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【完結】神殺しの皇女外伝 -神代記-  作者: 埼山一
第三章 神殺しの皇子
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第65節 神殺しの皇子 其之十四 転落

 地が揺れていた。地が裂けていた。それも自分を中心にした狭い範囲の大地だけが。


「な、なんとおっ!?」


 立っていることすらもままならない事態にタケハヤには成す術がなかった。

 そうでなくても、まだミズチに弾き飛ばされた衝撃から体の感覚が戻っていないのだ。そんな状態でこんなわけのわからない事態に対処できるわけがなかった。


()まれるのか!?このわしが!大地に!?)


 珍しく心の底から焦ったタケハヤ。広がり続ける裂け目に、成す術がなかった。

 そして――


「ああっ!」


 ついに足が大地から離れると、タケハヤは中空の人となってしまっていた。


「うおおおっ!」


 体を支える大地を失い、絶望のあまり叫ぶタケハヤだ。自分はこのまま大地の底へと落ち、骸となり果てるのだろうか?しかし――


――ええい、落ち着かぬか人の子よ。そう暴れるでない。それ以上暴れるようならば、今すぐ放り出しても良いのだぞ。――


 タケハヤのすぐ頭上から聞こえてきたのはオオトリの声だった。オオトリははごく冷静な口調で、慌てるタケハヤを諭していたのだ。


「ご、御神鳥(ごしんちょう)!」

 その声に、自分が今どういう状況にあるのか悟ったタケハヤ。

 タケハヤは大地の裂け目に呑まれたのではなく、呑まれ寸前に、オオトリによって天高くに運ばれていたのだ。

 しかしそのオオトリは、タケハヤの呼び声が気に入らないらしく……。


――何が御神鳥じゃ、まったく……。あのまま火の中に潜んでおれば、いくらでもあやつの隙を窺えたものを……。――


 血迷いおって、この()れ者が。――こんな奴、助ける価値が本当にあるのかと問いたげなオオトリだ。

 しかしオオトリにしてみれば、せっかく自分が神威(かむい)を絞り尽くして隠れ蓑となる火災を起こしてやったにもかかわらず、あんなふうに真正面から挑もうとされたんじゃ、そう言いたくなるのも無理はないと言うもの。


――よいか。あの荒神(あらがみ)めは妾ですら太刀打ちできぬ無二の破壊神じゃ。それを、いかに妾の加護を得たとはいえ、そなたのような人の子が真正面から立ち向かって勝てる道理などない。――

「しかし、わたしは……。」

――黙り居れ下郎!しかしも案山子(かかし)もないのじゃ。忘れるな。妾と、そなたと、そして人の子の世。我らはもはや一蓮托生(いちれんたくしょう)の身となったのじゃ。そなたの失敗は人の世の死であり、妾の死。そなた、よもやそれを理解しておきながらあのような軽挙に出たのではあるまいな?――

「いや、それは……。」

――ふん。そうであろうな……。それが分かっていてなお、あのような無謀に出るそなたでもあるまいよ……。――


 言葉を詰まらせたタケハヤに、オオトリが(あざけ)り半分にその愚かさを(ゆる)していた。


――よいな、人の子よ。今の妾は人を掴んで飛べるだけの大鳥に過ぎぬ。そしてその力も、使うほどに体が縮み、やがてただの鳥となる。見よ、今の妾を。――

「……あっ!?」

――分かったであろう。今そなたを助けたことで、妾はもうそこらの大鳥と変わらぬほどに縮んでしまった。もう何があろうとこれ以上そなたに手を貸すことは適わぬ。――

――そして、そなたに与えた加護もやがて失われる。よってこれが最後の機じゃ。今を逃したらそなた、たとえあの荒神の攻撃を(かわ)せたとて、周りの炎に(あぶ)られて死ぬることになる。そのことをゆめゆめ忘れる出ないぞ。――


 こうしてオオトリの助力によって九死に一生を得たタケハヤ。

 彼はそのままミズチの死角に降ろされると、最後の決戦に挑もうとしていた。


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