Mとの出会い
『2021年7月31日』
気温は32度と残暑は厳しく、蝉の声も騒々しく感じる、そんな日だった。
「お疲れ!今日も頑張ろうぜ!」
駅から経営スクールの会場に向かう間で、同じスクールの生徒であるシモから声を掛けられた。
「お疲れ様です!頑張りましょう!」
僕は元気よくそのように返事をした。
僕は話すのが得意だが、苦手だ。
めんどくさいし、疲れる。
僕は仮面を持っている。
その仮面を被ったもう1人の自分が話す時、よく周りからは「Sさんは丁寧で人当たりがよく、とても話しやすいです。」と言われる。
このような好印象を抱かれるのは良いことだ。
だから外で人とコミュニケーションを取る時は常に"いい人"モードだ。
ただ家に帰った瞬間にその疲れはどっと来る。
そんな自分が嫌いだ。
経営スクールの会場に入ると、3人掛けの長机が横3列、縦10列に並んでいた。
各机の真ん中の席は空けてあり、1つの机に2人掛けの状態で、先に来た人たちがパラパラと座っている。
今日の参加者は50人ぐらいのようだ。
僕が通う経営スクールは、20,30代の人たちが多く、自分で事業をやっている人から大手企業のマネージャーなど多種多様な人が集まっており、経営について学んでいる。
この環境の中で際立っていたのは最年少の僕だ。
最年少だからか、周りの人に興味を持たれることが多かった。
「今どんな仕事してるの?」
「なんでその若さで経営スクールに通おうと思ったの?」
「将来は何を目指しているの?」
そんな質問がよく投げかけられた。
また講師にもよく気にかけてもらっていた。
講師は僕が尊敬する人で、この経営スクールの副代表兼講師である「佐瀬」という名前の人だ。
佐瀬さんは、身長は175cmぐらいで体格はかなり痩せ型である。カジュアルスーツで良く講義をしていて、人当たりも柔らかく、笑顔が素敵なイケメンだ。
「S君、おはよう!週末は何するの?」
いつもこのような形で僕に声を掛けてくれる。
「佐瀬さん、おはようございます!週末は新規の方4人とのアポが入ってます。その他はビジネス書を読んで自己研鑽するつもりです!」
「いいね!頑張って!」
このスクールの卒業要件として、新規の方100人とアポイントを取り、自分のビジネスについてプレゼンをするというものがある。
その一環で、僕は平日の夜や休日を使い、新規のアポとプレゼンを繰り返し行っていた。
「ありがとうございます!最速で卒業します!」
僕はそういい、佐瀬さんは笑顔で頷いた。
会場に着いて、僕は1番右の前から3列目のところに座った。いつもは1番前に座っていたのだが、今日は他の参加者で既に埋まっていたのだ。
受講の準備をするために、リュックサックからパソコンとノートを取り出していると横から声をかけられた。
「こちらの席って空いてますか?」
振り向いて見てみると、152cmぐらいで、ノースリーブのワンピースを着た小柄な女性がニコニコしていた。
一目惚れだった。
芸能人で言うと、広瀬すずをさらに幼くした感じだろうか。
「もちろん大丈夫ですよ。どうぞ」
隣の女性は「ありがとうございます」と小さく会釈をし、隣に座った。
そうこうしているうちに、講義の始まりの挨拶が佐瀬さんから為された。
「みなさん、本日もお集まりいただきありがとうございます。…」
正直、隣が気になって話の内容は入ってこなかった。
「それではいつも通り、まずは隣の方同士で自己紹介をお願いします。では始めて下さい。」
佐瀬さんの開始の合図と共に会場が騒がしくなった。
僕も横に体を向けて話始めた。
「よろしくお願いします。まずは簡単に私から自己紹介させていただいてもよろしいですか?」
「はい。お願いします。」
隣の女性はそう返事をし、僕は自己紹介を始めた。
「では。初めまして、Sと申します。私は現在、独立系SIerでSEとして活動しながら、教育事業を行っております。出身は埼玉の越谷市でレイクタウンはご存知ですかね?その周辺です。年齢は20です。趣味はビジネス書を読んだりすることです。どうぞよろしくお願いいたします。」
僕の自己紹介を終えると隣の女性は一言
「え、20なの!?30代ぐらいかと思いました!」
確かにスーツで講義に参加してたため、大人びて見えるのはわかるけど、流石に30代と言われたのは傷つくな〜と内心そう思ったが、隣の女性の満面の笑みを見たら、どうでも良くなった。
「あ、はい。大人っぽく見えるはよく言われますが、30代ぐらいと言われたのは初めてでした」
複雑な笑みを浮かべて僕はそう言った。
そのまま隣の女性の自己紹介を促す。
「では、自己紹介お願いしても良いですか?」
と聞くと「はい」とニコニコしながら頷き、隣の女性は話始めた。
「初めまして、Mです。仕事は看護師をしています。出身は埼玉の西の方で、年齢は24です。趣味は探し中です。何かオススメあれば教えて下さい!よろしくお願いします。」
終始ニコニコしながらMさんは自己紹介を終えた。
看護師やりながら、経営を学びに来てるのは珍しいな〜と思いながら、その日は佐瀬さんの講義を聞いていた。
…
講義終了後、思い切ってMさんにLINEを聞くと、2つ返事で了承してくれた。
「また後ほどご連絡させていただきます。」
そう一言伝えて、僕は会場を後にした。




