第7節 地中のおっきな蛇と天上のウワバミ(鳥)
ミズチは突然空から降ってきたこの女の処遇をどうしていいか分からず成り行きに任せていると間もなく女が目を覚ました。
「あら?」
ムクリと体を起こしたそれは、きょろきょろとあたりを見回して、
「ここはどこかしら。」
と何とも場違いなほどに緊張感ない声で言う。
こちらに気付くこともなくあたりを散策でもしようというのだろうか、ときおりミズチの身体に寄りかかるように手を突いては歩みを進める。
ミズチを樹木か壁だとでも思っているのだろう。
「……おい。」
「はい?」
ミズチの呼びかけに女は振り向きはするものの、己の寄りかかっている壁が話しかけているとはつゆほどにも考えなかったのか、声の主の姿を認められぬと首をかしげて、
「あら、気のせい?」
と言った。
「おい。」
「はい?」
再びの呼びかけに反応はするものの先と同じように、
「う~ん?」
と首をかしげるばかり。埒が明かぬと見たミズチは鎌首をもたげて今一度呼びかける。
「おい!」
「はい?ひ、ひああああ……。」
声の主の正体を認識した女は先程聞いたような声を上げる。
先だっての妙な音はこれが空を裂いて落ちてくる音ではなく、叫び声だったようだ。
「お、おっきな蛇……。」
腰を抜かしてミズチの方を指さすと女はそう言った。
女の不遜な態度と物言いにカチンときたミズチは、しかし怒りをこらえて諭す。
「おい、女。それは失礼であるぞ。我は太陽神のこぼせし雫より生まれ落ちた御子神なるぞ。その名をアラダマノホデリノミズチ。」
「ア、アラダマノ……?ま、まあ。太陽神様の御子神。それは大変な失礼をいたしました。わたくしは太陽神様にお仕えせし侍女神にございます。」
居住まいを正した女の答えにミズチは大層な関心を抱いた。
「ぬう。うぬは母神に仕えし侍女神だと申すか。」
「はい。太陽神様には大変よくしていただいております。」
「それで、何故このようなところに参られたのか。」
(ぜひ聞きたい。もしや母神が我を憐れんでこの者を使わしたのか。)
「……。」
しばしの沈黙の後、侍女神は首をかしげると、
「……なんででしょう?」
「分からぬのか。」
「はい。」
「ではどのようにしてここに来たのかも?」
「分かりません。」
なぜ来たのかどうやって来たのかも分からずにこの地にやって来た。
深刻な事態のはずなのだが、この侍女神、どうもそういった気配を感じさせない。
「それで、あなた様はここで何を?ここはどういったところなのでしょう?」
己にも分かっていない目的やこの場所について侍女神から問われたミズチは何と答えたものかと困惑した。
知恵神から授かった策は極めて単純なものだった。
――友神はオオトリと酒を酌み交わし友好を結べ。――
太陽神の御子神であるオオトリは母神と同じように、過ぎたる酒を与えれば前後不覚になり口が軽くなる。そこで友好の証として余人には言えないような秘密を交互に教え合うのだ。
はじめ、こんなことで上手くいくのだろうかと思われたがやってみると、オオトリは呑むは呑むは、見ていて心配になるほどの勢いで酒をあおった。
(この呑み様は、確かに太陽神様の御子神であらせられる。)
太陽神様も神酒を大層好まれ、呑みすぎを死んだ侍女神に咎められることが多かった。
程なくしてオオトリがへべれけに酔っぱらうのを見計らうと、
「どうであろうか、オオトリ様。こうして酒を酌み交わしたことで我らの友誼は深まりました。そこで、更なる友好の証として余人には漏らせないような秘密を交互に言い合うというのは。」
と持ち掛けた。
「余興じゃのう。」
「如何にも、余興にございます。」
「ん~……。」
ニコニコとして答えると、オオトリが考え込んでいるのか間が空く。
表情はそのままに、
(肯じろ!)
と強く念じる。
「……まあ、よかろう。」
(かかった。)
「それでは、まず某から……」
先手を取ることでさらに信用を勝ち取る。
ここからが正念場だろう。うまく真相を聞き出せるだろうか。




