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【完結】神殺しの皇女外伝 -神代記-  作者: 埼山一
第三章 神殺しの皇子
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第72節 オオトリの門出

(ほっほっほ……。よし。これだけの神威(かむい)があれば、再び天界に舞い戻ることもできようのう。)


 地上に残されたミズチの(むくろ)がいよいよ熱を帯び始めて、ついに炎を上げ始めた頃。

 オオトリはようやくのことでついさっきまで兄神(兄神)だったその骸をついばむのをやめ、その場を離れた。


(ふん……それにしてもこの肉のなんと不味(まず)いことよ。(みずち)の如き見た目に反して不味いことこの上ないとは……。)


 そう悪態をついたオオトリの(くちばし)は赤黒く染まっていた。

 その様子はかつて天上一などと(うそぶ)いていた頃の壮麗優美(そうれいゆうび)さなどは微塵(みじん)もない。

 しかし、今のオオトリがそんなことに気を留めることはなかった。

 今、オオトリが気にしているのは次に復讐(ふくしゅう)すべき相手のこと。 今この瞬間も天上でぬくぬくとしている神々のことだ。


(見ておれ。あの忌々(いまいま)しい下賤(げせん)八十神(やそがみ)どもめが。あやつらが忘れようとも(わらわ)は決して忘れてはせぬ。卑劣なる計略を用いて妾を(おとしい)れ、天界より追放せしめるとは……。……ああ口惜しい!妾が天界へと立ち返った(あかつき)には、真っ先にあの天上の(あくた)の如き(ともがわ)を駆逐し、真の天界構築への第一歩としてくれよう。)

 (くらい)い笑みを漏らしたオオトリ。

 オオトリは常々考えていたのだ。――天界には自分だけがが居ればそれでよいのだと。あの神々しくも暖かな光を放つ母神(ははがみ)でさえも、自分の足下に(はべ)りかしづくのであれば残してやっても良いのだとも。

 真の天界に在るべきはホオリヌシとオオミカミのみ。自分たち娘母神(おやこがみ)の二柱がいれば、その威光をもって下界を(あまね)く照らすことなと造作もなき事。そこに有象無象の輩が入り込む余地などないのだ。

 ――これこそがオオトリの考える真の天界の姿だった。


(ほほ……母上よ。今までようもお独りで勤めて来られた。しかしその勤めも間もなく終わりますぞえ。我らが理想の天上を完成させる為、ホオリヌシが今そちらへ参りますゆえな。)


 オオトリは、いざ天へ参らんと翼を広げ、飛び立とうとしていた。

 だが――


「……。」


 オオトリはせっかく広げた翼を羽ばたかせようとはしなかった。


(ふむ。再び天へと昇ってしまえばもうこの地に来ることはあるまい。)


 何かやり残しはないだろうか。そんなことを考えたオオトリ。

 どれだけ思い返してみても、この地には忌々(いまいま)しい思い出しか出てこない。

 しかし、それでもこの地上はオオトリが生まれた『始初(はじまり)の地』であることもまた事実だ。このまま(いたずら)に離れてしまってよいものだろうか?


(ふむ………そうよのう。ならば最後にあの童どもの顔でも見ておこうか……。)


 結局大したことも思いつかなかったオオトリは、いつだったか遭遇した二人の人の子のことを思い出していた。

 オオトリの神々しさに見惚れて放心していたあの二人の人の子。

 一度ならず二度までもこの姿を見ることが叶う幸運に恵まれたあの二人は、一体どういう顔をするだろうか?――まったくの余興のつもりでそう決めたオオトリは、いよいよ翼を広げると今度こそ飛び立ったのだった。


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