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【完結】神殺しの皇女外伝 -神代記-  作者: 埼山一
第四章 地底
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第88節 虚無の中のムジナ

 ――ここはどこなのか?

 ――今はいつなのか?


 ムジナはもう何度目になるのか分からないぐらいに、同じ問いを繰り返していた。

 自分は確かにオオトリに一矢お見舞いした。そしてその直後、オオトリの火に焼かれ、死んだ。

 それが、どうしてここにいるのか分からないまま、もう何日も……いや。もしかしたら何年も、このわずかな光すらも見えない空間をふわふわと漂っているのだ。




「ようもやってくれたのう、人の子よ」

「誰だ……」


 何処からともなく声がして、ムジナは応えた。


「誰だ、とな?ほほ……誰とはようも言うたものよ。妾の急所を寸分違わず射抜いておきながら、よう申したもの……妾の心ばかりの返礼の味、どうであった?」

「お前……オオトリか……」

「ほほ……まあ、そのように呼ぶ者も居るな」


 ムジナの問いに、オオトリはあっさりと正体を明かした。


「ふん。本当の名は別にあると言うことか」

「ほほ……さあて、どうであろうな。仮にそなたの言う通りであったとしても、それをそなたに明かす理由もなかろう」


 ムジナの推測に、小馬鹿にしたように答えるオオトリ。


「何しに来た?」


 嗤いに来たのなら好きなだけ嗤え。そう続けたムジナ。

 ムジナは、狩りの最中にこの鳥と目が合っていたのだが、その時予感した性根の悪さをそのまま体現したようなオオトリの態度だ。

 ムジナには、こんな奴の相手、まともにするだけ時間の無駄だとしか思えないのだ。

 しかしオオトリはクスリともせずに言う。


「いいや……実はそなたに折り入って頼みたい事があって来た。引き受けてくれるな?」

「どうしてオレがお前の頼みを聞かねばならない?」

「どうしてとは……これはまた……ほほほ……」


 ムジナの問いに、オオトリは微笑んだ。静かに。しかしとんでもなく深い憎悪の念を込めて。


「妾はそなたの矢のおかげでいささかも力を失ってしもうた……罪は償わねばならぬ。それが世の道理と言うもの……」

「そうか」


 オオトリの答えにムジナは頷いた。

 この鳥の言う「力」とやらがどんなものか知らないが、自分の放った矢がオオトリにかなりの手傷を負わせていたことは間違いないようだ。

 それだけでも命を懸けた甲斐があったと思うムジナだが……


「だが断る。他を当たれ」

「っ!?」


 しかしムジナは突っぱねた。

 相手が並の存在ならば、話を聞いてやるぐらいのことは受けてやる気にもなれた。

 しかし、相手はこのオオトリだ。今の態度もそうだが、初見の時からどうにも信用してはならないような気配を纏っているように見えてならないのだ。


「……そうか……ではこうしよう」


 断られたオオトリは、色々葛藤していたようだ。

 しかしかなり間をおくと、そんなことを言い出して。


「……これは?」


 懐かしいような、当たり前のような感覚に驚くムジナ。

 これまでふわふわとこの虚空を漂うことしかできなかったムジナの体に、以前のような重さと力感が戻っていたのだ。

 そして何もない空間の中、それでも地らしき面に降り立ったムジナを待ってからオオトリが言う。


「これは妾が与えた仮初めの体よ。そなたへの贈り物じゃ」

「なぜオレに?」

「なぜと言うこともあるまい。それは対価よ。わらわの頼みを聞いてくれることへのな……」

「断れば、オレはまたふわふわに逆戻りってわけか」

「そういうことじゃ」


 予想した通りのオオトリの答えに、ムジナは交渉を続けることにしたのだった。


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