マッケンジー家の父
朝日が射し込む寝室で、愛しい妻の寝顔を眺めながら起きる。……そんな幸せは、今日は来なかった。
何時もは私より遅く起きる妻が、既に居ない。
いや、妻もたまには早く起きる事だってあるだろう。今日は双子の誕生日なのだし、もしかしたら何かの準備をしているのかもしれない。
ただ、今日は特に、彼女に隣に居て欲しかった。
私はジョージ・マッケンジー。
このマッケンジー家の家長であり、王城で一文官として働く34歳だ。
昨夜の酷い雷雨の中、馬をかっ飛ばして単身赴任先から帰り着き、ふと思い出して“記憶の雷”の話を子供達に話したばかり。
よもや自分が“記憶の雷”の影響を受ける側だとは思いもしなかった。
私の記憶にあるのは城島 謙二というアラフォー男の記憶。
とある人気タレントのマネージャーで、妻子も結婚歴も無いが、長年付き合っていた『恋人』が居た。
実は仕事を前倒しにして2人で数週間の休みをもらい、海外で挙式予定をしていたのだ。
あの子も一緒に事故に遭ったのは覚えているが、どうなったのだろうか。
使用人は居るが、着替えを任せる程の高貴な身分でもないので、自分で身繕いをして部屋を出る。
記憶の中の『恋人』と、記憶が戻る前の妻一筋な気持ち。前世の話だから浮気ではない。ないのだが、しかし罪悪感が酷く、落ち着かない。
今は一刻も早く、妻に会いたかった。会って共有したかった。
食堂へと続く廊下を曲がった時、丁度向かいから妻が来るのが見えた。厨房で何やら指示を出していたようだ。
その姿を見て、悲しいやら愛しいやら、複雑な感情のまま駆け寄って、ひしと抱き締める。
「うぅ……愛してるぅぅぅぅ」
「あらあら、どうなされたの?何時もはまだ、起きていらっしゃる時間ではございませんでしょう?」
私は妻に“記憶の雷”で前世の記憶が戻った事、そして
『自分の恋人が男だった事』を打ち明けた。
「あら!そんな事でしたの?」
「へ!?」
「丁度良かったわ。ワタクシも、貴方にどう伝えようかと思っていましたの。」
愛おしい妻からの暴露話を聞いて、自分の記憶が戻った時以上のショックを受けて、ちょっと遠い目をした私は。
妻にその背中を、実に愉しそうに引っ叩かれたのだった。