プロローグ 〜ケンジとケンジ〜
興味本位で初めて投稿。
短編にするつもりがアレコレ考えてたら短編じゃなくなってしまってどうしましょう……
予定は未定ですが、よろしくお願いします。
「番組の途中ですが、臨時ニュースが入ってきました。」
呑気な昼時の生放送番組の途中、慌ただしく入ってきたスタッフが差し出した原稿を確認したアナウンサーが、信じられないと言った顔を慌てて取り繕い、それでも取り繕えなかった硬い声で原稿を読み上げる。
「先程、東京都内で歩道に乗用車が突っ込み、多数のケガ人が出ているとの情報です。
事故のあった歩道では人気番組『アヤ様がゆく』の収録が行われており、通行人や見物客も多く、タレントの芹沼絢さん、修学旅行中の中学生を含む数名が意識不明の重体で都内の病院へ搬送されたとのことです。
重傷・軽傷者はかなりの人数に登るとみられ、警察が事故の詳しい状況を調べています。」
「アヤさんもですが、修学旅行中のお子さん達の親御さんの心を思うと心配ですね。」
思わず口元を覆う女性タレントと、悲壮な顔の中年コメンテーター。
事件の報道は瞬く間に速報で伝えられ、あまりに絶望的な状況に、多くの人々が1人でも多く助かりますようにと、知らず祈っていたのだった。
―――――――――――――――
オレの名前はコージー。今日で6歳になるマッケンジー家の次男だ。
バリバリバリバリッ……ズッドドーン!!
まだ薄暗い子供部屋。
長男のカール兄さんは、一人部屋を貰ったから子供部屋には居ない。
響いた轟音と共に、知らない記憶が流れ込んでくる気持ち悪さに目を覚ましたオレは、隣のベッドで同じ顔をしている双子の片割れに気づいた。
「……なぁ、ハリー。もしかして“記憶の雷”の影響、受けてたりする?」
“記憶の雷”とは、この国の物語で語られている、魂の記憶を呼び起こす雷の事。
物語だけでなく、実際に稀にある事らしい。
『我が家は“記憶の雷”の影響で前世の記憶が戻る男児が産まれやすいらしくてね。
男の子の三兄弟だし、もしかしたら誰かが前世の記憶持ちかもねぇ』
双子の誕生日は何がなんでも直接祝うんだと、単身赴任先から1週間の休みをぶんどって雷雨の中を帰ってきた父さんが、頭を拭いながら稲光を見て語っていたのはつい昨晩。
まさかホントに前世を思い出すとは思わなかった。
オレが声を掛けた事で、ビクリと肩を震わせたハリー。でもすぐに何かに気付いたようで恐る恐る、こちらに顔を向けてきた。
「その言い方、もしかしなくてもコージーも?」
「うん。あ、ハリー。中身オッサンとか、お婆ちゃんとか言わない?」
「何でオッサンとかお婆ちゃんだと思ったのさ」
ハリーは普段から子供とは思えないくらいにジジ臭い。そしてちょっとお堅い。
遊ぼうとしても本ばかり、それも図鑑とか雑学本とかを読んで、お手伝いさん達からお婆ちゃんの知恵袋的に扱われてた。5歳だったのに。
『ジジ臭いから』とは言えず、「なんか普段の趣味が大人みたいだったから?」と誤魔化した。ジト目で見られた。
まだ早朝4時。夜明けまではまだ2時間くらいある。
混乱はしてるけど、前世を思い出した興奮みたいなのはなく、まだ眠い。
とりあえず朝になったら両親に相談するしかないか、と二度寝を決め込み布団を被った時だった。
何か考え込んで反応がなくなった隣りのベッドから、ボソリと声が聞こえた。
「…………小島 健児?」
!!!??
ビックリして飛び起きる。
「な、なんで、オレの名前………??」
ハリーの口から出たのは、前世のオレの名前だ。
「やっぱりか」
蟀谷辺りを押さえながら、目をキツく閉じたその動作に既視感がある。
自分の記憶が繋がるのと、ハリーの口から言葉が出てくるのは同時だった。
「ボクは同じクラスだった播磨 賢二だ」
……双子の弟の正体、生徒会長だったぽい。マジか。
修学旅行までは、同じクラスで下の名前が同じって事くらいしか接点(?)なかったんだけども。
旅行の班を4人組で組む事になったせいで、普段つるんでた5人組から一人溢れる羽目になり、ジャンケンで負けたオレは、この会長含むクラスの真面目三人組の中にボッチ参加とかいう、ツラすぎる班構成で修学旅行に参加していた。
まぁ、懸念してたより会長も、他の二人もよく喋ってくれたから助かったけど。……いや、気ぃ使わせてただけかも?
それよりも。
「やっぱあの事故でオレ達死んだのかな」
記憶の最後は、誰かが叫んだ『逃げろ!走れ!』って声と、突っ込んできた車がタレントのアヤ様や、近くに居た人達を跳ねながら向かって来る所。
オレ達の班は先生の指示出しの関係で最前列に居た。気付いた時には車は目の前で、逃げるとか以前に足が動かなくて、凄くスローモーションに見えた気がする。
車にぶつかる寸前に、先生が必死な顔で腕を引っ張って車の真ん前から逃がそうとしてくれて……間に合わなかったんだな。
「転生してるみたいだし、残念だけどそうみたいだね」
「そ……っか。転生してるんだし、そりゃそうか……」
心残り。いっぱいあったんだけど。
あれやこれや、仕方ないと割り切るしかないのに思い出して泣きそうで、言葉もなく……
「予想が合ってるなら、カール兄さんは刈間先生だと思う」
「………は?」
オレの感傷は、あまりに平坦な調子で告げられたハリーの一言に、容赦なくブッた切られたのだった。