第七話:西方の夢魔と電脳の迷宮
道満が放った漆黒の波動は、歌舞伎町のネオンを次々と飲み込み、街を音のない静寂へと変えていく。
人々の魂は抜き取られ、抜け殻となった肉体だけが街中に溢れていた。
「……っ、主様、結界が持たないよ! 奴の呪が強すぎる!」
凛が歯を食いしばり、九本の尾で闇を押し留めるが、道満の操る現代の怨嗟は底が知れない。
俺たちの百鬼夜行は、数の暴力と圧倒的な質量に押し潰されようとしていた。
「晴明、お前の限界だ。東洋の神秘など、現代の肥大化した欲望の前では無力に等しい」
道満が勝ち誇ったように扇を翻したその時、空から場違いなほど甘い香りが漂ってきた。
「あらあら……。東洋の陰陽師同士で、随分と野蛮な喧嘩をしているのね?」
闇の空を裂いて舞い降りたのは、蝙蝠のような漆黒の翼を持つ少女だった。
体にぴったりと張り付いた紫のドレスを纏い、長い金髪をなびかせた彼女は、空中で優雅に脚を組み、俺たちを見下ろした。
「……サキュバスだと? 異国のあやかしが、何故この地に」
「サキュバス? 私はリリス。この眠らない街の『夢』を管理する者よ。……貴方、いい眼をしてるわね、陰陽師様。私のコレクションに加えたくなるくらい」
リリスと名乗った少女は、指先を唇に当てて艶めかしく微笑んだ。 彼女は中世ヨーロッパから、人の夢と欲望を求めて海を渡ってきた夢魔。
現代ではSNSや仮想空間に潜み、人々の承認欲求を糧にする「電脳の妖怪」として君臨していたのだ。
「リリスと言ったか。道満が呼び覚ました空亡は、お前の糧である『夢』すらも喰らい尽くすぞ。奴を倒すために、力を貸せ」
「いいわよ。あんな無粋な塊に、私の愛する子供たちの夢を汚されるのは我慢ならないもの。……その代わり、勝ったら貴方の『一番深い夢』を私に捧げてくれる?」
「……交渉成立だ。今はこの危機を脱するのが先決だ」
俺が契約の五芒星を空に描くと、リリスは満足げに瞳を輝かせ、翼を大きく広げた。
「みんな、私の後ろへ! 夢と現実の境界を曖昧にしてあげる!」
リリスが放った桃色の霧が、道満の闇とぶつかり合い、幻想的な光を放つ。
彼女の能力は「魅了」と「幻惑」
道満が操る怨嗟の標的を、リリスが作り出した虚像へと逸らしていく。
「面白い。異国の魔を組み込むとは、節操のない男だ」
道満が不快げに顔を歪めるが、リリスの幻惑によって、空亡の腕は空を切り、俺たちへの直接的な打撃を失った。
「今だ、凛、コハク、ショウ! 幻影に紛れて奴の懐に飛び込め!」
「「「御意!」」」
東洋の武力と、西洋の魔性。 二つの文化が交差した、かつてない多国籍な「百鬼夜行」が、道満への反撃を開始した。
【後書き:リリス】
チャオ!
リリスよ。まさかこんな東の果てで、伝説の陰陽師様とお仕事することになるなんてね。
私の翼に触れたい?
ふふ、それはもう少し仲良くなってからね。
それにしても、主様の魂はとっても甘くて、刺激的な香りがするわ。
道満とかいう陰気な男に壊させるには、あまりにも惜しい極上品よ。
私の魔法にかかれば、どんな悪夢も甘い誘惑に変えてあげられる。
さあ、主様。
私と一緒に、最高の『夜の行進』を続けましょう?
次の夢の中で、貴方のことを待っているわね。




