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【完結】神殺しの皇女外伝 -神代記-  作者: 埼山一
第四章 地底
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第99節 時限

 それからの二人のやり取りは実にくだらないものだった。


「――頼む! 役人だけは勘弁してくれぬか? 後生だから!」

「死人に後生なんてあるか。諦めろ」

「そこをなんとか!」

「えいくそ! 離せ! 邪魔だ!」


 終始こんな感じで、すがり付くトラノヲと振りほどこうとするムジナ。

 そしてこの章もない攻防の結果……


「――おお。ありがたい! この恩は忘れぬぞ!」

「うるさい。オレの気が変わらないうちにさっさと()ね!」

 結局、トラノヲの執念に根負けしたムジナは彼を役人に突き出すことを諦めたのだった。


 そして時は流れ……




「むっ? ……くっ!」


 今日もまた一人森の中に入っていたムジナは、自分の手を苦々しい目で眺めていた。


「くそ……ダメか……」


 ムジナは一度方の力を抜くと天を仰いでいだ。

 手が思うように動かないのだ。

 最近こういうことが増えた。

 おそらく、オオトリから貰ったこの仮初(かりそめ)の体の限界が近づいているのだろう。


「未だ手がかりはなし。時間もなし……」


 時と引き換えに手に入れた物は、焦りと言う名の何の役にも立たない気持ちだけ。

 嫌な汗がジワリと背中を湿らせるこの感じ。ムジナは一度目を閉じて気持ちを落ち着けた。


 いっそのこと、侍女神(じじょがみ)あたりになにもかもを正直に打ち明けて神器(じんぎ)を譲ってもらうか?――そんなバカげた案すらも頭から離れなくなっている。


「いや。諦めるな。まだ終わったわけじゃない」


 ムジナは自らを奮い立たせると、その勢いのまま森を出た。


 ところでムジナ。今の彼には宮殿に自分の部屋があるにもかかわらず、なぜこんな森に入っていたのか?

 それは彼の性分にあった。

 彼は長年一人でやってきた狩猟の影響で、人の作った部屋にいるよりもこうして自然に囲まれている方が、気分が落ち着くし思考も冴えるのだ。

 そんなワケだからムジナは一人になりたい時は決まって森の中にいるのだが……


「おう。貴様か。また会ったな」


 ムジナが森を出ると、即座に声をかけてきたのはトラノヲだった。


「なんだ。またお前か……」


 ウンザリしていることを隠そうともしないムジナ。


 このトラノヲ。

 例の出会い以来、どういうわけだか何かにつけて会う機会が増えていたのだ。しかも胡散臭いのも相変らずで、何を生業としているのか分からないのも相変わらず。会って嬉しくなるような相手ではないのだけは確かだった。


「用なら聞かん。さっさと自分の仕事に戻れ」


 大して嬉しくもない出会いに、シッシッと追い払いにかかるムジナ。

 しかしトラノヲは、


「そう言うな。相変わらずつれない奴だな。それに、今のおれは次の仕事に向かう途中。貴様に言われずとも、ちゃんと仕事はしておるわ」


 と、相変わらず中途半端に尊大な物言いで絡んでくる。

 ムジナはそんなトラノヲに冷たい目を向けた。

 この男、自分は農夫だとか紹介おきながら、畑にいるのをまったく見たことがない。

 それどころか、こうして宮殿の周りをうろちょろしているばかりで、そもそも仕事をしているようにはとても見えないのだ。


「そうか。だが、お前の仕事なんぞに興味はない。さっさと去ね」


 そう言うが早いか、自分の方からトラノヲに背を向けたムジナ。

 するとトラノヲは……


「本当にそれでよいのか? 貴様にはもう時間がないのだろう?」

「―っ!?」


 彼が投げかけたその言葉は今かつてないぐらい、ムジナの胸に突き刺さったのだった。


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