第九話:新宿焦土の百鬼夜行
歌舞伎町の空に開いた虚無の穴が、周囲のビルを飴細工のように歪め、飲み込んでいく。エリザベートの影の軍勢と、リリスの幻惑が道満の防御を切り崩し、ようやく反撃の糸口が見えた。
「今だ! 全員、一点に火力を集中させろ!」
俺の号令と共に、凛の黄金の炎、ミズキの極大の氷柱、レンの真空波、コハクの地獄の火車、そしてショウの幸運の鉄拳が、道満の結界へと叩き込まれる。
「……ぐ、おぉっ! おのれ、晴明!」
道満が膝を突き、漆黒の狩衣が激しく燃え上がる。だが、その瞳には未だ絶望の光が宿っていた。
「……やはり、前座では足りぬか。ならば呼び覚まそう。この星の裏側に封じられし、最強の破壊神を!」
道満が自身の心臓を掴み、どす黒い霊力を大地へと流し込んだ。 瞬間、新宿の地下から巨大な咆哮が響き渡る。
地割れから現れたのは、これまでの妖怪とは一線を画す、圧倒的な質量。
「……八岐大蛇だと!? バカな、あれは神代に葬られたはずだ!」
凛が叫ぶ。現れたのは、八つの首がそれぞれ現代の兵器や機械を取り込み、鋼鉄の鱗を纏ったサイバー・オロチだった。
一噛みで高層ビルを粉砕し、その目からは高出力の魔導レーザーが放たれる。
「ははは! 見ろ、これぞ文明の末路だ! 科学と呪いが融合した、最強の『終焉』だ!」
道満の声が狂気に満ちる。オロチの参戦により、戦場は一気に混戦へと化した。
ミズキの氷は熱線で蒸発し、レンの風は巨体の突進に弾かれる。
リリスやエリザベートですら、神格を持つ怪物の前では防戦一方となった。
「……っ、主様、これじゃ近づけない! みんな、やられちゃうよ!」
ショウが懸命に福を振りまくが、オロチの放つ『確定した滅び』が幸運を上書きしていく。
俺は唇を噛み締めた。
かつての晴明ならば、ここで諦めていたかもしれない。
だが、今の俺の背中には、千年の時を超えて集まった仲間たちがいる。
「……凛、皆の者、聞け!」
俺は懐から、最後の一枚……白紙の呪符を取り出した。
「これより、俺の全霊力を以て、お前たちの存在そのものを一つの『神話』へと昇華させる! 東洋も西洋も関係ない。この現代を愛する全ての者の力を、俺に貸せ!」
俺は指先を噛み切り、血で符に巨大な五芒星を描いた。
「急急如律令! 百鬼夜行、最終奥義……『黎明の万華鏡』!」
俺の背後から放たれた光が、美少女妖怪たちの姿を一つに束ねる。
彼女たちの力が俺の剣へと凝縮され、新宿の夜を白銀の輝きが支配した。
「道満! お前が見ているのは過去の絶望だ! 俺たちが見ているのは、明日を生きるための光だ!」
俺は光り輝く剣を構え、八岐大蛇の心臓部……そして不敵に笑う道満の眉間めがけて、最後の大跳躍を見せた。
【後書き:安倍晴明】
いよいよ最後だな。
まさか道満がオロチまで持ち出してくるとは思わなかったが……。
今の俺には、かつての一人きりの戦いとは違う温かさがある。
凛、ミズキ、レン、コハク、ショウ、リリス、エリザベート。
不揃いな彼女たちが、今、俺の手の中で一つの巨大な光になっている。
この一撃に、千年の想いと現代の希望をすべて込める。
読者諸君、これが最後だ。
俺たちの『百鬼夜行』が、この深い夜を終わらせる瞬間を。
しっかりとその目に焼き付けておけよ!
さあ……、決着をつけようか、道満!




