会話文だけで物語は成立するのか
二人で話をしています。
「ぶっちゃけた話……、誰もやった事が無いような、作品を書いてみたいんだよね」
「ふ〜ん。でも、誰もやった事の無いって、難しいんじゃねぇの?」
「そなんだよね。でも、皆がやってるけど、誰もやった事が無いかもしれない事ならあるんだよね」
「うん? 何それ?」
「簡単だよ。簡単じゃないけど……」
「どっちなんだよ! 気になる言い回しすんなよな!」
「会話だよ」
「ぁあ!? 会話ぁ!?」
「そう会話。会話文だけで、長文を書くんだよ」
「そんな簡単な事でいいのかよ?」
「簡単そうに感じるだろ?」
「感じるも何も、簡単じゃねぇか!」
「そう思うかい?」
「ああ、簡単だよ!」
「それが、そうでもないんだよね」
「何、椅子に踏ん反り返って「そうでもないんだよね」だ!」
「お前だって、さっきから人の話聞く態度じゃないじゃん」
「どこがだよ! ずっとお前の、目ぇ見ながら話してんじゃねぇかよ!」
「目見てって、机に座って片膝立てて、上から見下すように見てるじゃんかよ」
「うっせぇな!」
「言われて、座り直さなくていいよ」
「なんなんだよ!! どっちだよ!」
「だからって、机に座らなくていいからね」
「あ〜! もう、うっせぇな! 椅子に座ったら、座り直さなくていいって言うし、机に座ったら、しなくていいって言うし……。あ〜、もう! はっきりしろよな!!」
「まあ、俺はどっちでもいいんだけどさ」
「あ〜! 分かった分かった。で、……会話文での長文のどこが難しいって言うんだよ!?」
「あ、話、元に戻ったね」
「戻さねぇと、ずっとお前、俺の座る場所の話すんだろ!?」
「だって、お前が話聞く態度だって言うからじゃないか!?」
「だ・か・ら、それは目ぇ見て……って、もうその話はいいよ!」
「面白いなお前。結局、椅子にちゃんと座ってるし」
「もうその話は、どうでもいい!! 会話長文の話だ! 会話長文の話!」
「逆ギレは、よくないよ」
「キレてねぇよ!」
「キレてんじゃん」
「うっせぇ! キレてねぇって言ったら、キレてねぇんだよ!」
「アハハハ! そんなに真剣にならなくても」
「あ〜。……お前、さっきの話すん気あんの!? それともねぇの!?」
「ん? そうだね。話戻そっか」
「「戻そっか」じゃねぇよ! さっきから、脱線してんのは誰のせいだよ!」
「お前」
「ぁあ!? 俺? 俺じゃねぇよ! お前だろうがよ!!」
「だから、そんなに真剣にならなくても」
「真剣にもなるわ!! あ〜、汗かいてきた……」
「エキサイティングしているみたいだから、そろそろクールダウンしようか……」
「…………」
「あら? 黙っちゃった。ま、いいか。……でね、会話文での長文なんだけど、会話だけで構成すると、背景が見えないでしょ?」
「まあな。話だけだからな」
「でも、小説って事は、背景や感情ってのも、表現しないといけないんだよね」
「そりゃぁそうだわな。辺りの様子が見えないんじゃ、会議の議事録見てんのと、たいして変わんねぇからな」
「分かってるじゃない。だから、簡単だけど、簡単じゃないんだよ」
「そうか? 簡単そうだけど」
「今の話聞いてた?」
「あぁ聞いてたよ。お前が踏ん反り返ったまま、饒舌に話しているのを、注意を受けたから、ちゃんと座ってな」
「そだったね。ホント、ちゃんと座ってるや」
「気付くポイントは、そこじゃねぇだろ!?」
「じゃ、何が難しいか分かった?」
「背景とか、感情だろ!?」
「正〜解〜! よく出来ましたぁ!」
「よく出来ましたじゃねぇよ! 手ぇ叩くな!!」
「正解者には、拍手だよ」
「クイズじゃねぇだろがよ!」
「ほらぁ、すぐ真剣になる」
「うっせぇよ! お前が悪ぃんじゃねぇかよ!」
「俺?」
「そう、お前!」
「俺?」
「お前だ! お前!」
「俺?」
「もういい! うっせぇ!」
「アハハハ。真剣になった」
「分かった。真剣になって悪かったな!」
「別に悪くないよ」
「もういいから、俺はちゃんと話聞いてただろ!」
「うん。聞いてた。聞いてた」
「何笑い泣きしてんだよ!」
「ゴメン。ゴメン」
「ゴメンじゃねぇよ! 続きを話せよ!」
「ん、うん。分かった」
「で……、何が簡単じゃねぇんだよ!?」
「背景や感情が表現しにくいって事は、小説として成り立ち難いって事になるんだよね」
「それが?」
「「それが?」じゃないよ。成り立ち難いって事は、書き難いって事じゃないか!」
「そだな」
「もう! 分かって相槌打ってる?」
「分かって、相槌打ってる」
「本当に?」
「本当に」
「オウム返しじゃなくて?」
「オウム返しじゃなくて」
「うわぁ! その返事ウザイ」
「お前よりマシ」
「あれ? 俺の聞き間違い?」
「いや、正常だろ!?」
「オウム返しじゃなくなった?」
「オウム返しじゃなくなった」
「マジ、ウザイ」
「マジ、ウザイ?」
「話戻す!」
「ああ、そうしてくれ」
「書き難いんだよ。書き難いって事は、難しいって事。簡単じゃないって事なんだよ」
「それは違うと思うな」
「どうしてさ?」
「書き難いってのは、分かった。でも、書き難いってだけで、簡単じゃねぇっていう事とは、イコールで結んじゃいけねぇ」
「何を根拠に?」
「よく考えてみろよ。書き難いだけだ。書けないんじゃねぇ。書けないんじゃねぇって事は、書く方法があるって事だ。その書く方法が分からねぇから、簡単じゃねぇ・難しいって思っちまうだけで、書く方法さえ分かれば、そんなに難しい事じゃねぇんじゃねぇのか?」
「よく長々としゃべったねぇ」
「真面目に聞けよ!」
「真面目に聞いてるよ」
「じゃあよ。皆がよく知ってる話で試してみろよ」
「よく知ってる話?」
「そうだな。桃太郎とかどうだ?」
「長くない?」
「誰が全文書くんだよ!?」
「全文じゃないの?」
「たりめぇだろ! はしりだよ! 冒頭部分とかよ」
「分かった。じゃあ、やってみるね」
「おう! 見ててやるよ」
「う〜んと……。昔、昔あるところに……」
「おいおい。それじゃ、会話になんねぇだろ!?」
「じゃ、どうすんのさ?」
「ちょっと貸してみ」
「分かった。はい」
「…………こんな感じでどうよ!?」
『婆さんや。今日も山へ芝刈りに行ってくるよ』
『そうですか。では、私も洗濯に行きましょうかね』
『気をつけるんじゃぞ』
『お爺さんこそ、気をつけてくだされ』
『うむ。分かった。では、行ってくるぞ』
『はい。いってらっしゃい。……では、私も行きましょうかね』
『おや? あそこに見えるのは、何じゃろうか? ……ぉお、桃じゃ! 大きな桃じゃ! これは、洗濯などやっておる場合ではないな。ほれ、こっちゃこい。ほれ、こっちゃこい。おうおう、立派な桃じゃ。どれ、持って帰って、お爺さんと食べようかねぇ』
『何じゃこの大きな桃は!?』
『お爺さん。そんなに大きな声を出さなくても、私は聞こえていますよ』
『じゃが、この桃の大きさは……』
『そうでしょう? 川で洗濯しておりましたら、山の方からゆっくりと流れてきましてね。お爺さんと食べようかと、持って帰ってきたのですよ』
『そうじゃったか。それにしても、驚いたのう』
『そうでしょうねぇ。私も見付けた時は、驚きましたから。お爺さんの気持ちも、分からないではないですよ』
『そうか。じゃったら、早速切ってみるかの』
『分かりました。では、準備してくるので、ちょっと待っててくださいよ』
『…………。婆さんや、まだかいのぅ』
『もう少し待ってくださいよ。その大きさじゃから、包丁をきちんと研いでおかないと、いけないですからね』
『…………!! 婆さん! 婆さんや!』
『お爺さん。子供じゃないんですから、静かに待っててくださいね』
『婆さん違うんじゃ!』
『どうしたんですか? そんなに慌てて』
『桃が……。桃が!!』
『桃がどうかされましたか?』
『桃が……。勝手に動いとるんじゃ!』
『お爺さん。桃は逃げませんから、勝手には動きませんよ』
『違うんじゃ! 婆さん、ちょっと来てくれんか!?』
『お爺さん! そんなに引っ張ったら、危ない。私は、包丁を持っているんですよ』
『分かっておる。じゃが、急いでくれ!』
『はいはい。分かりましたよ。……って何が動いてるんですか?』
『ありゃ? 違うんじゃ婆さん! さっき、確かに動いたんじゃ!』
『そうですか。なら、そうしておきましょうか。でも、もう動きませんよ。今から、切りますからね』
『うむ』
『そんなに唾を飲み込まなくても……』
『うむ』
『では切りますよ』
『ちょっと待て、婆さん! 動いておる! 中から何か出てきそうじゃ!』
『あれあれ、本当に動いてますねぇ』
『婆さん! 何を落ち着いておるんじゃ!』
『ほれ。何か出てきますよ』
『桃が! 桃が、勝手に割れよった!』
『おうおう、これはまた可愛いらしい赤子が出てきおったわ』
『桃から何故赤子が出てくるんじゃ!』
『この子は、子供のできない私達への、仏様からの贈り物じゃ』
『だから婆さん、何故そんなに落ち着いておるんじゃ!』
『そうですねぇ。名前どうしましょうか?』
『わしの話を聞いておるのか!?』
『桃から出てきた男の子なので、桃太郎というのは、どうでしょう?』
『いや、名前以前にだな……』
『桃太郎。勇ましい名前ですねぇ』
『だから婆さん、わしの話を聞いてくれ!』
『よしよし、桃太郎や。桃の残りを食べましょうかね』
『おーい! 婆さんやーい! 耳、聞こえておるかぁ!?』
「す、すげっ!!」
「ふふん! どーだ!」
「本当に、会話だけで冒頭部分が見える」
「さっきまで踏ん反り返っていたお前は、どこいったよ! そんなにノートを見続けるなよ!」
「お前こそ、ちょっとは偉そぶっても、いいんじゃないか? 椅子に座ったままでよぅ!」
「もう、その話はいいよ」
「ちゃんと、話になってんじゃんよ!」
「お前、それ見る前と後で、性格変わってねぇか!?」
「そんな事ないよ」
「そんな事あるよ!」
「どこが!?」
「そこが」
「でも最後、お爺さんとお婆さんの話噛み合ってないよ」
「わざとだよ! この方が、コメディーだろ!? ってお前、話上手い事すり替えたな」
「へへん」
「そこは、威張るトコじゃねぇ!」
「分かった」
「あっさり引き下がられても、張り合いがねぇ!」
「まあ、そんなに熱くならないで」
「お前と話してると、いつも俺が不利だな」
「真剣になりすぎるから」
「……やば! また、お前のペースに巻き込まれるトコだった」
「チッ!」
「お前、今舌打ちしたろ!? やっぱし、性格変わってねぇか!?」
「ま、それはともかくとして、お前の書いた書き方なら、会話文だけでの長文も、簡単じゃないって事はないのかもしれないね」
「また、ややこしい言い回しをしたな」
「そう?」
「そう。って答えると、また長くなるから、話を進めよう!」
「なんだ、つまんない」
「お前の娯楽か!」
「そう」
「……。で、簡単じゃない事はないんだったら、難しいけど、書けない訳じゃないって事だよな!」
「そうそう。その通り」
「じゃ、新たに何か話考えてみろよ!」
「明日まで待ってくれる?」
「分かった。明日な。楽しみにしてるぜ!」
「じゃあ、今日は帰ろうか?」
「長い放課後だったな」
「そう?」
「もう、その手には引っ掛からん!」
「つまんな〜い」
「つまんなくて結構!」
「もう!」
「じゃあ、明日な!」
「うん。バイバイ」
「おはよ!」
「お! はよっ! ってお前、出来たのかよ!」
「うん。また、放課後のお楽しみ」
「分かった。じゃ、また放課後な!」
『雨だねぇ』
『雨だな』
『やまないねぇ』
『やまないな』
『ずっと降ってるねぇ』
『ずっと降ってるな』
『いつまで降るんだろうねぇ』
『いつまでだろうな』
『もう三年だねぇ』
『そんなに長い事降ってないだろ!』
『来年で三年じゃんか!?』
『突然、学年の話かよ!』
『大変だねぇ』
『勉強も難しくなるだろうしな』
『傘無いから』
『雨の話!?』
『忘れてたもんねぇ』
『だって、登校前は降ってなかっただろ?』
『進路相談会の事』
『え、そっち?』
『君、どうする?』
『俺? 俺は就職しようかと思ってるけど……』
『そっか。じゃあ、来年でお別れだね』
『お前、どうするんだよ』
『僕は来年、留年するからもう少し学生でいるよ』
『え、もう留年決定なの?』
『これから先、長そうだもんねぇ』
『そりゃ、まだ十七だからな』
『なかなか、やまないし……』
『雨の話に戻ったの!?』
『ビニール袋でもあったらなぁ』
『この土砂降りじゃ、ゴミ袋でレインコートは無理だよ』
『鞄濡れなくて済むのに』
『あぁ、鞄の心配かよ』
『君、どうする?』
『何が?』
『質問に質問で返すのは、感心せんなぁ』
『お前、いつの人間だよ!』
『ま、いっか』
『だから、何が!?』
『じゃ、僕帰るね』
『おう! って何処にだよ!?』
『僕を待ってる人がいるんだ』
『だから、何処にだよ!』
『待っててね。今、帰るから』
『おい! 大丈夫か? ここ、お前ん家だろ!?』
『ただいま! 姉ちゃん! ……あれ? 君、帰らないの?』
『って家に入るのかよ!』
『ん? どうしたの?』
『何でもないよ!』
『じゃあ、また来年!』
『来年?』
『うん。僕、出席日数が足りてないから、どれだけ学校行っても、来年は二年なんだ』
『留年って今年?』
『ううん。一月一日を越えるから来年』
『何だよそれ!』
『じゃあね。バイバイ』
『お〜い! 言いたい事言って、家に入るなよ!』
『何で?』
『うわっ! ビックリした! まだ、そこにいたの!?』
『うん』
『傘くらい、貸してくれよぉ』
『傘貸せるんだったら、袋渡してるよ』
『それもそうだな……って、おい! くそぉ、本当に帰りやがった。マジかよ! 走って帰るか! って、ん? 雨、やんでるじゃないか!』
「何だこれ?」
「会話文だよ」
「オチは?」
「特にない」
「真剣に読んで、損したじゃねぇか!」
「だからお前、真剣になりすぎなんだよ」
「普通、真剣に読むだろうがよ!」
「普通、真剣に読むの?」
「そりゃそうだろ!!」
「そうだね。今日も、ちゃんと座ってるし」
「座り方の話は、もういい!」
「あ、そう? 残念」
「残念。じゃねぇよ!」
「話変わるけど、明日はお前が考えてきてよ」
「変わりすぎだろ! てか、俺が考えるのかよ!」
「お前の方が、面白い話書けそうだし」
「分かったよ! つーか、この話いつまで続くんだよ!」
「ここで終わるよ」
「俺の書いてくるヤツは、いいのかよ!?」
「それは、読者にお任せさ! お前が面白い話、書けたかどうかってね」
「そんな適当でいいのかよ!」
「いいんじゃないの?」
「あ〜! マジやってらんねぇ!」
「だからお前は、真剣になりすぎなんだよ!」
「うっせぇよ!」
長いめの会話文で構成したので、読みにくくなかったですか?




