はちのみつ
彼は私に蔑まれるのが好きだった。
何もかもに怯え、もはや自分が何を恐れているのかすら分からない彼にとって、一瞬でも私という敵がくっきりと見えるのは、酷く安心するらしい。
苦しげな息を吐きながら、彼の顔は眠っているときよりも食事をしているときよりも安らかだ。
彼はひどいことが好き。
具体的には、痛いこと。私は彼の身体に傷を付けるなんて、本当はしたくなかった。でも痛くないと彼はだめだ。
本当は目を背けて叫び出したくなるような凄惨なことを私は彼にしなければいけない。だって彼が望むから。
そういうとき、私は冷たい殻に自分の目を閉じ込める。氷った私の視線に彼が安堵する。
私は鋭利なものを彼の身体に当てる。
最初のうちは、手が震え、もうやめようお願いだから、と口が勝手に動いていた。でも彼は私の動きを敏感に察知して、私が音を発する前に絶望したような顔になってしまうから、私はそっと、彼の用意した固いものを握り直す。
私は手元が狂わないようにかっちり目を開き、ベテランの外科医のような繊細さで手を動かした。
彼が、微笑むのが、私には分かった。