第五話:福を呼ぶ赤髪の童子
空亡の卵から溢れ出した暗黒の霊圧が、地下廃隧道の壁をミシミシと軋ませる。
殻を破って現れたのは、無数の人の腕が複雑に絡み合い、巨大な車輪のような形を成した異形だった。
「主、あいつヤバいよ! 霊圧の密度がさっきまでと段違いだ!」
レンが叫びながら真空の刃を放つが、漆黒の車輪はその攻撃を容易く弾き飛ばし、猛烈な勢いでこちらへと突進してくる。
「……退け。そいつを呼び込んだのは、この場所が『不運』に満ちているからだ」
地響きではなく、どこか懐かしく温かい気配と共に、廃隧道の奥から一人の少女が歩み寄ってきた。
燃えるような赤髪を左右で結び、現代のオーバーオールを纏った小柄な少女。
だが、彼女の周囲だけは、淀んだ地下の空気が嘘のように清らかに澄み渡っている。
「赤熊のショウか。……四国の山奥で眠っていたはずではなかったか」
凛が驚きに目を見開く。
赤熊とは、家に富をもたらし、災厄を退ける座敷童の系譜。
彼女が居座る場所には幸運が舞い込み、彼女が去る場所には衰退が訪れると言われる、運命の守護者だ。
「山は退屈なんだもん。主様が目覚めたって聞いたから、福のお裾分けに来てあげたよ」
ショウと呼ばれた少女は、小さな手を空にかざした。
すると、突進してきた黒い車輪の勢いが、まるで目に見えない壁に阻まれたかのように急激に減衰していく。
「主様、見てて。ショウがこの場所を『幸運』で満たしてあげる」
ショウが地面を軽く踏みしめた。
瞬間、コンクリートの床から瑞々(みずみず)しい若草が芽吹き、暗黒の霊圧を浄化していく。
彼女の能力は破壊ではない。絶望という不運を、希望という幸運へと塗り替える因果の逆転だ。
「主様、今だよ! ショウが道を作ったから、みんなの攻撃は絶対に外れないよ!」
ショウの瞳が赤く発光し、俺たちの体に温かな活力が漲る。
「……いいだろう、ショウ。お前の加護、確かに受け取った! 凛、ミズキ、レン! 必勝の好機だ、一斉に畳みかけろ!」
俺の指示が飛ぶ。ショウの作り出した「幸運の領域」の中では、ミズキの氷は敵の急所を正確に貫き、レンの風は乱れることなく敵を切り刻む。
俺は呪符を宙に散らし、ショウの霊力を増幅させるための祈祷を開始した。
「急急如律令! 万福招来、悪鬼退散!」
ショウの背後に巨大な赤髪の童子の幻影が浮かび上がり、その小さな掌が空亡の幼体を優しく、しかし抗いようのない力で押し潰した。
「えへへ、主様の呪文、すっごく気持ちいいね! これならどんな悪い子も、福の神に勝てっこないよ!」
無邪気に笑うショウの足元で、現代の闇が浄化の光の中に消えていく。
【後書き:ショウ】
主様、はじめまして!
赤熊のショウだよ。
四国の山から、主様の美味しい匂いに誘われてきちゃった。
アタシがいる家は、お金も食べ物もいっぱいになって、みんな幸せになれるんだよ。
だから、主様の『百鬼夜行』も、アタシがいれば絶対に負けないよ!
それにしても、この街は『不運』がいっぱい落ちてて、お腹が空いちゃうな。
でも主様が一緒にいてくれるなら、アタシ、全部『福』に変えてあげる。
ご褒美は……そうだなぁ、最近流行ってる『タピオカ』っていうのが食べてみたい!
約束だよ、主様!
次はどんな楽しいことが待ってるのかな?
ショウ、楽しみで髪の毛がもっと赤くなっちゃいそう!




