第いち章‐小旅行
夏休み初日、友達からの誘いも蹴って、僕は長柄山へ向かった。
地図に示されたのは山の中腹あたりの、何もない所。
少し不安になるが、僕は行かないとならない気がする。
手紙に書いていた言葉。
総てを知っているというのなら、親父のことも知っているのだろう。
一年前に自殺した親父のことも。
親父はたまに考え込んだり、放浪癖がある変な人だったけど、自ら命を断つとはとても信じられない。
だから僕は、たとえ嘘だとしても……。
と、考え事をしていると、長柄駅に着く。
ザックを背負って無人駅を出る。
駅前でバス停を探し、市外行きの停留所から山のふもとまで乗っていく。
よし、ここからは自分で歩いていくしかない。
気合いを込めて登りはじめる。
固く踏みしめられた土は、登山客の多さを示していて、僕にとってもありがたい。
蒸すような暑ささえ無ければ、ハイキング程度の山道だ。
特に苦労もなく、六合目まで来たところで一度休憩をとった。
汗でべっとりとしているシャツを張り出している枝に干して、水筒からポカリを注ぎ、一気に飲み干す。
「ふぃー。あちぃ」
呻き、目の前に広がるくさむら、というか山そのものを見る。
地図によるとここを抜けていかなければならないようだ……。
ため息を吐き、ザックから長袖の上着を出して、シャツの上にはおる。ぶら下がっているナタを鞘から抜き、
「てりゃあ!」
適当な枝を叩き切った。
――十分後、荒い息を吐いて僕は木に寄り掛かった。
……調子に乗りすぎた。
これからは邪魔な枝だけを切っていこう。
ぼたぼたと滴れる汗を拭い、再び歩く。
切り飛ばした枝が二十本を超えた辺りで、小屋の影が見えてきた。
小走りに駆け寄り、大きく息を吐き出す。
ここに、手紙の主がいるのか。
……本当に?いや、悩んでいても始まらない。
「……よし」
覚悟を決め、ノックしようと手を上げ、
「開いてる、入りなさい」
中から声がかかる。
どこから、見ていたんだ?
いや、足音か何かを聞いたんだろう。きっとそうだ。怯えるな……僕。
僕は気合いを入れ直し、勢い良くドアを開いた。