第68節 神威簒奪
※ご注意
本節には一部グロテスクな表現が含まれています。苦手な方は読まないでください。
「ほほ……。ふ……ふほほほほほ……。」
タケハヤの神滅の一刀を見届けたオオトリは快哉の声を上げていた。
(やった。やりおった。あの人の子、見事あの荒神めを弑りおったわ。)
目の前にあるのは己が目すらも信じられない光景だ。
二つの尾を失ったミズチの体は、己が内に宿している炎に耐えきれなくなったのか、ブスブスと煙を上げ始めているではないか。
この様子なら如何に無限の再生能力を見せつけてくれたミズチと言えど、もはや死を迎えたのは確実だろう。
おそらく、そのまま放っておけば内側から炎が噴き出して、その体を焼き尽くすはずだ。
(おおっと、いかん。こうしてはおれぬ。)
オオトリは当初の目的を思い出すと、急速に熱を持ち始めているミズチの骸の傍に降り立っていた。
(ほほ……散々手を焼かせてくれおったが、こうして妾の力となるのであれば、それもまあ赦してやろうではないか……。)
これが勝者の余裕と言うものなのだろう。あのオオトリが、憎しみの対象でしかなかったミズチに赦しを与えていた。
しかし、その程度のことなど、これからオオトリがやろうとしていることに比べれば驚くようなことでもなく……。
「……。」
オオトリは何も言わずにミズチの体にその嘴を突き立てていた。
そして兄神の肉をむしり取るとそのまま飲み下す。
ずぶ、むしゃり、ごくり。ずぶ、むしゃり、ごくり。ずぶ、むしゃり、ごくり……。
体の内側から神威が湧き上がってくるのを確かに感じるオオトリ。
神が他の神から神威を奪うと言うことは、即ちそう言うことだったのだ。
一口食らうごとに、兄の肉がオオトリに新たな神威を与えてゆく……。
(ん?)
視線を感じたオオトリは、兄神だった物をついばむのをやめていた。
――なんじゃ、人の子。早う去ね。――
そう言って、タケハヤを睨みつけたオオトリだ。
もうこやつに用はないのだ。
やむなく人の子と共闘する道を選んだとは言え、用の済んでしまえばもう対等でもなんでもない。
いつまでもこうしてそこに居続けるようならば、兄神ともども始末してくれても良いのだ。
しかしタケハヤは……。
「申し訳ない。」
と、相変わらずの礼儀正しさを発揮してオオトリに頭を下げていた。
「……御神鳥よ。取り返しのつかないことをしてしまいました。畏れ多くも貴鳥より賜りし神剣を損ねてしまったのです。」
――なんじゃそのようなこと。その剣はそなたに呉れた物。どうなろうともはや妾の預かり知るところではない。――
「いや、しかし。」
――黙れ。その剣はもはや妾の物ではないと言った。それとも何か?まさかそなた。妾が一度下賜した剣に執着するような浅ましき者だとでも申すつもりか?――
「な!?とんでもない!そのようなこと……。」
――ならば妾の機嫌を損ねぬうちに去るがよい。妾は人の子に見られることを好かぬ。――
そうして、タケハヤに興味を失ったオオトリは再びミズチの体に嘴を入れようとするのだった。




