朝食の席にて ~第1回 家族会議〜
前世の担任、現世の兄のベッドで泣き疲れ、ボク達は不覚にも二度寝してしまったようだ。
大泣きするような、ましてや中学にもなっても兄離れ出来ない甘ったれでもなかったハズだけれど。
ハリーとして転生して、この家で歳相応に育ったからこそ、自然と子供らしい振る舞いが身体に馴染んでいるのだろう。
コージーにはジジくさいと思われている節があるのは知っているけれど、ボクとしては十分に歳相応だ。
差し込んできた朝日に照らされて二度寝から目覚めたボク達は、一旦部屋で着替えて、連れ立って朝食の席に向かった。
“記憶の雷”で三人共に前世の記憶が戻ったと報告しないといけない。
切り出すタイミングは食前がいいか、それとも後か。寧ろ食事中にさり気なく話題にするのはどうか。
ヒソヒソと三人で話しつつ食堂のドアを開ける。
既にそこには両親が居た。……居たのだが。
テーブルの配置が、何時もと違う。
普段なら大きめのテーブルの左手に父母が隣合って座り、向かいに子供三人という形で朝食がセットされている。
しかし今朝はまるで何処かの会議室のように、コの字型にテーブルが出されていて、向かって左手の席に母が、上座で父が、手を組んで肘をついた状態で席に着いていた。
食事は、まだテーブルに置かれていない。
「ゲン〇ウポーズ……」
カール兄さんのボソッとした呟きに、あぁコレがそうなのかと思いつつ立ち止まっていると、普段と違う状態に戸惑っていると判断されたのか、使用人に席まで案内された。
母の隣に兄。対面にボク達双子が着席すると同時、使用人が水の入ったグラスを持ってくる。
父が水を含み、一息。顔を上げて、ボク達三人に穏やかに眺める。
「おはよう、三人共。そしてコージー、ハリー。誕生日おめでとう。」
「「ありがとう、父さん」」
返礼に顔を緩ませたのは一瞬。父は、また顔を伏せてしまった。言い辛そうに、口を開く。
「……こんな目出度い日なのに申し訳ないんだが、実はな、父さん、昨夜の“記憶の雷”で前世の記憶を思い出したんだ。」
父さんもか!…っと心中で突っ込む。
父は顔を僅かに上げ、言葉を続けた。
「“記憶の雷”の影響を受けた者は、神殿への報告を推奨されている。なので、仕方ないが。うん、仕方ないが、今日。誕生日を祝う為に予約してある店でのディナーの前に、出発を早めて神殿へ行ってもいいかな?」
何で泣きそうな顔をしているのか。いや、知ってる。
家族を溺愛するこの父は、毎年誕生日プレゼントを選ぶという名目で、家族で買い物に出掛けるのを楽しみにしているのだ。
ただでさえ普段は単身赴任の身。要するに、神殿への報告に行く間、家族との時間が減るのがイヤなんだな。
ボクは兄さんに目配せする。
先程までのやり取りで、ここは年長のカール兄さんが代表で三人の現状を伝えた方がいいだろうと決めていた。
タイミングとしては、食事前はボク達の誕生日の話題が出るだろうから、食後一段落してからのつもりだった。
けれど、“記憶の雷”の話題が出たなら、今のうちに言っておくのが良いだろう。
「父さん、実は僕達からも“記憶の雷”に関して報告があります。その、僕達三人も、昨夜の雷で記憶を思い出しました。」
「…………なんだと!?」
明らかに動揺して、三人を何度も何度も見回した後で、父は何とも言えないくらい眉間に皺を寄せた情けない顔で、母に目を向ける。
そう言えばボク達が入室してきた時から、母は何の反応もしていない。
コージーの対面に座っているのだから、表情は見える。
何時もと変わらず和やかな微笑みの母は、父の発言の時も変わらず微笑んでいた。
てっきり先に報告を受けていたからだと思っていたけれど、ボク達三人の話は初耳な筈だ。
動揺は無くても驚いたりしそうなところなのに、母は微笑んだままなのだ。
「えっと……セリーヌちゃん……」
父の声が、弱々しく母に向けられる。
「うーん、これじゃ『パパが心配だからワタクシもご一緒するわ作戦』は出来ないわねぇ。子供達三人も報告対象なんですもの。あらあら、どうしましょ?」
ピンと伸ばされた人差し指を頬に添え、まるでイタズラがバレた子供のような顔で母が言う。
「子供達に前世バレしないように、なんてフェアじゃなかったわね。それが三人とも記憶持ちって言うなら尚のこと。この際だから自己紹介、しちゃいましょうか。」
まさか母までも?いや、ボク達は何故か名前に名残りがあった。母の名前も日本人の名前としてはおかしくないけど、そうなれば前世は男、なのか?
今ある情報を纏めようとする中で、無慈悲に告げられたその名前。ちょっとだけ目の前が真っ白になったのは許して欲しい。
「ワタクシ、前世の名前は“芹沼 絢志”、芸名は“芹沼 アヤ”。
“アヤ様がゆく”でお馴染みの、カリスマ☆オネエタレントと言ったらわかって貰えるかしら?」