第四話:猫の歩みと廃道の火花
地下廃隧道に吹き荒れる絶対零度の風。
ミズキの放つ冷気は、一つ目入道たちの足元を次々と凍結させ、その無機質な行進を停止させていく。
「露払い(つゆはらい)は任せて。……これ以上、不浄な視線を主に向けさせない」
ミズキが細い指先を振るうたび、巨大な氷柱が虚空から飛来し、異形の瞳を粉砕していく。
だが、中心に鎮座する「空亡の卵」の脈動は、むしろ激しさを増していた。
「あはは! 派手にやってんね! アタシも混ぜてよ!」
頭上から降ってきたのは、軽快な笑い声と、赤黒い炎の渦だった。
天井の配管を蹴って現れたのは、二本のしなやかな尻尾を揺らす少女。
耳元で跳ねる火車のような髪と、挑発的に光る緑の瞳。
彼女が着ている革ジャンの背中には、血のように赤い「死」の文字が刺繍されていた。
少女が空中で一回転すると、その爪から放たれた烈火が、凍りついた一つ目入道たちを一気に焼き尽くす。
「……猫又のコハクか。相変わらず、主君の命令を待てない性分だな」
凛が呆れたように呟く。
コハクと呼ばれた少女は、俺の目の前に着地すると、猫のようなしなやかな動作で顔を近づけてきた。
「命令? そんなの、アタシの『野性』が許さないって。それより、アンタが新しい主様? くんくん……ふーん、いい匂い。千年前より、なんだか美味しそうじゃん」
「コハク、無礼だぞ。今は戦いの最中だ」
俺が制すると、彼女はぷいっと頬を膨らませた。
「固いこと言わないでよ、晴明サマ。アタシがここに来たのは、あの中央にある『卵』を壊すため。……あいつ、アタシの縄張りだった路地裏の猫たちの魂まで喰いやがったんだ」
コハクの瞳に、鋭い殺気が宿る。
彼女は猫又。死体を操り、地獄の火車を駆る、葬列のあやかした。
現代では「死」の匂いに敏感な情報屋として、裏社会の隙間に潜んでいたのだ。
「いいだろう、コハク。お前の火で道を焼き払え。卵の殻を破る好機を作るぞ」
「了解! 主様の頼みなら、地獄の果てまで焼き尽くしてあげる!」
コハクが二本の尾を激しく交差させると、周囲の温度が一気に跳ね上がった。
氷と炎、相反する属性が混ざり合い、地下空間に猛烈な水蒸気が発生する。
「レン、風を送れ! 水蒸気で奴らの視界を完全に奪う!」
「任せて! アタシの旋風で、一気に押し流すよ!」
レンの風が霧を加速させ、巨大な白い壁となって空亡の卵へと迫る。
その視界の空白を突いて、俺は懐から最大級の霊力を込めた「破邪の符」を取り出した。
「急急如律令! 浄化の光よ、闇の核を穿て!」
俺の放った光の矢が、霧の奥に潜む卵の殻に直撃した。
パキパキと不気味な音が響き、現代の絶望を詰め込んだ黒い殻に、一条の亀裂が入る。
だが、そこから溢れ出したのは、これまでの怪異とは比較にならないほどの、圧倒的な暗黒の霊圧だった。
「……来るぞ。本当の絶望が」
卵の中から、数多の腕が生え、現代の「欲望」を形にしたような黒い巨影が這い出そうとしていた。
【後書き:コハク】
おっまたせー!
アタシ、猫又のコハク様だよ!
ついに主様と合流しちゃった。
凛の姉さんは「ツン」が強すぎて可愛くないけど、アタシはもっと素直に甘えちゃうからね。
主様の匂い、なんだかお日様みたいで落ち着くんだ。
それにしても、あの「卵」……マジでムカつく。
アタシのダチ(猫)たちの魂を返してもらうまでは、この地獄の火は消さないよ。
さーて、次はいよいよ中身のお出ましかな?
アタシの爪が、あいつの顔をズタズタにするのを楽しみにしててよね!
それじゃ、また次の話で会おうね!




