表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎明の百鬼夜行戦記  作者: 沼口ちるの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/11

第六話:闇に堕ちた五芒星

空亡くうぼうの幼体が浄化の光に消え、地下廃隧道はいずいどうには束の間の静寂が訪れた。


ショウがもたらした瑞々(みずみず)しい若草の香りが、死と絶望の臭気を上書きしていく。


「ふぅ……。主様あるじさま、悪い子はもういないよ?」


ショウが満足げに胸を張ったその時、俺の背筋に氷柱つららを突き立てられたような戦慄せんりつが走った。


「……瑞々しいな、晴明せいめい。だが、その程度の光では、この時代の底知れぬ闇を照らすことはできんぞ」


廃道の奥、陽炎かげろうのように揺らめきながら一人の男が姿を現した。 漆黒しっこく狩衣かりぎぬまとい、顔の上半分を狐の面で隠した男。


その手に握られたおうぎには、上下を逆転させた不吉な「逆五芒星ぎゃくごぼうせい」が刻まれている。


「その声……。蘆屋あしや……道満どうまんか」


俺がその名を口にすると、りんが獣のようなうなり声を上げた。 蘆屋道満。


かつて平安の世で俺と幾度いくどとなく死闘を繰り広げた、非官人の陰陽師。


正道を歩む俺とは対照的に、しゅ外法げほう極致きょくちを求めた男だ。


「懐かしい名だな。だが今の私は、その名すら捨てた。この現代に渦巻く万の呪い、億の怨嗟えんさ……それらすべてを束ねる者として、ただの観測者に過ぎぬ」


道満が扇を静かに閉じると、周囲の空間がガラスのようにひび割れた。


ショウが作り出した幸運の領域りょういきが、どす黒い霧に侵食しんしょくされていく。


「主様、危ない! この人の周り、悪い運ばっかりだよ!」


「下がっていろ、ショウ! こいつは今までの怪異とは格が違う!」


俺は即座に三枚の呪符じゅふを連ね、防御の結界けっかいを張る。


道満はかすかに嘲笑(あざ笑)うと、くうに向けて一指しを放った。


「晴明よ、お前が愛でるその妖怪あやかしどもも、所詮しょせんは過去の遺物。現代の闇が産み落とした『真の空亡』のかてに過ぎん。……目覚めよ、常世とこよの王よ」


道満の影が急激に膨れ上がり、地下空間の天井を突き破った。


地上……歌舞伎町の喧騒けんそうの真っ只中に、巨大な虚無きょむの穴が開く。


「奴が空亡を呼び覚ました黒幕か……。凛、レン、ミズキ! 地上へ出るぞ! 街が飲み込まれる前に奴を叩く!」


「「「御意ぎょい!」」」


俺たちは崩れゆく廃道を駆け上がり、光のない夜の街へとおどり出た。


そこには、空を覆い尽くさんばかりの漆黒の巨影と、その頭上で不敵に笑う道満の姿があった。


「さあ、始めようか。千年越しの決着を。……もっとも、お前が守ろうとするこの無価値な文明が、どこまで耐えられるか見ものだがな」


悪の陰陽師の扇が振るわれるたび、現代の摩天楼まてんろうが一つ、また一つと闇の中に沈んでいく。



【後書き:蘆屋道満】


ふふふ……。ようやく表舞台に立てたというわけか。


晴明、お前のその正義感に満ちた顔を見るのは、千年経っても反吐へどが出る。


この時代の人間どもを見てみろ。


手のひらの上の小さな板を眺め、他人を呪い、憎しみ、自ら闇を育てている。


空亡を呼び覚ましたのは私ではない。彼ら自身の欲望なのだよ。


お前が従える美少女妖怪たち……。


ふん、可愛らしいお遊びだ。


だが、その健気けなげな魂が絶望に染まる瞬間は、さぞかし美しいだろうな。


楽しみだよ、晴明。


お前がすべてを失い、私の前で膝を突くその時が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ