第79節 交点(六)
怒れるオオトリが彼方へと飛び去ったあと。
地上では、あまりの事態に呆然としていたヒムカイがやっと我に返ったところだった。
「ムジナさま! 」
炎の勢いに耐えきれず倒れたムジナに駆け寄るヒムカイ。
「待ってて!今火を消します!」
ヒムカイはそう言うが早いか地面を掘り始めていた。
土。ここには、火を消すのに使えそうなものは、思い付き限りそれしかなかった。
「すぐに……すぐに消しますから……。」
爪の間に土が入り込むのも気にせず、無心になって掘り続けるヒムカイ。
否応なしに鼻を突いてくる嗅ぎたくもないようなおぞましい匂いに抗うためには、ヒムカイはそうやって無心になるしかなかった。
しかしそんなヒムカイにムジナは言うのだ。
「オレのことはいい!それよりもオオトリを……!」
「でもこのままじゃ――!」
火に巻かれてもなお、自身のことよりもオオトリを捕えることを優先しろというムジナ。
そんな相手からの進言に、ヒムカイは悲鳴にも似た声を上げて反論するのだ。
しかしムジナが引き下がることはなく――
「いいから構うなっ!貴女は貴女にしかできないことをやるべきなんだ!妹をっ――!!」
「っ!」
妹。その言葉を聞いたヒムカイは言葉を詰まらせた。
そうだ。自分たちはそのためにオオトリを追ってこの深く危険な森の奥深くに足を踏み入れたのだから。
「妹を……クシナダのことを頼む!」
「……はいっ!」
瀕死になっておなお力強さを失わなかったムジナの言葉に、ヒムカイは頷いた。
そしてすっくと立ちあがると、迷くことなくオオトリ目指して駆け出したのだ。
その一方で、オオトリは。
――ええい。忌々しい。この妾が、人の子風情に手傷を負わされるなど……。――
オオトリは己の胸に深々と突き立った矢の重みに耐えながら、天空を飛んでいた。
――くっ……邪魔じゃ!この……浅ましき者より放たれた不浄の矢めが!――
怒るオオトリだったが、矢は抜けそうにもなかった。
どうあっても抜くことができないのならと、炎で焼き尽くそうともしているのだが、そうしようとする度に傷が痛んで思うように進んではいなかった。
――ふう……ふう……くぅっ……。――
空を征く。炎を操る。たったそれだけのことにこうも苦戦することになろうとは。
オオトリは自身一生の不覚に腹がたつやら情けないやら。今まで経験したことのないような惨めな気分に苛まれていた。
――それもこれもすべては……ぐっ!――
地を這って生きる賎しき者が、こともあろうに天上の神に牙を剥いたことがすべての原因か。
その前に、天上へ昇る前に人の子に逢ってやろうなどと酔狂な考えさえ持たなければ!
――いや!そんなバカなことがあるものか!妾の意向はすべてに勝るのじゃ!すべてはあの人の子が悪い!――
オオトリは気の迷いを一喝して振り払うと、いつの間にか落ちていた高度を上げるために羽ばたいた。
しかしこの時のオオトリはまだ気付いていなかった。
高度を維持することすらままならない自身の身体。それがいったい何を意味しているのかということを。




