表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】神殺しの皇女外伝 -神代記-  作者: 埼山一
第三章 神殺しの皇子
71/114

第71節 黄泉津道

「おのれ……。おのれおのれおのれおのれ!おのれぇいっ!如何(いか)に!如何に油断していたとは言え、まさか人の子に後れを取ろうとはっ!」


 ミズチは(ところ)定まらぬ暗闇の中をただひたすらに()ちながら、自身の不覚(ふかく)激昂(げっこう)していた。

 どれだけ悔やんでも悔やみきれない。

 なぜ自分は、あの不遜(ふそん)な態度を取る人の子の都合にいいように立ち振る舞ったのか?

 なぜ妹神(いもうとがみ)が小細工やら入れ知恵やらをする前に無力化してしまわなかったのか?


「ええい!あのような者、さっさと殺してしまえばよかったのだ!あのような妹、さっさとただの鳥にしてしまえばよかったのだ!」


 無礼討(ぶれいう)ち。(しつけ)。そうするだけの理由なんていくらでもある。なのにそうしなかった。

 今となっては意味を為さないことを延々と繰り返し悔やんでは、腹の底が煮えくり返る想いのミズチ。

 堕ち続けるミズチのその魂が、死者の国へとたどり着くまでまだかかりそうだった。




「終わった……。我は死に(たも)うたのだ。」


 終わりの見えない暗闇。怒ることにも堕ちることにも飽いたミズチは、ふとどうしようもない空虚(くうきょ)な気分に襲われていた。


「ははは……可笑(おか)しなものよ。天上の貴子(きし)だ、地底の王だと(ほこ)ってみたところで、結局行き着くところはこれなのだからな……。」


 死。

 それはその者の貴賤(きせん)に関わりなく、生者に等しく訪れる終焉(しゅうえん)(とき)

 これまでの生涯(しょうがい)で関わってきた者と言えばそのことごとくが死人だったミズチだったが、それだけに自分もまた彼らと同じ存在になれたことが、どこか嬉しくもある。


「……思えば中々面白き生涯であったよなあ。何の因果(いんが)か分からぬが、母神(ははがみ)嫡子(ちゃくし)であるはずなのに地上の棄子(きし)として生を受け、そして(なげ)(もぐ)った末に行き着いたのは死者の国。それだけでも数奇(すうき)だと言うのに、よもや我がその国の主となろうとは……。大切な(ひと)にも()えた。頼れる宰相殿(とも)にも逢えた。ははは……。こうして思い返してみれば、道半(みちなか)ばで(つい)えたとは言え、我が生涯も中々捨てたものではないのではないか?」


色々な思い出が脳裏(のうり)に浮かんでは消え、浮かんでは消え……。

それは正しく走馬灯(そうまとう)のような光景だった。



 ミズチが己の死を動かしがたいものとして受け入れようとしていると、ふと思い浮かんできたのは大切な女のことで。


侍女神(じじょがみ)……侍女神か。」


 ミズチはその姿を思い浮かべて温かな気持ちになっていた。

 侍女神。あの姉のような、母のような、齢上ぶっているくせにどこかぽーっとしていて、自分が死んでいたことにすら気付いていなかった天界より堕ち来たりし、ミズチの想い人。

 聞けば、彼女もまた妹神・オオトリの奸智(かんち)の果てに殺害されたのだと言う。


「そうか……。我らは同じ炎によって討たれたのか。」


 業炎の神・ミズチと樹木の神・ククチの身に降りかかった()しき運命。

 火炎と樹木の神が同じ炎によって殺されるなど、そうそうあるものではない。

 ましてやミズチは業炎の神。熾火(おきび)程度の炎しか操れぬオオトリに討たれるなど本来ならば考えられないことでもある。


「はは……何とも奇妙な縁があったものよ。結ばれることはないと嘆いておったはずなのに、こんな形でつながりが持てようとはな……。」

「すまぬ侍女神よ。我らが兄妹のせいで、そなたにはつらい思いばかりさせてしまった。しかし安心せよ。我ら兄妹はもうそなたには近づかぬ。それがわしに出来るせめてもの償い……。」

「ただ、せめて最後にもう一度だけあの笑顔を見ておきたかった。それだけが心残りよなあ……。」


 はるか先に淡い光のようなものが見える。それがこの長い死の落下の終点なのかどうかはまだ分かりようがない。

 しかしミズチにはあの光の先には帰るべき場所があることがはっきりと分かっているのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ