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【完結】神殺しの皇女外伝 -神代記-  作者: 埼山一
第四章 地底
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第87節 宰相神

「宰相様がそこの方をミズチ様だと確信できない理由。それはおそらく、宰相様が人であることに原因があるのだと思われます。」


 そう言って部屋に入ってきたのは侍女神だった。


「じ、侍女神……。」


 突然の来訪に驚き戸惑ったミズチ。


「ごきげんようミズチ様。その後、お加減はいかがですか?」

「お?……う、うむ。まあまあと言ったところだが……。」


 ミズチはしどろもどろになって答えた。

 最期に侍女神の姿を見たのは、ミズチが地上に上がる前。ミズチの求婚を断ることしか出来なくて、嘆き悲しむあの姿だった。

 なのに今の彼女は、そんな過去などなかったかのように堂々としたもの。

 今日までの間に何があったのか?その心境の変化にミズチは別の驚きを感じずにはいられなかったのだ。


「侍女神様。何かご存じなのですか?」


 戸惑うミズチを余所に、宰相がそう尋ねた。


「はい。わたくしの予想でしかありませんが。」


 そう答えた侍女神。

 それから彼女は、見る者によってミズチの正体がまちまちになってしまうその理由を語りだしたのだった。




 侍女神の推理は次のようなものだった。

 彼女曰く、人と神とでは物の見方が違うのだそうだ。人は目を通して相手の形を見るが、神は五感のすべてを用いて相手の魂を見るのだ、と。




「そうなのですか?」

「ええ。神は時として姿を変えるものです。ならば魂そのものを見なければ、形が変わる度に誰だか分からなくなってしまう。それでは困るでしょう?」

「なるほど……」


 宰相は納得した。確かに自分は目だけでミズチを見極めようとしていた。

 だからその目が使えない状況になった時だけ、そこにいるのがミズチだと感じることができたのだ。


「その論に従えば、私も目に頼らなければ神の真似事のようなことが出来ると言うことなのでしょうか?」


 宰相は冗談半分に目を閉じてそう尋ねた。

 目が使えなければ、他の感覚に頼るしかない。

 なるほど。確かにこうしてみると、自分の傍にミズチと侍女神がいるような気がする。

 すると侍女神は、


「いえ。真似事、と言うより、貴方は既に神そのものになっていると思いますわ」

「え? ハハ、また御冗談を」

「いいえ。冗談などではありません」

 戯れと受け取った宰相に、侍女神は真面目な顔で答えたのだった。




 宰相は確かに元々人の身であるが、ここに来てそれなりに長い。

 そしてその間ずっとミズチと侍女神と言う、天津神(あまつかみ)の中でも屈指の神格を持つ二柱(ふたはしら)に親しく接していたのだ。

 そんな宰相であればこそ、時と共に彼らの神威(かむい)が乗り移って人から神に近づいていてもおかしくはなかった。


「ですが貴方の様子を見る限り、まだまだ神としては半人前。今後一層精進なさるのがよろしいと思いますわ」

「あ……はあ……」

 突然の神格扱いされて、戸惑うしかない宰相だった。


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