第十話(最終話):夜明けの百鬼夜行
俺の掲げた白銀の剣が、新宿の空を切り裂いた。
「黎明の万華鏡」……それは、東洋の陰陽道、西洋の魔術、そして何より仲間たちの絆を一つに束ねた、奇跡の光だ。
「おのれぇぇ! 壊れろ、消えろ、晴明!」
道満の叫びと共に、八岐大蛇の八つの首から一斉に滅びの光線が放たれる。
しかし、俺の剣が放つ光はそのすべてを飲み込み、逆に奴の体を浄化の炎で包み込んでいった。
「道満、お前が信じたのは死者の怨念だ。だが、俺が信じたのは、今を生きる彼女たちの命だ!」
俺は光の奔流と共に、オロチの核へと突っ込んだ。 凛の炎が道を切り拓き、ショウの福が敵の加護を奪い、エリザベートの影が敵の動きを封じる。
全員の想いが、俺の指先に集結する。
「急急如律令! 全ての因果をここに断つ!」
一閃。
白銀の刃がオロチの心臓を貫き、道満の扇を粉砕した。
瞬間、新宿を覆っていた漆黒の虚無がガラスのように割れ、凄まじい光が世界を白く染め上げた。
……気がつくと、俺は朝日が差し込み始めた新宿の路上に立っていた。
街は静まり返り、道満の姿も、巨大な蛇の影も、どこにもない。
ただ、そこには俺を囲むように、共に戦った少女たちが立っていた。
だが、異変に気づく。
凛の頭から狐耳が消えていた。
リリスの背中の翼も、レンの鋭い爪も、ミズキを包んでいた冷気も、すべてが霧散していた。
「……主。霊力が、消えていくのがわかるわ」
凛が自身の髪に触れながら、寂しげに、しかし晴れやかな顔で言った。
空亡という現代の闇を完全に消滅させるための代償。
それは、この世界から「怪異」そのものを消し去り、霊力のない、ただの人間たちの世界に書き換えることだったのだ。
「あはは……。アタシ、ただの女の子になっちゃったみたい」
レンがスケートボードの上でふらつきながら笑う。
ショウもコハクも、エリザベートもリリスも。
皆、異能を失った普通の少女として、そこに立っていた。
「……これで良かったのだな、晴明」
道満の最期の言葉が、風に乗って聞こえた気がした。
俺自身の体からも、陰陽師としての力は失われていた。
もう呪符を操ることも、五芒星を描くこともできない。
「ああ。これからは、呪いも福も、自分たちの手で作っていく時代だ」
俺の言葉に、凛が歩み寄り、俺の手を握った。
かつての主従としての契約ではない、温かな人間の体温が伝わってくる。
「……主。いや、晴明。これからどうする? 私たちはもう、貴方の式神ではないけれど」
俺は空を見上げた。
千年前には見られなかった、ビル群の隙間から昇る輝かしい朝日。
「決まっている。俺たちは、この新しい世界を歩いていくんだ。今度は、普通の人間としてな」
隣を見れば、普通の女子高生やギャル、留学生のような姿になった彼女たちが、賑やかに笑い合っている。
最強の陰陽師と、美しき妖怪たちの戦記はここで終わる。
しかし、一人の青年と、個性豊かな少女たちの「日常」という名の新しい百鬼夜行は、今、ここから始まったばかりだ。
【後書き:安倍晴明(人間)】
ついに終わったな。
まさか、最後にこんな結末が待っているとは。
術も、霊力もない。ただの人間になるというのは……。
思ったよりも、体が軽くて気持ちがいいものだな。
凛も、みんなも、なんだかんだで今の生活を楽しんでいるようだ。
コハクは猫カフェでバイトを始めたし、ショウは宝くじ売り場の看板娘だ。
ミズキは相変わらず冷たいが、最近はアイスクリーム屋で働いているらしい。
読者諸君。
俺たちの物語に最後まで付き合ってくれて感謝する。
もし、君たちが街の雑踏の中で、妙に輝いている少女たちを見かけたら。
それは、かつて夜を駆け抜けた、俺の大切な仲間たちかもしれない。
それじゃ、またいつか。
新しい夜が明ける、その時まで。




