第67節 神殺しの皇子 其之十六 神殺し
「があああああああっ!」
ミズチは吼えていた。
熱い。一体、我が身に何が起きたと言うのか。それがどうしても分からないミズチ。
あの時、ミズチは剣を構えて落下してくるタケハヤを確かに吞み込んでいた。
ミズチの胃袋は強靭だ。呑み込んだものが例え煮えたぎる鉄だろうとたちどころに溶かし尽くしてしまう。
それがなぜこんなにも苦しいのか。
「う……うおっ、うげえっ!」
ついに耐え切れなくなったミズチは胃の中の物を吐き出していた。しかしその中に、呑み込んだはずのタケハヤの姿はなく。
吐瀉物の中から見つけられたのは飲み込む時にミズチの牙に触れたせいで折れてしまったタケハヤの剣の切っ先だけ。
『でやあっ!』
その時、聞き覚えのある気合が聞こえていた。聞こえてくるのはミズチの腹の中からだ。そしてその気合は二回、三回と繰り返されて、そのたびに体の内側から湧き上がってくる強烈な痛みに身もだえるミズチ。
「ぐおおっ!これはなんとしたことか……!」
刺すような痛みに襲われるたびに吐き戻そうとするミズチだが、もう胃の中から出て来る物など胃液ぐらいのものしかなく……。
「う、うがあぅ!」
一際激しい痛みに襲われたミズチが腹を見せてひっくり返ると、その腹が裂けていた。そしてその中からタケハヤが出て来るではないか。
「っぶはぁっ……!ふう……はあ……。」
タケハヤは脱出に邪魔な腹肉を押し退け圧し退けすると、やっとのことで大地に立っていた。
「ええい!さすがにこれは死ぬかと思ったわ!」
タケハヤは文句を垂れながら外の世界の空気を目いっぱい吸っている。
そしてその上で、手にした神剣を無念そうに見つめているのだ。
(ええい!御神鳥の加護のおかげか、呑まれてもあやつの血肉にならずに済んだは良いが、まさか吞まれる際に当たった牙で神剣が欠けてしまうとは……。)
何たる失態。痛恨のタケハヤだ。
オオトリから授かった神剣は切っ先から一尺ほども欠けてしまっている。おかげでミズチの内側にいた時も上手く刃が立たずに、脱出にひどく手間取ってしまったのだ。
しかし今はそんなことに気を取られている暇はない。
見れば、ミズチは未だ裂けた腹が治らずに苦しみ悶えているばかりなのだから。
「ふふ……。いかに不死の大神と言えど、腹を裂かれてはただでは済まぬと言うことか……。」
そう独り言ちたタケハヤはミズチが立ち直ってしまう前に残りの尻尾を斬り落とすべく速やかに動いていた。
「大地を割るほどの力を持った偉大なる大神よ。貴神に恨みはないが、わしは人の世のためにそなたを討たねばならぬ。」
「――人の世に仇成す業炎の大神よ。我が全身、我が全霊の一撃を以て永久の眠りへと就き給へ――」
「――弑し奉る。」




