第66節 神殺しの皇子 其之十五 降下
(もはや同じ轍は踏むまい。)
オオトリに落とされたタケハヤは落下しながら、己の愚かさを反省していた。
(短慮が過ぎた……。まさかあの怪物を相手に正面から挑もうなどと。)
こうして空中か見てみればよく判る。
あの邪神の恐ろしさが。
あやつの周囲は見るも無残な地形に変わり果てていたのだ。小さな人の身ではまっすぐに立っていられる場所など、もうどこにもない。大地と言う大地がすべてズタズタに引き裂かれているではないか。
いとも簡単にこんなことができてしまう者を相手にしておきながら、「正々堂々」なんて考えるのは、いくらなんでも思い上がりが過ぎるのではないか?
(己の誇り?これから手にする栄光に傷がつく?馬鹿な!そんなものは全部勝って初めて意味を成すものではないか!)
自分の考えの甘さを嗤うしかないタケハヤだ。
格好つけるな!泥臭くてもいい!とにかく目の前の勝ちを拾え!勝利の先にある栄光は勝って初めて意味を成すのだ。
(食らうがよい邪神よ!このままこの神剣を突き刺してくれる。)
落下の勢いに乗じて剣を構えていたタケハヤ。
タケハヤは気付いたのだ。いかにあの邪神の尻尾の表皮が硬かろうと、その中に隠された肉まで硬いという訳ではないということを。
(刺す。そして斬る!すなわちわしの勝ちじゃ!)
この勢いを利用すれば突き刺すことは容易だろう。
そして一度刺してしまいさえすれば、引き抜きざまに硬い表皮の中の柔らかい肉を切り裂いてやることができるのだ。
しかし――
邪神の燃え上がるような六つの目が、一斉にタケハヤのことを見ていた。
(気付かれた!なぜじゃ!?)
慌てるタケハヤ。今までミズチはタケハヤの居場所に気付いたような素振りは見せていなかった。
いや、そもそもこの大火災の中ではミズチの目は碌に機能しないのではなかったのか?
『愚かなりし人の子よ。燃える地を這っておれば我はうぬを見つけられずにいたであろう。しかしうぬがわざわざ空に上がりおったおかげで、我は容易にうぬを見つけることができたわ。さあ、これで終わりじゃ。我が腹中に納まるがよい!』
そう吼えたミズチは大口を開いて向かってくるタケハヤを待ち構えた。
(ええい!構うか!その顎ごと尾まで斬り落としてくれる!)
覚悟を決めたタケハヤ。今は自由落下の最中で、ミズチの尾を狙うしかできない身。気付かれれば、奴の牙を躱すことなどできるわけがないのだ。
「これが最後の勝負じゃ。荒神よ!わしのそなた。生き残るのはどちらか。雌雄を決しようではないか!」
こうして今、ミズチとタケハヤ。神・人の決戦に決着の時が訪れようとしていた。




