表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】神殺しの皇女外伝 -神代記-  作者: 埼山一
第三章 神殺しの皇子
76/114

第76節 交点(三)

 オオトリは、少し離れた木立(こだち)に人の子の気配があることに気付くと目を細めて喜んだ。


(ほほ……よう来た……ほほ……。)


 澄まし顔でいようとしても(ほお)(ほころ)びがどうしても(つくろ)えないオオトリ。

 しかしそれも仕方のないこと。オオトリは待っていたのだから。あの日出逢った人の子と再び相まみえるこの瞬間を。


(もっと。もっと近う寄るがよい。苦しうはない。)


 しかしオオトリがそう言うことはなかった。

 まさか自分のような尊き存在が、()()()()()()()()()の人の子にそこまでしてやるわけにはいかないのだ。

 だからオオトリは何も気づいていない振りをして、人の子の方から近づいてくることを身悶えしそうなほどに望むのだ。


(ほほ……なんとまあ()いものよ……。)


 オオトリは未だ姿を見せようとはしない人の子に何とも言えないいじらしさを感じていた。

 考えてみれば、オオトリが地上に降りてからというもの、(ろく)な者に会った(ためし)がなかった。

 会う者会う者。その(ことごと)くがオオトリに対する畏敬(いけい)の念に欠ける奴ばかりだったのだ。


(わらわ)は唯一にして至上の大御神(おおみかみ)が一子。だというのにこの地に蔓延(はびこ)蛮族(ばんぞく)どもときたら……。)


 無礼。不躾(ぶしつけ)不敵(ふてき)

 地上界――天界よりはるかに稚拙な文化しか持たぬ最果ての地とはそういうものだとは分かっているつもりのオオトリだ。

 しかし分かっているつもりでもやはりやんごとなき存在を自負するオオトリには耐えられないことだった。

 だからこそ、今そこにいる人の子のように自分の前に姿を(さら)す事すら(はばか)っているかのような態度を取られると、嬉しくてたまらなくなるのだ。


(ほほ……愛いのう……。ほれ、苦しうない。早う妾にその姿を見せて見よ……。)


 久しく感じていなかった自尊心が満たされる心地よさに身を委ねるオオトリ。




 他方(たほう)、オオトリを発見し臨戦態勢へと入った人の子たちはといえば――


(お願いします。神様。どうか……どうかご加護(かご)を……。オオトリを()らせてください……。お願いします。神様。どうか――)


 木立の影に隠れたヒムカイは、ただひたすらにこの一世一代の大獲物が成就することを祈り続けていた。

 今、ヒムカイは一人だ。さっきまで傍にいたはずのムジナはもういない。

 彼はオオトリを狩るために一人移動を開始していたからだ。

 実はムジナ。彼はクニで一番の腕利きの狩人だった。

 そのムジナが成功必至の距離内にオオトリを収めている。これはもう勝利は約束されたようなものだった。

 しかしそれでもヒムカイは、この一心不乱の祈りをやめようとは思わなかった。

 なぜなら自分にはもうそれしか出来ることがないから。

 自分の役目はムジナをオオトリの元に案内すること。

 無謀としか言えないその任を、奇跡的にとは言え果たすことができた今、彼女に出来ることは祈ること。それしかなかったのだ。


(お願いしますオオトリ!くーちゃんを!くーちゃんのために死んで!)


 ヒムカイは祈り続けていた。

 (にえ)となり死に行く運命(さだめ)を負った親友を救うため。

 猶予(ゆうよ)はない。親友が地の底から(よみがえ)りし邪神にその命を(ささ)げなければならない日はもうすぐそこに迫っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ