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【完結】神殺しの皇女外伝 -神代記-  作者: 埼山一
第三章 神殺しの皇子
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第78節 交点(五)

 たかが人の子風情が、分際も(わきま)えずにこのオオトリに弓引いた。――激情に()られたオオトリにとって、反逆者に神罰を下すのは至極(しごく)当然ことであった。

 人間一匹が神に刃向かう。それも神中の神とも言える天津神(あまつかみ)が相手ともなれば、そこにいかなる理由があろうとも極刑は免れることは出来ない。

 それがオオトリの絶対に(ゆず)れない論理だった。

 しかしそれはオオトリの犯した重大な過ちだった。

 彼女は気付いていなかったのだ。ムジナが一体どれほどの覚悟をもってこの狩に臨んでいたのかと言うことを。

 死など恐れはしない。死の向こう側にさらに恐ろしいことが待っていようと甘んじて受け入れよう。

 その覚悟が出来ていたムジナは、己が全身余すことなく炎に包まれてもなお集中を切らさなかった。

 そして彼はオオトリが視線を切ったその一瞬の隙を狙って矢を放ち、その矢は瞬く間にオオトリの胸部へと吸い込まれるように飛んで行き、その結果が――




「――ッコォー……!!」


 この流麗美躯(りゅうれいびく)のどこにそれだけの大声を出す力があったのか。

 そう思えるほどのオオトリの絶叫がこの夜の森に響き渡っていた。


(ふふん。やはりな。オレの見立てに間違いはないか。)


 初めて聞くオオトリの声に、山鳥(やまどり)のそれを連想したムジナ。

 今や絶望と死の炎に包まれた彼だったが、それでもオオトリの胸に深々と突き立った矢を見て、笑みを浮かべる余裕さえある。

 ムジナは思った。

 あとのことは同行のヒムカイに任せればよいのだ、と。

 あの勇気と友愛に(あふ)れた娘ならば、どんな手段を使おうと必ずやオオトリをクニへと持ち帰ってくれるはず。

 そして妹の身代わりとして、この怪鳥(かいちょう)亡骸(なきがら)を邪神への(にえ)とすれば、事はすべて丸く収まるのだ。

 そう思えばこそ、ムジナは自分自身が燃えていることなどそれほど大したことでもないと思うことができていたのだった。




 しかし、ムジナはそこで妙なことに気が付いていた。

 仕留めたはずのオオトリが一向に倒れようとしないのだ。


(どういうことだ?)


 一度は解いた緊張を再び(まと)ったムジナ。

 ムジナの放った矢は確かにオオトリの胸のど真ん中。奴の心の臓を深々と貫いているように見える。

 にもかかわらず、奴は天に向かって絶叫したのみで、その後どうにかなるような様子もない。


「……。」


 ムジナは、自身が動けなくなってしまう前にもう一矢(いっし)撃ち込もうと矢筒に手を伸ばしていた。しかしその時――


――やってくれおったな!この虫めが!――


 天を向いたっきり動く様子のなかったオオトリが、突如ぐわっと姿勢を元に戻すと、悪鬼(あっき)の如き形相(ぎょうそう)でムジナを(にら)みつけたのだ。

 そしてムジナが行動に出る隙も与えず、焦炎(しょうえん)神威(かむい)を宿した瞳で云う。


――もはや何も言うまい。虫は死ね!――

「――なっ!?うわあっ!」


 さらに激しく大きく燃え上がったムジナの身体。

 こうなってしまえば、もう弓も矢も使い物にはならなかった。


――くっ……。せっかく奪った兄上の神威じゃと言うに、こんな所で消耗することになろうとは……。――


 そう吐き捨てたオオトリは、もはやこの地に用はないと見たようだった。

 何の迷いもなく翼を広げると、そのまま飛び立ったのだった。


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