろしく、ナギサ。」
「うん、よろしく。」
「そういえばさ、」
「・・・なに?」
「ナギサおすすめの本。
めちゃめちゃおもしろかった。」
「・・・それをあって最初に言うべきでしょ!」
そういって笑う彼女は
とてもまぶしくて輝いていて。
涙の跡がついた顔でさえも
ものすごく
きれいだった。
読んでいただきありがとうございました!!
最近、知らぬ間にPV、ユニーク、お気に入りも増えていて
うはうはの作者です!
これからも皆さんが楽しめるように、努力、精進して
まいります。
どうぞ、よろしくですっ!!