第63節 神殺しの皇子 其之十二 タケハヤ
「大神よ!弑し奉る!」
辺り一面を火の海に――オオトリの策が功を奏し、混乱したミズチの隙を突いたタケハヤ。
タケハヤは神剣を振りかざすと、気合と共に一閃。振り下ろしていた。
ガツンッ――重く引き締まった感触が剣を通して伝わってくる。首を斬った時よりもはるかに現実的な手応えに、これこそがかの邪神の本体かと確信したタケハヤ。
「でぃやあっ!」
タケハヤはミズチの肉に阻まれて勢いの落ちた剣が止まってしまう前に、渾身の力を込めて振り抜いていた。
ググッとした重い感触がスパッとした空を切った感触に変わって――
「うおっと!?」
勢い余ったタケハヤは体勢を崩していた。
「やったか!?」
そして見上げるタケハヤ。見ると、尾を失った邪神が苦しそうな咆哮を上げていた。
(うむう……御神鳥の見立ては真であったのか。)
尻尾こそが邪神の本体。――オオトリのその助言に偽りはなかったと知って、不敵な笑みをこぼしたタケハヤだ。
(……まあ、そのぐらいの役には立ってもらわねば、割に合わぬと言うものだが。)
実はタケハヤ、あの鳥に自分が利用されていることぐらい、最初から分かっていたのだ。
しかしそれでも従順な僕を演じていたのは、先も述べた通り、あの自称・天津神の見せた不思議な力を我が物としてやろうと考えていたからなのだ。
そもそも、「人語を喋る鳥」など、それだけでも生け捕りにして献上するだけでも我が君の覚えがめでたくなると言うもの。生け捕りが難しかったとしても、あの美装だ。
だからタケハヤは、オオトリのことを存在そのものに価値がある見てその隙を窺っていたのだ。
そしてそういう思惑の結果、火に巻かれても死なぬ体躯と、天上の名剣を手にしていたタケハヤだ。
本来ならば、その二つを手に入れた時点でこの不審な鳥を生け捕るか殺すかして我が君に献上したかった。だがしかし、目の前の大蟒蛇が人の世を終わらせる存在だと聞かされているだけに、その虚実を見極めるまでは迂闊に逃げることもできずに不本意ながらも戦い続けていたのだ。
そしてその結果得られた答えが――
(間違いない。こやつ、人の世を終わらせるだけの力を持っておる。)
それが分かってしまった以上、逃げ出すと言う選択肢はなくなった。
要らぬ助平心を出したせいで、とんでもない災厄に巻き込まれてしまったタケハヤだったが、そこで諦めたり腐ったりしないのがこの男だ。
(逃げても世が滅んでしまえば同じこと。ならばわしがすべきことは一つ。ここでこの邪神めを討取り、天下の大英雄として世の誉を受けることよ!)
そしてその野望成就も、あと一太刀というところまで迫っているのだ。
これが笑わずにいられようか。
「邪神よ!これも己が運命と思し召して、恨み召されることなかれ!そなたのこと、我が伝説の第一章として、永遠に語り継いで見せましょうぞ!」
タケハヤは、ミズチに残されたもう一つの尻尾の脇に回り込むと、そう言って剣を振りかぶっていたのだった。




