第83節 地底王の目覚め
「むぐ……。」
アラダマノホデリノミズチが目を覚ますと、そこに見えたのは見たことのある天井だった。
(ここは……そうか。戻ってきたのだな。)
己の置かれた状況を即座に理解したミズチ。
彼は妹神・トヨハラノホオリヌシに謀られたのだった。
地下の奥深くに広がる謎の洞に居ついて国造りに励んでいたミズチは、妹神に誘われるまま地上に上がり、そして壮絶な死闘の果てに敗れ、命を落としていた。
今ミズチが寝ている場所は自らが建国した、死せる者が集いしクニ「ネノ国」の宮殿の一室だった。
(我がクニが、死者が集う地に建てたものだと知ってはいたが……。)
ここが、死んだ者がやって来る地だと言う話は本当だった。――理解しているつもりだったが、まさか自分自身が実験体となって立証することになろうとは思ってもいなかったミズチ。
彼は、それまではネノ国で唯一の生ある存在だった。
(……まあ良い。なにはともあれこうして帰ってこれたのだ。)
色々な想いが交錯し溢れ出そうになっていたミズチは、深いことはなるべく考えないようにした。
生を捨て、ついに死者となりにけり。――考えたところでどうにもならない問題だった。
それに、この地に国を建てた張本人でありながら、自分自身は生者だということにある種の引け目のようなものを感じることもあったのだ。
そう考えれば何を悔やむことがあろうか。
「誰か。誰かおらぬか?」
ミズチは人を呼んだ。
どのようにしてこの場所で寝るに至ったのかは分からなかったが、ともかくこうして国主が目覚めたのだ。
部屋に人の気配はなくとも、誰かしらは外に控えている。そう思うのも当然だった。
しかし――
(声が……出せぬ。)
なぜ?――困惑するミズチ。
「ァ、ァ……ァー。」
試してみると、まったく出ないわけではなかった。しかしいつもの調子でやろうとすると、自分の耳にすら入ってこないほどに声が小さくか細い。
いや。それどころか……。
続いてミズチは横たわったままの体を起こした。いや。起こそうとした。
(体が……思うに任せぬ。これは一体どういうことじゃ?)
面妖な。――自身の身に何が起きているのか全く分からないミズチ。
いつもの調子で体を起こそうとしてもモゾモゾと視界を揺らすのが精いっぱいなのだ。
生まれて初めて迎えた自らの死と言うことで、勝手が分からないところでもあるのだろうか?
しかし、それにしたってこれは……。
「おや?お目覚めでしたか。」
そんなふうにミズチが難渋していると、気付かないうちに部屋に入ってきた者が一人。
彼は難しい顔をしてそう声をかけると、ミズチの傍らに立った。
彼はこのクニの宰相。ミズチが唯一「友」と呼ぶ人物だった。




