9検体 「ウサギの身になって考えてみろ」
タンポポ畑でのデートを終え、リヒトは家というには何もない原っぱに寝っ転がっていた。
目を閉じると、草や木々が風に揺られる音だけが聞こえる。
本当にいいところだな……。
まだ、らびらびランドに来て日は浅いが、ここでの生活を気に入り始めていた。
「なんだ、ウサギとのデートは終いか?」
風に揺られる木々とは違う、実に腹立たしい聞き慣れた声が聞こえた。
こいつに話しかけられると碌なことがない。
「別にデートじゃねぇよ」
「そうか?
随分と楽しそうにしていたと思ったが、我の勘違いだったか」
……正直、すげー楽しかった。
ウサギ、かわいかったし。
でも、こいつに対してそれを認めるのはなんだか癪だ。
「それで、今度はなんの用だ?
また、肉食獣の巣にでも行くのか?」
「連れていくわけなかろう。
お前に2度も逃がされては、たまったものではないからな」
「悪かったって……。
そんなに根に持たなくても良くねぇ?」
やっちまった時に言わねぇで、後からネチネチ言ってくるとか、めんどくせぇ上司の典型だな。
「お前にとってはその程度の過ちなのかもしれないが、それによってウサギがどんな目に遭っているか考えたことはあるのか?」
「どんな目にって……」
「昨日まで隣で笑っていた仲間が目の前で喰い殺され、次は自分ではないかと怯えるウサギたちに、そのようなことが言えるのかと問うてる。
もう少し、ウサギの身になって考えてみろ」
……そうだ。
俺にとっては小さなミス。また頑張ればいい。
だけど、ウサギは?
常に狙われる恐怖に怯え、苦しんでいる。
タンポポ畑に連れていってくれたあの子も、家族を仲間を、失っているかもしれないのに……。
リヒトは、自らの考えの甘さを突きつけられ、グッと下唇を噛む。
「……そう、だよな。
俺、ちょっと甘く考えすぎてたかもしれねぇ……」
「ようやくわかったのか、戯けめ」
「俺、言い訳ばっかりしてたけど、ちゃんとやる。
ウサギも、あのタンポポ畑も、らびらびランドも俺が護る」
「うぬ。良い心がけだな。
まあ、我もそのようなウサギの話は聞いたことがないがな」
「…………は?」
こいつ今……、なんて言った……?
「モフモフの毛のおかげで、致命傷を負うウサギはいないからな。
軽いから、狙われても綿毛のようにひらりとかわしておるし」
「……つまり、さっきの話は?」
「我の豊かな想像の話じゃ!
どうだ? なかなか良かっただろう」
こいつ……、まじでクソ腹立つ!!
つーかそんな縁起の悪い作り話すんじゃねぇよ!!
……待てよ。
それならどうして絶滅しかけてるんだ……?
「なぁ、それならなんで絶滅しかけてんだ?」
「知らぬ」
「は?」
「だから、知らぬ。
それを見つけるのが分析屋さんの仕事だろう?」
なんの疑いもなく、神ちゃまは俺の目を見る。
このクソ上司が……。
そう言いたい気持ちをなんとか必死に飲み込みつつ、明日はウサギ本人(?)に話を聞いてみようとリヒトは思った。




