第ぜろ話‐招待
はじまりは、ある夏の暑い日のことだった。
夏休みを明日にむかえ、さあ何をして遊ぼうかと悩みながら家に着いた僕は、郵便受けの中に一通の封筒を見つけた。
地味な茶封筒に、僕の名前が書いている。
差出人は……書いてないや。
カバンを居間に投げ捨てて、封を開け、中をみる。一枚の地図と、便箋が入っている。
「どこの地図だろ」
呟いて、もう一枚の便箋に目を向けると、こんなことが書いてあった。
『君に総てを教えよう/ここにくれば何もかもがわかる/君の知りたいこと総てが』 ぷ。
あんまり馬鹿馬鹿しくてついつい吹き出してしまった。
全部わかるって?じゃあ宿題の答えでも教えて欲しいもんだ。
ごみ箱に目を向けて――思い止まる。
……うん、でもまぁ。
暇だしね。夏休みだし。 財布の中身を思い出しながら地図を手に取り、駅を探す。 ――鉢田駅。ここからなら往復でも千円くらいで帰ってこれる、かな。
よし、決めた! 夏休み最初の一日は、旅行だ!
忌々しい通信簿をテーブルの上に放り出すと、僕は準備をするために物置に突入した。
えっと、目的地は山だから、水筒と帽子。
それに、虫除けのスプレイかな。
目についたものをザックに詰め込んで、自室に戻り、もう一度地図を眺める。
駅からはバスで近くまで行けるようだ。大体三十分も歩けば着きそうだな。
うん。準備はできた。後はぐっすり眠って明日を待つのみ、だな。
――結局、緊張したのか、その日はよく眠れなかった。
大分前に習作として書いた短篇です。再び、人とは違う力を持ってしまった人の話ですが、能力についての世界観はリンクしていません。楽しんで読んでくれれば、幸いです。