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【完結】神殺しの皇女外伝 -神代記-  作者: 埼山一
第三章 神殺しの皇子
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第81節 人の悲叫と神の怒声

『あ……ああぁぁぁぁ……。』


 遥か背後から聞こえてきた大悲叫に、オオトリはチラリと一度だけ振り返った。


(人の子よ……愚かな……。)


 そしてまた前を向いたオオトリ。

 もはやオオトリには、ヒムカイに対して何の未練もなくなっていた。

 あのヒムカイが如何にオオトリのお気に入りであろうと、そこはやっぱり人の子に過ぎないのだ。

 だからおいそれと天津神(あまつかみ)に触れようとするなど、とても許されることではなかった。


 それからオオトリは己が胸にある傷跡に目を向けた。

 矢傷。――体が炎上するという災いに襲われたムジナが、それでも放ったあの一矢はすでに燃え尽きて失われている。

 しかし……。


(あの下郎匹夫(げろうひっぷ)め……忌々しい……。)


 すでに塞がった傷を見て、一撃を受けたあの瞬間のことを思い出し、歯噛みするオオトリ。

 まさかたかだか人の子の分際で、この至上にして至高の天津神である自分に弓引く者があろうとは。

 予想外の事態に対応を誤った。オオトリはそのことを自覚していた。

 あの男の存在に気が付いたあの時、奴に弓射る隙すら与えずに消し炭にすることだってできたのだ。

 しかしオオトリはそれをしなかった。

 おのれの誇りとか矜持とか、オオトリの中にあるそう言う天津神として譲れないものが、あの愚かな反逆者を楽に死なせることを良しとしなかったのだ。

 しかしその判断は痛恨の報いとなって返ってきた。


(おのれ……またしても妾の計画に狂いが生じようとは……。)


 腹の底がムカムカイライラしてきて表情が険しくなるオオトリ。

 実はムジナの矢。この矢は彼が思っていた以上にオオトリに大きな痛手を与えていたのだ。


 人の弓矢でつけられた傷など傷の内にも入らない。――追ってくるヒムカイから逃亡していた当初、オオトリはそんなふうに高を括っていた。

 しかしこの矢傷はいざ治癒しようとすると、中々どうして思うようにいなかったのだ。


(……?これは一体どういうことじゃ?)


 訝しんだオオトリ。

 しかしその疑念はすぐに晴れた。

 ムジナの放ったこの矢。よくよく見てみれば、オオトリの心臓のど真ん中、急所中の急所とも言える箇所を寸分違わず綺麗に貫いていたのだ。

 いかに天津神だろうと心臓を貫かれて生きていられる道理はなし。

 そんなわけで本来ならば死に至るこの傷を放置しておくわけにもいかないオオトリは、必要以上に神威(かむい)を消費してしまい……。


「コァーッ!!神威っ!神威が足りぬっ!妾が天に還るのに必要なだけの神威がっ!」


 あれだけの苦労をしてようやくミズチから奪った神威をふいにしてしまった。

 オオトリのやり場のない怒りが虚空へと消えていた。


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